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第一章

9話

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「容量を問いただしている訳じゃないよ。容量が大きくても何ら悪くないからね。ただ、もし、君のアイテムボックスの容量がとても大きな物なら……どうだい?うちの商隊に来ないかい?」

 どうやらこの商隊の人は、俺が大容量のアイテムボックス持ちと踏んで、商隊へ引き抜きに来たらしい。
 確かに大容量のアイテムボックスならば多くの商品を運べるから商隊にとって、いや、行商人にとって最大の武器になる。
 なので行商人にならないかと誘っているのだ。

「うちの商隊には君くらいの歳の見習いもいる。私が一から教えてあげらるからやってみないか?ご両親への説得は任せてくれていい。」

 この後、行商人の内容から始まり今までどこに行ったとか、王都はどんなところでとかを暑く長く語っていた。
 途中、どこかの街のナントカと言う夜のお店の娘がよかったとか。それ、11歳の子供に言う話ではないよね……

 長い話の間に馬の方も全て終わり、ラムが話しに割り込んできた。

「あのぉ~。馬達の方は終わりました~。そろそろ商店が開く時間になりますが、大丈夫ですかぁ~?他の方も来られてますけど~」
「 ── だよ。特にあの街は…えっ、もうそんな時間か?!そうか。なぁ君、少しでも興味があれば言ってくれよ」

 と言って、行商人はいつの間にか来ていた仲間と共に馬で出かけていった。
 俺のアイテムボックスがあれば何でも入る。たくさんの物資を馬一頭で行商出来るだろう。
 だがこの街を今離れるつもりはない。商隊の人には悪いが今回は諦めてもらおう。

「テナー君って行商に興味があったの~?それに~、話の途中で目を輝かせてたけどぉ……これだから男の人って(ブツブツ……)」

 なぜかすごく冷たい目で見られてるんですけど。
 そりゃぁ確かに、とあるお店のナントカちゃんの話でちょっとは興味をそそられたさ。
 だって中身は40歳のオッサン。バニーちゃんには弱いのよ。

 何がバニーちゃんなのかというと、この世界のウサギ族は黒耳黒髪黒目で、種族特性なのか基本的にボン!キュッ!ボン!なのだ!この世界で黒髪はウサギ族だけ。
 リアルバニーちゃんってオッサンにはたまらんよ?で、そのナントカちゃんがウサギ族、つまりバニーちゃんらしいのだ。

「いや、行商人になるつもりはないよ。今の仕事は、この厩舎でラムと一緒に馬の世話をする事なんだ。他の仕事のことは考えてないよ」
「そ、そうよね~。私と一緒に仕事頑張りましょう~」

 ちょっと機嫌がよくなったラムと厩舎の掃除を始めた。
 掃除が終われば昼の餌を用意する。今夜は新しい馬は来ないので、受け入れの準備はない。

 今泊まっている商隊の馬で厩舎が満員御礼状態なのだ。
 部屋も商隊の人でほとんど埋まっているようだ。商売繁盛で結構けっこう。

 夕方、あの商隊の人がまたやって来た。
 もうほとんど仕事は終わっていて、後は洗い終わった桶を乾きやすいように並べたら、今日の仕事は終わり。

「やぁ、もう少しで仕事は終わりかな?朝の話なんだが、一度ご両親に遭わせてもらえないかな?手間はとらせないよ。ね。どうだい?」

 なかなかアクティブな人だな。もう少しで仕事は終わるが、母はまだ厨房で忙しくしているだろう。客の晩御飯が落ち着くまでは手が空かないはずだ。

「申し訳ございません。母はまだ仕事中でして、手が空くのはまだ時間が掛かるかと」
「私の方は構わないよ。お母さん?が仕事が終わるまで待つから。所でお母さんは何をしておられるんだい?」

 あ、この人俺の母がここの仕事してること知らなかったのか。この宿の常連らしいから、新人の俺のことも聞いていると思ってた。

「母はここの厨房で働いています。なので、お客様のお食事が落ち着かないと手が空かなくて……」
「そうなのか?!そうかそうか。なら食堂で待っていよう。なぁに、話は直ぐ終わるから。お母さんに伝えてくれよ」

 と俺の返事を聞かずに宿へ戻って行った。
 とりあえず仕事が終わったのでラムに声をかけて上がる。

「お疲れさま。俺は上がるね」
「はい~お疲れさま~。後頑張ってねぇ~」

 あはは、面倒くさい話にならないことを俺も期待してるよ。
 その足で厨房の母にさっきの話を伝えに行く。

「そう、わかったわ。それで、あなたはいいのね。お母さんはどちらでもいいのよ?あなたが決めたことだから、どちらでも応援するわよ」

 母には昼のうちに朝の出来事を自分の気持ちと共に話していた。

「うん、それでいいんだ。じゃぁお客様に仕事が終わるまで待っててもらうね」
「あ、それはお母さんが伝えておくわ。あなたのその格好で食堂の中を歩くのはマズいでしょ」

 俺は厩舎で仕事をしていたままの服装なので、かなり汚れている。
 このままの服装で食事を提供する場所に入るのは躊躇われる。なので母にお願いをして部屋に帰る。

 母の仕事が一段落したので、俺と母の2人であの商隊の人と話をした。
 結果は変わらず、俺は商隊にはついて行かないと伝えた。
 あの商隊の人はまた気が変わったら是非!と食い下がっていたが、あの人のご希望に添える日は来ないだろう。


◆◇◆◇◆◇


 翌日。

 俺を勧誘してきた商隊の人達は朝早くに旅立っていった。

 午前中のうちに空っぽになった厩舎を掃除する。お昼御飯の後、厩舎に新しい草を引いたら終わり。
 後はお客が来るまでは休憩だ。

 厩舎の掃除が終わったのでラムとたわいもない話をしていると、急に俺を呼ぶ声がした。

「坊ちゃん!坊ちゃんはおられますか?!ドルテナ坊ちゃん!」

 久しぶりにそんな呼ばれ方をした俺は、厩舎の入り口から慌ててやってくる1人の男と目が合った。
 その男は父が襲われたときに救援要請のために街まで戻ってきた人だった。

「あ!坊ちゃん!よかった。さっき奥様とお嬢様にはお伝えしたのですが、坊ちゃんはこちらにおられるというのでやってきました」

 肩でハァハァと息をしながら満面の笑みを浮かべて俺に告げた。

「親方の、お父様のかたきがとれました!これでみんなも浮かばれます」
「へ?あ、あの、どういうことですか?かたきがとれたとは?」

 困惑していると母とペリシアが厩舎へやって来た。2人とも笑顔だが目からは涙が溢れていた。

 俺は知らなかったのだが、父達の合同葬儀が行われた数日後、領主が軍を山賊討伐に向かわせたらしい。厩舎へやって来た元従業員の男から更に詳しく聞いた。

 葬儀が行われた翌日、冒険者や軍による山賊の捜索が行われた。程なくして塒の場所が判明した。
 山賊は、父達を襲った場所から更に奥の森にあった洞窟を塒にしていたようだ。

 出撃体制を整えた討伐隊は、塒を発見してから数日後にマホンを出発。その討伐隊には軍だけでなく亡くなった冒険者の仲間や知り合いも勇義軍として参加した。
 軍及び義勇軍、総勢67名の討伐隊が結成されたそうだ。

 討伐隊は塒にしていた洞窟入り口を取り囲むようにして襲撃したが、洞窟には討伐隊が囲った入り口とは別にも出入り口があったらしく、数名は逃がしてしまったようだ。
 それでも山賊の頭は殺害されたらしい。山賊も数名は生かして取り押さえられたようで、そいつらから逃げた奴の名前や人相は判明したらしい。
 だが名前は偽名の可能性が高いし、もし本名だとしても今は名前を変えているだろう。

 俺的には全員殺して欲しかったな。まぁ、山賊の頭を取り逃がさないだけましか。とりあえず、これで父の無念は少しは晴らせたのだろうな。

 父の敵が討たれたその日は、午後から家族全員お休みをいただけた。

 共同墓地にある父の墓前に行き、花と父の好きだった酒を供える。
 山賊討伐の報告をしたり、ここ数日の出来事を父に話したりした。

 ふと空を見上げると既に夕方になっていた。かなり長い時間ここにいたようだ。
 冬が近いこの時期、夕方にはかなり冷え込む。3人とも体が冷えていたので、温かい物を食べて帰ることにした。

 父がいなくなってから、アルコールを一切飲まなかった母だったが、今夜は少し飲んでいる。
 父の敵がとれたことで、少しは心の整理がついたのだろう。
 母だけではない、ペリシアも余り笑わなかったが今夜はよく笑っている。
 俺も何か心のモヤモヤが晴れた気がする。

 今夜はグッスリと眠れそうだ。

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