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「手を出していた事実があるのを忘れたとは言わせないよ。実際、ローズは手や足を腫らしていたのを僕が見ているんだからさ。幸いローズには治癒魔法があるから自分で治療出来たからいいけど、治せるからって怪我をさせていいはずがないんだ」

 
 ローズさんと同じ学年のアーシェス様は、雛鳥と揶揄させるほど常に行動を共にされていたようですが、怪我をさせられた時は一緒にいなかったのでしょうか?
 ローズさんの名前を連呼しながら追いかけるお姿に、アーシェス様の婚約者のコーネリア様が一時期『鳥の飼い方』の本をお読みになられる程に親密でしたのに。



「わたくしは何もしておりません。忙しくてローズさんにお構いしている余裕はありませんでしたわ」

  ローズさんが入学したのは、わたくしやレオンハルト様が最高学年の年。
 つまり一年前。
 この一年は、ローズさんと言う爆弾が投下された為に貴重な体験と言うのでしょうか、とても濃い経験をする事になり、本当に忙しかったのです。

 ローズさんが婚約者を持つ高位貴族の御子息達に、気安く話しかけ手を握ったりなどと常軌を逸した行動を起こす為に、婚約者の令嬢達からの相談と言う名の愚痴を聞いてお慰めしたり。

 いつの頃からか、わたくしとレオンハルト様がお会いする時間が極端に減り、男爵令嬢が殿下と側近候補を侍らかす様になると、幾ら後輩に引き継いだといえ生徒会役員達であった彼等が仕事を放棄し始めたのでそちらのフォローに駆り出されたりと、ローズさんに関わる余裕なんてありませんでしたわ。



「あのぉ~。本当は黙っていようと思ったんだけどぉ、リリア様に転ばさせられたってアーシェスに言ったんですけどぉ」

 今まで黙っていたローズさんが、いつもの間延びした話し方で口を挟まれてきました。

 ローズさんを擁護されている方々からは、愛らしい又は癒される話し方に聞こえる様ですが、シルヴェスト様の婚約者のアメリア様は苛々されるそうですし、アーシェス様の婚約者のコーネリア様は頭痛がするそうで好みが分かれる様ですわ。
 わたくしも、あまり知性を感じられない印象を受けるので好ましいとは思えませんが、男性からすれば捉え方が違うのでしょう。



「実はぁリリア様に階段から突き落とされたんですぅ」
「「「なっ」」」
「すごぉい酷い怪我だったんだけどぉ治癒魔法で治したけど治しきれなくてぇ。だけどぉ、告げ口したら家を潰すってリリア様に脅されてぇレオン様にも言えませんでしたぁ」

 階段から突き落とされたと告白する内容に、静まり返った会場からどよめきが沸く。
 確かに事実ならば、王太子の婚約者の令嬢のスキャンダルですもの。


 それにしても、侯爵家と言えど男爵家を潰しませんよ。自滅していただくならまだしも、直接手出し致しませんわ。

 ヴェルザード家は一応穏健派ですもの。
 憑き物が落ちたような人畜無害な家族なの。



 それにしても、レオンハルト様をまさか、レオン様とお呼びするなんて、不敬にも程があります。彼女が婚約者となってから呼ぶにはまだしも。
 

「わたくしはローズさんを突き落としていませんわ。それにレオンハルト殿下を」

「嘘を吐いてまで保身に走るとは見苦しい女だな」
「見損なった、何が淑女の鏡だ」
「殺人未遂をしといて厚かましいよ、罪人は牢屋に入れるべき」
 
 わたくしの言葉を遮って責め立てた後、ガドウィン様が拘束しようしたのか一歩踏み出した時、最初の台詞から無言を貫き通していたレオンハルト様が言葉を発しました。
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