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第四章

78話

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 俺達はヒュペリト村の入り口で手続きを受けている。
 あの狼と思われる赤い点は、俺達がヒュペリトに近づくと接近するのを止めて散っていった。

 門をくぐると警備兵の詰め所へ案内され、調査をした冒険者を呼んでくると言うことなので待っていた。
 俺はヴィクターに警備兵宛の荷物を出すように言われたので、詰め所前に置いておいた。

ー コンコン ー

「失礼します。お待たせしました。案内役のベンハミンです」

 部屋に入ってきたのは胸板の厚いうさぎ族の男だった。
 所謂細マッチョ系だな。

「マホンのギルドから来たヴィクターだ。今回はよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします。早速ですが現状の説明をします。狼の群れが頻繁にヒュペリト周辺に現れ始めたのは約1ヶ月前 。現在までに商人の馬車や山に入った住人が被害に遭っております。群れは── 」

 と、ベンハミンからの説明は続く。

 狼と言うだけあって、数匹で馬車を取り囲んだ後、綻びが出たところから切り崩していくらのは同じらしい。
 だが、その程度なら護衛の冒険者で十分対応できるからやられることはないのだが、魔物が率いているためなのか、それとも別の理由からなのかわからないが、狼達の連携がやたらと上手い。
 更に数も20数匹いるために質より量が勝ってしまっているようだ。

 ヒュペリトに向かっていた行商人が護衛共々やられたことで、他の行商人達もヒュペリトを敬遠するようになり、村への物資があまり入らなくなっている。
 今すぐ生活ができなくなる程ではないが、これが長引けば普段の生活に影響が出るのは確実だ。
 最近では村を取り囲むようになり、その囲みが少しずつ村へ近づいている。
 このままでは村内へ侵入されかねないとマホンのギルドへ応援要請を出したようだ。

 狼の塒はここから徒歩で1日半程にある岩山ではないかと思われるらしい。
 その辺りは大小様々な大きさの洞窟があり、住み着くには格好の場所らしい。

 明日の朝ヒュペリトを出発し、塒と思われる周辺を調査し討伐するとのことだ。

「皆様の馬車は馬と一緒に警備兵の宿舎で預かってくれます。私からは以上です。何かあればいつでもお聞きください。では皆様を宿へご案内します」

 案内された宿は一葉と同じ規模だった。代金を払おうとしたところへルーベンが横から俺の手を押さえた。

「ドルテナ、飯は外で食うから朝飯だけにしとけ」
「え?あ、いや俺はここで」
「いいから付き合えよ。ほら行くぞ!」
「あ、ちょっ!」

 俺の肩へ腕を回して宿の外へ連れ出そうとしてので、慌てて代金をカウンターへ置いた。

 外へ出るとフレディとイレネ、ヴィクター以外のメンバーが待っていた。
 俺も宿の外へ出てきたのを見たルイスがエッとした顔をした。

「ドルテナもかい?」
「はぁ、ルーベンさんに捕まってこの通りです」
「あはは、そうかい。ドルテナもランクEになるんだから、まぁいい経験だろう。安心してくれ、アビーには言わないからね」
「何を言わな ── 」
「よぉし、行くぞ。まず飯屋だ」

 ルーベンを先頭に皆が歩いて行く。
 宿の周りは様々なお店があったが、村の規模が小さいので店の規模も小さく外から少し見てもこれといって目を引くような物はなかった。

 更に歩き宿から離れた通りに来た。

 この辺りは宿の周りの雰囲気と違って、妖艶な雰囲気を醸し出している。
 店の外には篝火や大量の蝋燭で明るく照らされているが店内は薄暗い感じだ。
 そして店の前には若い女性が露出度の高い服装で立っており、通りを歩いている俺達へ声をかけたり艶めかしい仕草で誘惑してくる。

「あの、この辺りのお店って……」

 隣を歩いていたルイスに聞いた。

「綺麗な女の子がいるお店さ。あそこの店に入るようだよ」

 先を歩いていたルーベンが、一軒のお店の前に立っていた女の子と話をして店内へ入っていった。
 俺とルイスも他の人に続いて入った。

「いらっしゃいませぇ~♪」

 店内はやや暗めで、ローテーブルにソファーといった内装だ。
 席は全てボックス席となっており、1つのボックスに大体6人くらい座れそうだ。

「キャバクラかよ!」
「ん?何だって」
「あ、いや何でもないです」

 店内の雰囲気がまんまキャバクラだったから思わず口から出てしまった。

 案内された席は、俺達全員が座られるようにテーブルとソファーを組み替えてあるようだ。

 席に座っていると嬢達がやって来た。客1人に対して女の子が1人付くシステムもキャバクラにそっくりだ。
 だが食べ物は決まっているらしく、席に着くと次々と出てきた。
 食事が普通にできるって事はガールズ居酒屋とかの方が近いのかも?

 女の子は全員バニーちゃんだった。
 皆スタイルがよく、布面積の少ない服を着ており、これでもかとボデーラインを見せつけてくれていた。
 俺の横に座った女の子もバニーちゃんなのだが、他の女性に比べてかなり若かった。
 一生懸命メイクなどをしていていたが、どうみても俺と年齢がかなり近い。

「は、初めまして!リアナです。よろしくお願いします!」

 体を少しこちらへ向けて両手を差し出してきたリアナはとても礼儀正しいイメージで、周りの女性とはあきらかに雰囲気が違う。
 レストランのウェイトレスが似合いそうな感じだ。
 リアナの手を握り返しながら挨拶を返した。

「初めまして。ドルテナです。こういうお店は初めてなのでよくわからないんですが、よろしくお願いします」
「はい!あ、でも私も初めてなので……」
「ゴメンねぇ~、その娘今日から働き始めたのよ。一応私が教育してあるけど不手際があるかも知れないから大目に見てあげてね」

 俺の隣に座ってルイスの相手をしていた女性が、リアナは今日が初日だと教えてくれた。

「俺もこういうお店は初めてなんで、何が不手際なのかわからないんで大丈夫です」
「ありがとうね~。リアナしっかりとやりなよ」
「はい。頑張ります!」

 リアナは「よし!」となぜが気合いを入れていたが、ここはそういう店じゃないような気がするよ。

「ドルテナさん、先ずはこちらをどうぞ。はい、あ~ん」

 そう言って何かの肉を炒めた物をフォークに刺して口元へ持ってきた。

 どうやら食べさせてくれるサービスがあるらしいな。

 俺は口を開けてリアナが差し出してくれた料理をパクリと食べた。

「ん!美味しいな」

 こういう店だから料理の味は全く期待してなかったのに、その期待をいい意味で大きく裏切ってくれた。

「だろぉ?ここはな、ヒュペリトでも料理がうまいと評判なんだ」

 俺が料理の味に驚いていると、ルーベンがドヤ顔で言ってきた。

「うまい飯に綺麗なねぇちゃん。最高の組み合わせだろ?」
「アハハ、確かに。美味しい料理を綺麗な女性に食べさせてもらうと更に美味しくなりますね」
「そうだろ、そうだろ。ガハハハ」

 ルーベンは自分の隣に座っている女性の脇の下へ腕を回し、その先にある胸を揉みながら笑っている。
 女性の方も慣れたもので嫌な顔一つせずにルーベンの口へ料理を運んでいく。

 その光景をガン見していたのを、俺もああいうことをやりたいのだろうと勘違いしたリアナが、その女性と同じように俺にしなだれかかってきた。
 そして俺の腕を持って自分の腰へ回し、上目遣いで見てきた。

「あ、あの……私は大丈夫なんで……触っても……いいです……よ?」

 ギリギリ聞こえるくらいの小声でそう言ったリアナは、顔を真っ赤にしながら俺の手を自分の胸にあてがった。

 リアナのいきなり取った行動になすがままだった俺は、自分の掌に柔らかな感触を感じて慌ててリアナを見た。

「リ、リアナさん?!」
「リアナでいいです。すみません、あまり大きくなくて」

 掌から伝わる感触からエルビラ程ではないが、推定Cカップは最低でもありそうだった。

「そんなことないと思いますけど……あの、料理を食べさせてもらえますか?」

 このままだと食事どころではなくなりそうだから、テーブルに乗っている料理を食べさせてもらうことにした。
 その間も俺の手はリアナの胸の上に置かれていた。

 掌から伝わる感触が気になって、その後の料理の味は殆どわからなかった。
 その代わり、リアナ自信について教えてもらった。
 年齢が15歳、あ、でもお店年齢は16歳らしい。なんでかというと、未成年だと摘発されるんだと。
 姉妹は12歳の妹がいるらしい。15歳でこういう店で働くというのは何か事情があるのだろうと思っていると自分から話してくれた。

 幼いときに母親を亡くしたリアナは、貧しいながらも父親と妹の3人でドライフルーツを作って生計を立て暮らしていた。
 しかし、ひと月程前のある日。父親がいつも通り山へ果実を取りに出かけたまま帰ってこなかった。
 暫く帰りを待っていたが父親が帰ってくることはなく、生計を立てられなくなった2人は、家にあった食料を食べ尽くしたため困っていたところ、父親の弟が姉妹を引き取ったと。

 その伯父がどうやら屑だったようだ。

 父親の僅かな衣類などを全て売り払ってその代金を姉妹の食費に充てると言っていたが、出される食事は固いパンが僅かだった。
 後でわかったようだが、伯父はそのお金を自分の遊ぶ金にしていたらしい。
 更に伯父には借金があり、その返済のために姉妹を奴隷商人へ売ろうとした。
 幼い妹まで奴隷にさせられるのを何とか頼み込んで辞めてもらった代わりに、自分がこの店で働くことになった。
 そしてその給料は全額を伯父へ渡すことになっていると。
 伯父は、奴隷商へ売るよりリアナが稼いでくる給料の方が結果的に儲かると考えたようだ。

 とんだ屑野郎だ!

 その話を聞いた俺は胸糞が悪くなってしまい、それが表情に出ていたらしい。
 俺の顔を見たリアナが俺の頬へ手を当ててきた。

「そんなに怖い顔をしないでください。確かにこういう店で働くことに抵抗はありました。でも初めてのお客様がドルテナさんのような優しい方でよかったです」

 そう言って、リアナは俺の唇にそっと自分の唇を重ねた。


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