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第一章

3話

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「おじさぁん。猪の肉ある?」
「あいよ!ってテネルテんとこの坊主か。あるぜ。」

 5歳になった俺は、母の代わりに買い物の行く事が多くなった。2歳違いの妹が生まれて、母があまり家を空けられなくなった為だ。
 ちなみにテネルテとは父のことだ。
 今日は、小さい頃から買いに来ている近所の馴染みの肉屋へやって来たのだ。
 目的は猪肉だ。
 猪肉はこの世界でも冬時期の方が美味しい。
 猪肉は前世の日本でも買って食べていた。

 時々お客さんから貰いもしたな。懐かしい。

 それにこの世界には魔物という奴等がおり、普通の獣よりうまい。魔物の猪の場合は夏でも美味しいが冬は更にうまい!
 ただ、今日あるのは普通の猪らしい。うむぅ、残念だ。

「なんだ、魔物がよかったのか?今日はまだ入荷してないなぁ」

 俺の表情を見た肉屋の主人が魔物はないと教えてくれた。

 そうかしょうかな……ん?まだ?

「おじさん、“まだ”ってことはこの後にはあるって事??」
「どうかなぁ。もうちょっとしたら冒険者が持ってくるかもな。来るかどうか、こればっかりは俺にもわからんぞ。その日によるからな」

 ほぉほぉ。この時間くらいから冒険者が帰ってきて肉なんかを売りに来る事があるのか……。まぁ、ないならしゃーないな。

 そう思って立ち去ろうとしたとき、数人の大人達が俺の横にやって来た。

「おっちゃん!肉買い取ってくれ!」

 どうやら冒険者のパーティーの様だ。
 その冒険者達の一人、ちょっとイカツイ男が肉屋の主人に声をかけた。

 お?!いいタイミングだな。なんの肉を持ってきたんだ?……って、おいおい、こいつら何故か手ぶらだぞ。何処にも肉なんて持ってないじゃないか。

 俺が不審な目を男に向けていると、肉屋の主人は冒険者と話を進めていく。

「なんの肉だ。とりあえずこの台に出してくれ」

 肉屋の主人が冒険者に催促すると、その冒険者が徐に台の上に手を差し出した。
 そして次の瞬間、手品の如く男の手に肉塊が現れた。
 急に現れたその肉を台に置くと、次から次にと肉が手から出てきて、台に置かれていく。

 なっ!?なんじゃこりやぁ~!!〈松田○作風〉

 びっくり過ぎて声が出ない。
 思考回路が停止した俺に、肉屋の主人は「お?!坊主!よかったな。猪の魔物があるぞ!」と教えてくれた。
 いるんだろ?って聞かれたが声が出ず、首を縦に降るのが精一杯だった。

 ここでの支払いはなし。この店では俺が買うときはツケてもらっている。いくら近所とはいえ5歳児にお金を持たせるのは危険なんだとさ。

 無事に魔物の猪肉を買えた俺は、籠の中にある肉を何度も確認しながらさっきの事を思い出す。

「いったいあれはなんだったんだ?手品みたいにいきなり肉がパッ!と現れたぞ。それも何個も……」

 なにがなんだかわからない。とりあえず帰ったら母に話そう。せっかく買えた魔物の肉なのに、変な肉なら嫌だし。

「ただいまぁ!ねぇ、聞いて聞いて!」
「はいはい、何ですか慌てて。お帰り。ほらほら、落ち着きなさい。ね?」

 と、母に若干怒られながらさっきの肉屋での出来事を話す。

「それはね、その冒険者さんがアイテムボックス持ちだったからよ。そのアイテムボックスから出したから、次から次にお肉が出てきたのよ」
「ア、アイテムボックスだぁあ!?」
「……なにおっさんみたいな声出してるのよ」
   
 こういう事らしい。
 この世界にはアイテムボックスという特殊能力を持った人がいる。
 このアイテムボックス、割りとメジャーで人口の8割くらいが持っているらしい。俺の両親も持っているとのこと。
 ただし、人によって容量に差があるようだ。
 大抵の人が俺が今持っている籠1個分程度。これは前世のランドセル1個くらいと同じだ。
 そしてアイテムボックスの最大容量は樽1個分と言われている。大体ランドセル3個分くらい。
 それ以上のアイテムボックスは確認されていないらしい。

 さて、俺が見た冒険者は後者のようだ。樽1個分あればあの肉の量もうなずける。

「テナー、アイテムボックスの容量を人に聞いてはダメよ。それはねマナー違反なの。どんなに興味があっても、絶対に聞いてはダメよ。いいわね?」

 アイテムボックスの有無は構わないが、容量はダメらしい。
 女性にスリーサイズを聞くようなものか?……いや、それもまた違うかな……。
 ちなみに、父はランドセル2個分、母は1個分らしい。

 使い方は簡単で、鞄を開く気持ちを持って“アイテムボックス”と言えばいいらしい。そうするとアイテムボックスの中身がわかるようだ。
 慣れてきたら、アイテムボックスに入っている物をイメージするだけで使えるようになるんだとさ。
 なんでもっと早く教えてくれなかったのか、と文句を言ったら「子供のうちから楽を覚えてはいけません!」だとさ。おいおい。

 実際には、アイテムボックスの使用に慣れないと体調不良になるので、子供には使わせないし、教えないようにするのが一般的なんだそうだ。
 俺にも親が許可を出すまで使わないようにと釘を刺された。

 この世界には魔法もあるが、これは魔法を発動させるための魔法呪文が必要で、まだ教えられてないから使えない。
 来年、6歳になれば教会の神父さんが希望する子供たちに無料で教えてくれる。それまではお預けだ。
 それに、子供が魔法をむやみやたらに使用すると、本人もそうだが、回りにも意図せず危害を与える可能性があり、6歳までは魔法の使用を禁止されている。
 子供の火遊びで街が火事になったら洒落にならん。消防車もないのに。

 アイテムボックスかぁ。使っちゃいけないって言われてもねぇ。ダメって言われるとやりたくなるのが人ってもんでしょ?
 そういえば、“開けないで下さい”って書いてある箱を街中に置いて、何人の人が開けるかを実験してたテレビ番組を見たことがあるな。

 それに、前世ではあり得ないアイテムボックスなんて超便利なもの。もし俺が持ってるなら、やっぱり使いたいじゃない?ね?

 その日の夜、ベッドに座った俺は早速アイテムボックスが使えるかどうかを確かめる。

 持ってなかったらどうしょう。いや、両親も持っているのだ。多分……大丈夫……のはず。

「ふぅ~。よし!」

 深呼吸をして気合いをいれる。部屋から声が漏れないようなボリュームで…

「アイテムボックス!……お、出てき…たぁ?!んっ!」

 アイテムボックスが開いた後、中身を見て思わず声が大きくなり、慌てて自分の口を塞ぐ。その声を聞いて、部屋に両親が来ないか気配を探る。

 ……よし、誰も来ないな……とりあえず落ち着こう。

 まずアイテムボックスは持っていたから一安心だ。これで色々と便利になる。
 母に聞いた通り目の前には透明なガラスが見える。これは自分にしか見えなくなっていて、他人からは絶対に見えないらしい。
 俺からしたら、ガラスというか画面だな。この世界の人に画面なんて言っても通用しないか。
 まぁ、それは置いといてだ。

 今日、アイテムボックスという物の存在を知って初めて開いた。そこまではいい。子供には教えないというのだから。

 ……だがこれはなんだ。

 使ったことがないはずのアイテムボックスに既にアイテムが入っているらしく、目の前にリストが表示されている。
 で、だ。
 そのリストに表示されている物の全てが、存在してはいけない物の名前だ。いや、前世の世界では存在していた。していたが、こっちの世界にはない。
 これは絶対にヤバイ!というか、あっちゃいけない物がアイテムボックスに収まっている。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

サバイバルナイフ
ハンドグレネード(M67)【個数】∞
スタングレネード(M84)【個数】∞
スモークグレネード(M18)【個数】∞
ハンドガン(FN Five-seveN )【弾数】∞
サブマシンガン(FN P90)【弾数】∞
………etc.

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 Oh No ……なんてこったい……。

 銃刀法違反クラスですがな!!いや、もっとやばいか。テロリストクラスだな。って、んなことはどうでもいいんだ。
 プリセットでいきなりとんでも兵器の数々かよ。

 俺は思わず頭を抱えてしまった。
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