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144.turnover④藤澤視点
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関西某所。今日は営業部の人間と営業先へと珍しく同行しており1件目のお得意先から帰る道中、同行していた営業マンと軽く世間話をしていた。
「本日は来ていただいて助かりました」
「こちらこそお役に立てましたでしょうか?結構、差し出がましい意見を述べてしまいましたが」
「はい、あれでいいと思います。深い知識をお求めになるお客様にはやはり専門家の方にお願いしないと。それにしても、まさか藤澤さんにご同行していただけるとは...今日はついていました」
「ははは。そんなに買い被らないで下さい。それにご指名いただければいつでも同行いたしますよ?」
「またまたご冗談を。藤澤さんがお忙しくて捕まらないのは百も承知ですから」
俺よりも若干ふくよかな彼は暑がりなのか話すよりハンカチで汗を拭くのに忙しそうだ。そんな彼にレアキャラ扱いされてしまったものの、確かに俺は捕まらないらしいので彼の言うことはもっともだった。
それにしてもあまり機敏そうでないのに彼はなかなか洞察力が鋭い。今日1日一緒に行動して仕事ができる部類だと容易に想像できた。こういう人間との同行は、自分としてはスキルアップに繋がるので願ったりかなったり。以前いた会社でも田山をはじめとする営業部の人間と良くつるんでいたのもその為だった。
「いきなり暑くなりましたね」
地下鉄から降りて地上に出ると、その陽射しで目が眩みそうになる。営業マンの彼も同じように感じたらしい。
「今年も猛暑みたいですよ」
あまり話した事がない人間なので当たり障りのない天気の話を繰り広げていると、次のお得意先へと辿り着く。ここは軽く挨拶まわりのようでこちらの出番はなし。彼が営業先へ向かった後、俺は近くのビルのコーヒーショップで待機するついでに携帯していたノートパソコンのメールのチェックをする。受信メールのフォルダには予想通り数件のメール表示があり、軽く流し読みすると大半は部下からのものだった。
いつものように指示待ちのものは返事を返してゆき、その途中でスーツの内ポケットに入れてあったプライベートのスマホが振動する。その送信元は田山だった。最初はなんだろうと思ったが件名で結婚式についての詳細と書いてあったので、早く文面を読もうとしてすぐに親指でスクロール。その内容はというと。
【出欠席ハガキ届いた。どうもありがとう。ホテルの予約をした方が良いだろうか?必要でないなら連絡をしてほしい。それから...】
「藤澤さん」
最後まで読みきった時に名前を呼ばれてしまい、スマホは咄嗟に内ポケットに差し入れた。
「お待たせしました...あ、失礼」
「...いえ、大丈夫です。では、次へ行きましょうか?」
ノートパソコンを閉じ平静を装ったつもりが、洞察力の鋭い営業マンの彼のアンテナには何か引っかかったようだ。
「いい知らせでもありました?」
田山のメールを読んでいた時、口元が緩んていたのを見られていたのだろう。
「ええ、旧友が結婚するみたいでその知らせのメールでした」
実際に良い知らせだったのでそこは臆面もなく否定せずに。そして、思わず口元が緩んでしまった本当の理由は最後の一文にあった。
【三浦優里さんは出席とのことです】
田山からの心憎い演出には本当に参ってしまう。わざわざ、優里の事を旧姓で呼び現在未婚であると暗に知らせてくれたのだから。
何はともあれ、第一関門突破といったところ。
どんなにお膳立てをしたとしても、優里が来なければ話にならない。
偶然にも田山が選んだホテルは彼女と初めて過ごしたホテルで、それも功を奏したのだろう。
今回は意外と俺の方にアドバンテージがあるのかと、この時ばかりは自惚れていた。
「本日は来ていただいて助かりました」
「こちらこそお役に立てましたでしょうか?結構、差し出がましい意見を述べてしまいましたが」
「はい、あれでいいと思います。深い知識をお求めになるお客様にはやはり専門家の方にお願いしないと。それにしても、まさか藤澤さんにご同行していただけるとは...今日はついていました」
「ははは。そんなに買い被らないで下さい。それにご指名いただければいつでも同行いたしますよ?」
「またまたご冗談を。藤澤さんがお忙しくて捕まらないのは百も承知ですから」
俺よりも若干ふくよかな彼は暑がりなのか話すよりハンカチで汗を拭くのに忙しそうだ。そんな彼にレアキャラ扱いされてしまったものの、確かに俺は捕まらないらしいので彼の言うことはもっともだった。
それにしてもあまり機敏そうでないのに彼はなかなか洞察力が鋭い。今日1日一緒に行動して仕事ができる部類だと容易に想像できた。こういう人間との同行は、自分としてはスキルアップに繋がるので願ったりかなったり。以前いた会社でも田山をはじめとする営業部の人間と良くつるんでいたのもその為だった。
「いきなり暑くなりましたね」
地下鉄から降りて地上に出ると、その陽射しで目が眩みそうになる。営業マンの彼も同じように感じたらしい。
「今年も猛暑みたいですよ」
あまり話した事がない人間なので当たり障りのない天気の話を繰り広げていると、次のお得意先へと辿り着く。ここは軽く挨拶まわりのようでこちらの出番はなし。彼が営業先へ向かった後、俺は近くのビルのコーヒーショップで待機するついでに携帯していたノートパソコンのメールのチェックをする。受信メールのフォルダには予想通り数件のメール表示があり、軽く流し読みすると大半は部下からのものだった。
いつものように指示待ちのものは返事を返してゆき、その途中でスーツの内ポケットに入れてあったプライベートのスマホが振動する。その送信元は田山だった。最初はなんだろうと思ったが件名で結婚式についての詳細と書いてあったので、早く文面を読もうとしてすぐに親指でスクロール。その内容はというと。
【出欠席ハガキ届いた。どうもありがとう。ホテルの予約をした方が良いだろうか?必要でないなら連絡をしてほしい。それから...】
「藤澤さん」
最後まで読みきった時に名前を呼ばれてしまい、スマホは咄嗟に内ポケットに差し入れた。
「お待たせしました...あ、失礼」
「...いえ、大丈夫です。では、次へ行きましょうか?」
ノートパソコンを閉じ平静を装ったつもりが、洞察力の鋭い営業マンの彼のアンテナには何か引っかかったようだ。
「いい知らせでもありました?」
田山のメールを読んでいた時、口元が緩んていたのを見られていたのだろう。
「ええ、旧友が結婚するみたいでその知らせのメールでした」
実際に良い知らせだったのでそこは臆面もなく否定せずに。そして、思わず口元が緩んでしまった本当の理由は最後の一文にあった。
【三浦優里さんは出席とのことです】
田山からの心憎い演出には本当に参ってしまう。わざわざ、優里の事を旧姓で呼び現在未婚であると暗に知らせてくれたのだから。
何はともあれ、第一関門突破といったところ。
どんなにお膳立てをしたとしても、優里が来なければ話にならない。
偶然にも田山が選んだホテルは彼女と初めて過ごしたホテルで、それも功を奏したのだろう。
今回は意外と俺の方にアドバンテージがあるのかと、この時ばかりは自惚れていた。
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