21 / 35
2
しおりを挟む
その日は朝から家の空気が何となく違うのものに感じられた。皆がそわそわと落ち着きがない中、娘は普段どおりの落ち着いた様子で過ごしている。
流石、王族の教育と言える優雅な仕草で紅茶の入ったカップを口に運んでいる。
少し離れて紅茶を嗜む妻より美しいとはどういうことだ。
執事より、到着するとの報せがあったので娘と共に出迎えた。
「ご多忙の中、お時間を割いて頂きありがとうございます」
「いえ、これも公務ですので、しかし先日のリリア様のお話は大変参考になりました。分類に見出しですか。文書整理が仕事の効率や機密文書の保管に関わると思いもしませんでした」
応接間に案内する間、尚書局の担当者と成年にもならない娘が普通に会話をしているのだが、背後にいるこの娘は、どこまで王城の中に侵食しているのかと肝が冷える。
わたしが望む結果であるが末恐ろしい。
しかも何故か、近衛兵まで同行している。一体、何がこれから起こるのだろうか?
応接間にお通しすると、妻のエメルダが立ち上がり挨拶を交わし、持て成そうとするがどちらも仕事との事で断られる。
「それで、誓約書とは一体何の誓約なのか?」
「リリア様からの話の後です」
「何故だ?娘は誓約書の内容を知らないと言っていたぞ」
「その通りです。誓約書はミランダ王妃殿下からの指示で作成しています」
「ではリリア、話があるなら言うがいい」
「はい、お父様」
娘が立ち上がると、何故か近衛兵が近くに控える。
「まず、お父様とお母様が期待していると思われます援助は、王家は一切致しません」
「何を言うのだ!」
「最初から取り交わした契約でもありませんのに、わたくしがレオンハルト殿下の婚約者だからと言って何故国庫や王族の私財をお渡ししなければなりませんの?」
「お前は何を言っているのか分からんのか?親に歯向かいおって!」
怒りで頭に血が上りすぎて立ち上がり手を上げようとすると、近衛兵の一人が阻止をする。
「離さんか」
「いえ、王妃殿下よりリリア様に手を出す者は排除して構わないと仰せつかっております。これ以上の手出しは見過ごせません。お座り下さい」
近衛兵の排除と言う言葉に妻も息子も顔を青ざめている。
何故だ?こんな筈ではなかったのに。
「ヴェルザード家は今変わらないと衰退する一方でしょう。生活を維持する為に領地を守って下さる叔父様に頭を下げます?家の為に税をいつまで増やせるとお思いですか?ミランダ王妃様はヴェルザード家がわたくしに寄生するのであればいっその事籍を抜いて他家の養女にする事も視野に入れておいでです」
「お前は一体何を・・・」
「お父様、お母様、お兄様に変わっていただきたいのです。この家が砂のように脆くなっているのに何もしないお父様。本来家を守るべき役目を果たさず無駄に宝石やドレスを買い漁るお母様。努力を怠り使用人を手足のようにこき使うのが貴族と思いこんでいるお兄様。そろそろ現実に目を向けませんか?」
「リリアっ。貴女、何を言っているか分かってるの。父や母や兄に対して敬いもせず、いつもいつも冷静な顔で馬鹿にして」
必要以上に娘に関わろうとしなかったエメルダが我慢に耐えかね叫んだが、一歩踏み出した近衛兵を見て口を閉じる。
「本当は、本当は王妃様からのご提案通りに籍を抜いてもらうなり王家預かりにしてもらえば良かったのです。今のヴェルザード家はわたくしの弱点になりますから。家族全員、甘言を信じて騙されてわたくしの不利になるのは見えてますもの。だけど」
娘はわたし達家族の顔を一人ずつ見る。
娘の困った顔を見た事が今まであっただろうか?
「家族ですもの。家族だからお諫めするのです。本音で話せるのは家族であったり恋人であったり大切な者でしょう。どうでもいい人間ならば放っておいて見捨ててしまえばいい」
流石、王族の教育と言える優雅な仕草で紅茶の入ったカップを口に運んでいる。
少し離れて紅茶を嗜む妻より美しいとはどういうことだ。
執事より、到着するとの報せがあったので娘と共に出迎えた。
「ご多忙の中、お時間を割いて頂きありがとうございます」
「いえ、これも公務ですので、しかし先日のリリア様のお話は大変参考になりました。分類に見出しですか。文書整理が仕事の効率や機密文書の保管に関わると思いもしませんでした」
応接間に案内する間、尚書局の担当者と成年にもならない娘が普通に会話をしているのだが、背後にいるこの娘は、どこまで王城の中に侵食しているのかと肝が冷える。
わたしが望む結果であるが末恐ろしい。
しかも何故か、近衛兵まで同行している。一体、何がこれから起こるのだろうか?
応接間にお通しすると、妻のエメルダが立ち上がり挨拶を交わし、持て成そうとするがどちらも仕事との事で断られる。
「それで、誓約書とは一体何の誓約なのか?」
「リリア様からの話の後です」
「何故だ?娘は誓約書の内容を知らないと言っていたぞ」
「その通りです。誓約書はミランダ王妃殿下からの指示で作成しています」
「ではリリア、話があるなら言うがいい」
「はい、お父様」
娘が立ち上がると、何故か近衛兵が近くに控える。
「まず、お父様とお母様が期待していると思われます援助は、王家は一切致しません」
「何を言うのだ!」
「最初から取り交わした契約でもありませんのに、わたくしがレオンハルト殿下の婚約者だからと言って何故国庫や王族の私財をお渡ししなければなりませんの?」
「お前は何を言っているのか分からんのか?親に歯向かいおって!」
怒りで頭に血が上りすぎて立ち上がり手を上げようとすると、近衛兵の一人が阻止をする。
「離さんか」
「いえ、王妃殿下よりリリア様に手を出す者は排除して構わないと仰せつかっております。これ以上の手出しは見過ごせません。お座り下さい」
近衛兵の排除と言う言葉に妻も息子も顔を青ざめている。
何故だ?こんな筈ではなかったのに。
「ヴェルザード家は今変わらないと衰退する一方でしょう。生活を維持する為に領地を守って下さる叔父様に頭を下げます?家の為に税をいつまで増やせるとお思いですか?ミランダ王妃様はヴェルザード家がわたくしに寄生するのであればいっその事籍を抜いて他家の養女にする事も視野に入れておいでです」
「お前は一体何を・・・」
「お父様、お母様、お兄様に変わっていただきたいのです。この家が砂のように脆くなっているのに何もしないお父様。本来家を守るべき役目を果たさず無駄に宝石やドレスを買い漁るお母様。努力を怠り使用人を手足のようにこき使うのが貴族と思いこんでいるお兄様。そろそろ現実に目を向けませんか?」
「リリアっ。貴女、何を言っているか分かってるの。父や母や兄に対して敬いもせず、いつもいつも冷静な顔で馬鹿にして」
必要以上に娘に関わろうとしなかったエメルダが我慢に耐えかね叫んだが、一歩踏み出した近衛兵を見て口を閉じる。
「本当は、本当は王妃様からのご提案通りに籍を抜いてもらうなり王家預かりにしてもらえば良かったのです。今のヴェルザード家はわたくしの弱点になりますから。家族全員、甘言を信じて騙されてわたくしの不利になるのは見えてますもの。だけど」
娘はわたし達家族の顔を一人ずつ見る。
娘の困った顔を見た事が今まであっただろうか?
「家族ですもの。家族だからお諫めするのです。本音で話せるのは家族であったり恋人であったり大切な者でしょう。どうでもいい人間ならば放っておいて見捨ててしまえばいい」
5
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
悪役令嬢は、あの日にかえりたい
桃千あかり
恋愛
婚約破棄され、冤罪により断頭台へ乗せられた侯爵令嬢シルヴィアーナ。死を目前に、彼女は願う。「あの日にかえりたい」と。
■別名で小説家になろうへ投稿しています。
■恋愛色は薄め。失恋+家族愛。胸糞やメリバが平気な読者様向け。
■逆行転生の悪役令嬢もの。ざまぁ亜種。厳密にはざまぁじゃないです。王国全体に地獄を見せたりする系統の話ではありません。
■覚悟完了済みシルヴィアーナ様のハイスピード解決法は、ひとによっては本当に胸糞なので、苦手な方は読まないでください。苛烈なざまぁが平気な読者様だと、わりとスッとするらしいです。メリバ好きだと、モヤり具合がナイスっぽいです。
■悪役令嬢の逆行転生テンプレを使用した、オチがすべてのイロモノ短編につき、設定はゆるゆるですし続きません。文章外の出来事については、各自のご想像にお任せします。
※表紙イラストはフリーアイコンをお借りしました。
■あままつ様(https://ama-mt.tumblr.com/about)
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる