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【spin-off】bittersweet first love
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それから数ヶ月後、俺は大学生になり念願の一人暮らしを始める。
学生生活は理系学部の為か課題レポートなどで意外と多忙で、女子大に進学してサークルに入ったばかりの倉科とはスケジュールがかみ合わない。そのせいかめっきり会う機会が減っていた。それでも、付き合いが切れなかったのは程のいい『女性除け』になったからだ。細々でも彼女と会っている既成事実は女性関係に煩わされたくない俺にとって実に都合が良い。
...別に倉科と別れてでも付き合いたい女性がいる訳でもないし。
事実、自分から会いたいなんて女性は今の所皆無で、忙しさにかまけて倉科と会う時間が減りつつある状況はますますうってつけ。だが、俺の性格を俺以上に知り尽くしている田山がその関係に異を唱える。
「もう、倉科と別れちゃえば?」
「...何を今更」
約束もなしに俺のマンションに来て酒を飲んでいる田山には慣れた。田山はアルコールに少々弱いらしく、もう既に顔が赤くなっている。そのせいでいつもより踏み込んだ事を言われるのは無礼講だと思うが、人の恋愛観にまで口出しされる覚えはない。ジロリと睨みつけると田山と同様覚えたてのビールを煽る。俺の方はアルコールに強い体質なので、至って素面。聞き逃せるほど酔ってはいなかった。
「良いだろ、別に。高校時代にやたらと誰かに会わされるより今の方が全然マシ」
思い起こすと倉科は俺を友達に彼氏として良く紹介しようとしていた。そのおかげですぐに周知の事実となり、挙句の果てに高校の卒業式まで迎えに来いで、女子高の校門前での待ち合わせは晒し者扱いだった。
...でも、あの日は久々に高澤と会ったんだよな。
卒業式の後、卒業生らしき女生徒が校門を通りすぎたり、記念撮影をしたりしているを暇つぶしに眺めていたら、その中の1人が高澤だった。でも、人目があるから交わした言葉はたった一言。
「御守りのおかげで志望校受かったよ。ありがとう」
「...どういたしまして」
本当に他人行儀な会話だったが、今でもその時の情景はハッキリと覚えており、思い出すと飲んでいるビールが不思議と苦い。その苦いビールを口に含み感傷に耽っていると、田山がツマミのチキンを手に取りながら水を差す。
「...でさあ、来週の土曜日、暇??」
「は?」
どういう脈絡でそこにつながる?と疑問を呈すと聞いてくれよーと己の恋愛話を始めた。どうやら田山の恋愛に関係しているようだ。俺の知る限り、田山は比較的暇な文系に在籍し、入学早々サークルに入った。それはもちろん彼女作りの行動で、最近これはという出会いがあったらしい。
「...その天使ちゃんが!」
「天使ちゃん??」
聞きなれない単語に聞き返すと、看護学部の生徒だから『白衣の天使』で『天使ちゃん』と言う田山の隠語。その彼女について出会いから滔々と聞かされた。そこからようやくデートにこぎつけたのだが、2人で会うよりもう1人誰かを連れてならOKということらしい。そのダブルデートとやらに俺を巻き添えにしようとしているらしいが。
「断る。彼女いるし」
「そんなこと言ったって、もうOKしちゃった」
「そのもう1人の相手に悪いだろ?別のやつに当たれよ」
「...でも、倉科とはもう破局寸前じゃん」
本当のところを指摘され、ピクッと眉が引きつる。付き合いの長い田山はその図星をズケズケとつくことに容赦しなかった。
「...実際の藤澤の女性関係って倉科と高澤だけでつまんないよな。たまには他に目を向けたら?破局寸前の彼女に義理立てしたって仕方ないし。倉科だって他所で宜しくやってるよ、きっと」
確かに今の倉科に別の男の影が見え隠れしているのは事実だ。それならこちらから解放してあげる方が良いのかと、思えた。
「...そうかもな」
「そうそう」
チキンの油をお手拭きで拭いている田山の良いなりになるのは癪だったが、いつもこんな風に乗せられて彼の思う方向に事が進む。それが分かっていても嫌な気が全くしないのは、彼の人懐っこい人柄のせいだ。
学生生活は理系学部の為か課題レポートなどで意外と多忙で、女子大に進学してサークルに入ったばかりの倉科とはスケジュールがかみ合わない。そのせいかめっきり会う機会が減っていた。それでも、付き合いが切れなかったのは程のいい『女性除け』になったからだ。細々でも彼女と会っている既成事実は女性関係に煩わされたくない俺にとって実に都合が良い。
...別に倉科と別れてでも付き合いたい女性がいる訳でもないし。
事実、自分から会いたいなんて女性は今の所皆無で、忙しさにかまけて倉科と会う時間が減りつつある状況はますますうってつけ。だが、俺の性格を俺以上に知り尽くしている田山がその関係に異を唱える。
「もう、倉科と別れちゃえば?」
「...何を今更」
約束もなしに俺のマンションに来て酒を飲んでいる田山には慣れた。田山はアルコールに少々弱いらしく、もう既に顔が赤くなっている。そのせいでいつもより踏み込んだ事を言われるのは無礼講だと思うが、人の恋愛観にまで口出しされる覚えはない。ジロリと睨みつけると田山と同様覚えたてのビールを煽る。俺の方はアルコールに強い体質なので、至って素面。聞き逃せるほど酔ってはいなかった。
「良いだろ、別に。高校時代にやたらと誰かに会わされるより今の方が全然マシ」
思い起こすと倉科は俺を友達に彼氏として良く紹介しようとしていた。そのおかげですぐに周知の事実となり、挙句の果てに高校の卒業式まで迎えに来いで、女子高の校門前での待ち合わせは晒し者扱いだった。
...でも、あの日は久々に高澤と会ったんだよな。
卒業式の後、卒業生らしき女生徒が校門を通りすぎたり、記念撮影をしたりしているを暇つぶしに眺めていたら、その中の1人が高澤だった。でも、人目があるから交わした言葉はたった一言。
「御守りのおかげで志望校受かったよ。ありがとう」
「...どういたしまして」
本当に他人行儀な会話だったが、今でもその時の情景はハッキリと覚えており、思い出すと飲んでいるビールが不思議と苦い。その苦いビールを口に含み感傷に耽っていると、田山がツマミのチキンを手に取りながら水を差す。
「...でさあ、来週の土曜日、暇??」
「は?」
どういう脈絡でそこにつながる?と疑問を呈すと聞いてくれよーと己の恋愛話を始めた。どうやら田山の恋愛に関係しているようだ。俺の知る限り、田山は比較的暇な文系に在籍し、入学早々サークルに入った。それはもちろん彼女作りの行動で、最近これはという出会いがあったらしい。
「...その天使ちゃんが!」
「天使ちゃん??」
聞きなれない単語に聞き返すと、看護学部の生徒だから『白衣の天使』で『天使ちゃん』と言う田山の隠語。その彼女について出会いから滔々と聞かされた。そこからようやくデートにこぎつけたのだが、2人で会うよりもう1人誰かを連れてならOKということらしい。そのダブルデートとやらに俺を巻き添えにしようとしているらしいが。
「断る。彼女いるし」
「そんなこと言ったって、もうOKしちゃった」
「そのもう1人の相手に悪いだろ?別のやつに当たれよ」
「...でも、倉科とはもう破局寸前じゃん」
本当のところを指摘され、ピクッと眉が引きつる。付き合いの長い田山はその図星をズケズケとつくことに容赦しなかった。
「...実際の藤澤の女性関係って倉科と高澤だけでつまんないよな。たまには他に目を向けたら?破局寸前の彼女に義理立てしたって仕方ないし。倉科だって他所で宜しくやってるよ、きっと」
確かに今の倉科に別の男の影が見え隠れしているのは事実だ。それならこちらから解放してあげる方が良いのかと、思えた。
「...そうかもな」
「そうそう」
チキンの油をお手拭きで拭いている田山の良いなりになるのは癪だったが、いつもこんな風に乗せられて彼の思う方向に事が進む。それが分かっていても嫌な気が全くしないのは、彼の人懐っこい人柄のせいだ。
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