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*白い世界*
皆やさしいんです3
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「はーちゃん、具合はどう?」
シャッとカーテンを開けて覗き込んで来たのは佐々木さん。
「熱は、……三十八度か、解熱剤効きが悪いなあ」
と私の脈を計ってから渋い顔をした。
「後で先生からもお話があると思うけど」
「夏休みいっぱい入院です?」
「よくわかってるじゃない、さすがはーちゃん」
口角をキッチリ上にあげたニッコリが怖い、ちょっと怒っている佐々木さんだ。
「家で安静にしてるって約束だったよね?」
うっと返事に詰まる私の顔を見て佐々木さんは表情を緩めてくれた。
「良かったね、春香ちゃんがいてくれて。二人、友達だったんだね」
「佐々木さん、春香先輩のことなんで知ってるの?」
「ほら、だって!」
驚いたように私の目を見て黙ってしまった佐々木さんは少ししてから。
「そっか、はーちゃんは手術後の記憶が曖昧なんだもんね」
どういうこと?
「はーちゃんがいじめっこを泣かせた事件って覚えてる?」
「……いじめっこかどうか、わかんないけれど。誰かととっくみあいのケンカをしたというのは、佐々木さんやママが話してくれたから」
「相手は春香ちゃんよ」
「へ?」
「分院でね、脱走事件の少し前よ。春香ちゃんが、はーちゃんのお友達をいじめて泣かせちゃって。それにキレたはーちゃんが春香ちゃんを突き飛ばして」
覚えていない記憶の中の自分。
曖昧な記憶は手術前の数日間。
「二人とも女の子なのに、顔に引っかき傷作っちゃって大変だったからね? 勝ったのははーちゃん。春香ちゃんの方が体が大きかったのに泣かせちゃってさ?」
わー、春香先輩相手に私なんてことを!!
「……、春香先輩はそのこと」
「ちゃんと覚えてたわよ? 相手がはーちゃんだったことも思い出したみたいで、やっぱりか、って笑ってた」
つまりは春香先輩にとっては私は昔からの因縁の相手。
春香先輩、また来るって言ってた! 次会う時どんな顔をしていたらいいんだろう。
というか、やっぱりそういうの色々差し引いても私の方が分が悪い、ごめんなさいっ!!
「怒ってるかなあ、春香先輩」
一人青くなったり赤くなったりする私を見て佐々木さんが、そんなことはないと首を振り苦笑いをした時だった。
「あの、すみません!!」
カーテンの向こうに人の気配がして佐々木さんが開けてくれた先には汗だくの空人くんが立ち尽くしていた。
その様子を見て佐々木さんはクスリと笑って。
「まだ熱が下がりきってないから疲れさせないであげてね、それともう少ししたらはーちゃんのご家族が来るから、いちゃいちゃはしないこと」
「っ、佐々木さんっ!!」
「ふふっ、じゃあまた後でね、はーちゃん。空人くんは風邪ひかないように早く汗拭いて」
んん? 空人くん自身も私も。
佐々木さんの『空人くん』呼びに目を丸くしているうちにカーテンの向こうに消えていく。
もしかして、佐々木さんは空人くんのことも覚えている?
「あ、座って。空人くん」
まだ息の上がっている空人くんに、さっきまで春香先輩が座っていた椅子を示す。
駅の改札口で別れてからどれぐらいの時間が経ったのかわからないけれど、空人くんの家からここまでは割と距離があるのに。
パパやママよりも先に駆けつけてくれた。
大汗をかいて、息を必死に整えて。
「家から走ってきてたり?」
まさかね、と笑った私に。
「さすがに無理、自転車」
「え? 自転車って、だって」
それだって相当距離があって疲れちゃったはず。
「春香から連絡があって、二宮が倒れたって聞いて。バスとか電車とか待ってるのも面倒だし、とにかく! 無事な顔見たかった」
疲れたと椅子に腰かけて、肩を落としてハンカチで汗を拭う空人くん。
「ありがとう」
来てくれて、心配してくれて、駆けつけてくれて。
私の無事な顔を見たいと言ってくれて。
その全部が嬉しくて体がしんどくても笑みがこみ上げた。
シャッとカーテンを開けて覗き込んで来たのは佐々木さん。
「熱は、……三十八度か、解熱剤効きが悪いなあ」
と私の脈を計ってから渋い顔をした。
「後で先生からもお話があると思うけど」
「夏休みいっぱい入院です?」
「よくわかってるじゃない、さすがはーちゃん」
口角をキッチリ上にあげたニッコリが怖い、ちょっと怒っている佐々木さんだ。
「家で安静にしてるって約束だったよね?」
うっと返事に詰まる私の顔を見て佐々木さんは表情を緩めてくれた。
「良かったね、春香ちゃんがいてくれて。二人、友達だったんだね」
「佐々木さん、春香先輩のことなんで知ってるの?」
「ほら、だって!」
驚いたように私の目を見て黙ってしまった佐々木さんは少ししてから。
「そっか、はーちゃんは手術後の記憶が曖昧なんだもんね」
どういうこと?
「はーちゃんがいじめっこを泣かせた事件って覚えてる?」
「……いじめっこかどうか、わかんないけれど。誰かととっくみあいのケンカをしたというのは、佐々木さんやママが話してくれたから」
「相手は春香ちゃんよ」
「へ?」
「分院でね、脱走事件の少し前よ。春香ちゃんが、はーちゃんのお友達をいじめて泣かせちゃって。それにキレたはーちゃんが春香ちゃんを突き飛ばして」
覚えていない記憶の中の自分。
曖昧な記憶は手術前の数日間。
「二人とも女の子なのに、顔に引っかき傷作っちゃって大変だったからね? 勝ったのははーちゃん。春香ちゃんの方が体が大きかったのに泣かせちゃってさ?」
わー、春香先輩相手に私なんてことを!!
「……、春香先輩はそのこと」
「ちゃんと覚えてたわよ? 相手がはーちゃんだったことも思い出したみたいで、やっぱりか、って笑ってた」
つまりは春香先輩にとっては私は昔からの因縁の相手。
春香先輩、また来るって言ってた! 次会う時どんな顔をしていたらいいんだろう。
というか、やっぱりそういうの色々差し引いても私の方が分が悪い、ごめんなさいっ!!
「怒ってるかなあ、春香先輩」
一人青くなったり赤くなったりする私を見て佐々木さんが、そんなことはないと首を振り苦笑いをした時だった。
「あの、すみません!!」
カーテンの向こうに人の気配がして佐々木さんが開けてくれた先には汗だくの空人くんが立ち尽くしていた。
その様子を見て佐々木さんはクスリと笑って。
「まだ熱が下がりきってないから疲れさせないであげてね、それともう少ししたらはーちゃんのご家族が来るから、いちゃいちゃはしないこと」
「っ、佐々木さんっ!!」
「ふふっ、じゃあまた後でね、はーちゃん。空人くんは風邪ひかないように早く汗拭いて」
んん? 空人くん自身も私も。
佐々木さんの『空人くん』呼びに目を丸くしているうちにカーテンの向こうに消えていく。
もしかして、佐々木さんは空人くんのことも覚えている?
「あ、座って。空人くん」
まだ息の上がっている空人くんに、さっきまで春香先輩が座っていた椅子を示す。
駅の改札口で別れてからどれぐらいの時間が経ったのかわからないけれど、空人くんの家からここまでは割と距離があるのに。
パパやママよりも先に駆けつけてくれた。
大汗をかいて、息を必死に整えて。
「家から走ってきてたり?」
まさかね、と笑った私に。
「さすがに無理、自転車」
「え? 自転車って、だって」
それだって相当距離があって疲れちゃったはず。
「春香から連絡があって、二宮が倒れたって聞いて。バスとか電車とか待ってるのも面倒だし、とにかく! 無事な顔見たかった」
疲れたと椅子に腰かけて、肩を落としてハンカチで汗を拭う空人くん。
「ありがとう」
来てくれて、心配してくれて、駆けつけてくれて。
私の無事な顔を見たいと言ってくれて。
その全部が嬉しくて体がしんどくても笑みがこみ上げた。
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