52 / 73
*夏休み、海辺の町で*
一日だけでいいんです4
しおりを挟む
「あの日、ごめんね」
「うん?」
私はイチゴ、空人くんはメロン味のかき氷を食べながら。
空人くんの言葉の意味はきっと……。
「気にしてないよ、言ったでしょ」
あの日のこと、空人くんも考えてたんだ。
もしかして、今日って。
「だから? 空人くん」
「ん?」
「お祭りだったから、私のこと、ここに連れてきてくれた?」
あの日をやり直してくれるみたいに?
じっと私を見下ろした空人くんは見る見る顔をしかめて、それから盛大なため息をついた。
「……、二宮のそういうとこ嫌い」
「えっ、ええっ?!」
嫌いって、なんで?!
私、空人くんに何か嫌われるようなことした?
「御守りの時もそうだったけど、ちょっと俺が格好つけようとしても、二宮が全部解説しちゃうからヤダ」
あ、そういえば。
御守りの時も優しいって言ったら、空人くん真っ赤になっていて。
そう今みたいに!!
「あの、ね」
「うん?」
「御守りの時もだったけど、今も」
「……、ああ、いいわ、言うな、二宮! 頼むから!」
私の次に口にする言葉は空人くんの予想の中にあるんだろう。
ますます顔を赤くして。
「空人くんは、やっぱり優しい」
あー! もうっと耳まで赤くして、ソッポ向いちゃう空人くんが可愛いと思った。
クスクス笑うと、ふんっと唇とがらせて。
ズルイな、空人くんは。
こうして私の心の中を侵食してくるから。
真宙くんのことを真剣に考えようとしていた心の中の大半はもう、空人くんでいっぱいだ。
「もしかして具合悪い? 二宮」
切なくなり黙りこくってしまった私に気づいて。
優しい眼差しで覗き込んでくる空人くんにブンブンと首を横に振った。
一度だけ、今日一日だけ。
学校の友達が誰もいない街での特別な時間は、私に与えられたボーナスステージだ、きっと。
今日が終われば、昨日までの二人に戻るための大事な時間。
屋台を一通りまわり終え、空人くんに案内されてお婆ちゃんの家へ。
空人くんが言っていた通り、食卓いっぱいに並んだご馳走の数々。
マグロの船盛や、漬け丼、お寿司に汁物。
お煮しめやお婆ちゃん特製オードブルがギッシリ。
食べて食べてと勧められ続けて、空人くんも私もお腹がはち切れそうなほどに食べた。
「見る? ハナちゃん。空人の小さい頃の写真」
「やめて、婆ちゃん! ホンット、それだけは」
昼間から瓶ビールを飲んでいたお婆ちゃんは、やめてくれと懇願する空人くんを無視してクッキーの空き缶いっぱいに入った写真をザザッと床にぶちまけた。
「ほら、これはね、生まれてまだ3ヶ月」
「可愛い~! 空人くん、面影ある」
ふっくらほっぺの赤ちゃん空人くんを抱っこした今よりも若い頃のお婆ちゃん。
「生まれた時から目元に黒子があってね、普通赤ちゃんって黒子がないんだってさ。だから看護師さんがゴミだと思ってゴシゴシ擦ったらしくてねえ」
ゲラゲラと笑って話すお婆ちゃんに最早あきらめ気味の空人くんは、食後のスイカを頬張りながらイジけた顔をしていた。
「こっちは幼稚園前だね、この頃の空人は女の子みたいですぐ泣いてばっかりで」
クスクスと笑って私に差し出した写真は、黄色いパジャマ姿で点滴に繋がれた空人くん。
「病院に入院してた頃の写真なの。心臓に穴が空いてたなんて全然わかんなかったんだよ。元気だったしね。でも自然に埋まるような小さい穴じゃないからって、手術してねえ」
……、そっか、空人くんもだったんだ。
少し涙目になったお婆ちゃんに気づいて空人くんは笑う。
「今はもう元気だってば、婆ちゃん」
「本当だねえ、こんなに可愛い彼女ができるくらい元気になって本当に良かったよ」
「だからあ、彼女じゃないってば」
お婆ちゃんもお爺ちゃんも空人くんを見る目が優しい。
空人くんが元気で良かった、本当に良かった。
「うん?」
私はイチゴ、空人くんはメロン味のかき氷を食べながら。
空人くんの言葉の意味はきっと……。
「気にしてないよ、言ったでしょ」
あの日のこと、空人くんも考えてたんだ。
もしかして、今日って。
「だから? 空人くん」
「ん?」
「お祭りだったから、私のこと、ここに連れてきてくれた?」
あの日をやり直してくれるみたいに?
じっと私を見下ろした空人くんは見る見る顔をしかめて、それから盛大なため息をついた。
「……、二宮のそういうとこ嫌い」
「えっ、ええっ?!」
嫌いって、なんで?!
私、空人くんに何か嫌われるようなことした?
「御守りの時もそうだったけど、ちょっと俺が格好つけようとしても、二宮が全部解説しちゃうからヤダ」
あ、そういえば。
御守りの時も優しいって言ったら、空人くん真っ赤になっていて。
そう今みたいに!!
「あの、ね」
「うん?」
「御守りの時もだったけど、今も」
「……、ああ、いいわ、言うな、二宮! 頼むから!」
私の次に口にする言葉は空人くんの予想の中にあるんだろう。
ますます顔を赤くして。
「空人くんは、やっぱり優しい」
あー! もうっと耳まで赤くして、ソッポ向いちゃう空人くんが可愛いと思った。
クスクス笑うと、ふんっと唇とがらせて。
ズルイな、空人くんは。
こうして私の心の中を侵食してくるから。
真宙くんのことを真剣に考えようとしていた心の中の大半はもう、空人くんでいっぱいだ。
「もしかして具合悪い? 二宮」
切なくなり黙りこくってしまった私に気づいて。
優しい眼差しで覗き込んでくる空人くんにブンブンと首を横に振った。
一度だけ、今日一日だけ。
学校の友達が誰もいない街での特別な時間は、私に与えられたボーナスステージだ、きっと。
今日が終われば、昨日までの二人に戻るための大事な時間。
屋台を一通りまわり終え、空人くんに案内されてお婆ちゃんの家へ。
空人くんが言っていた通り、食卓いっぱいに並んだご馳走の数々。
マグロの船盛や、漬け丼、お寿司に汁物。
お煮しめやお婆ちゃん特製オードブルがギッシリ。
食べて食べてと勧められ続けて、空人くんも私もお腹がはち切れそうなほどに食べた。
「見る? ハナちゃん。空人の小さい頃の写真」
「やめて、婆ちゃん! ホンット、それだけは」
昼間から瓶ビールを飲んでいたお婆ちゃんは、やめてくれと懇願する空人くんを無視してクッキーの空き缶いっぱいに入った写真をザザッと床にぶちまけた。
「ほら、これはね、生まれてまだ3ヶ月」
「可愛い~! 空人くん、面影ある」
ふっくらほっぺの赤ちゃん空人くんを抱っこした今よりも若い頃のお婆ちゃん。
「生まれた時から目元に黒子があってね、普通赤ちゃんって黒子がないんだってさ。だから看護師さんがゴミだと思ってゴシゴシ擦ったらしくてねえ」
ゲラゲラと笑って話すお婆ちゃんに最早あきらめ気味の空人くんは、食後のスイカを頬張りながらイジけた顔をしていた。
「こっちは幼稚園前だね、この頃の空人は女の子みたいですぐ泣いてばっかりで」
クスクスと笑って私に差し出した写真は、黄色いパジャマ姿で点滴に繋がれた空人くん。
「病院に入院してた頃の写真なの。心臓に穴が空いてたなんて全然わかんなかったんだよ。元気だったしね。でも自然に埋まるような小さい穴じゃないからって、手術してねえ」
……、そっか、空人くんもだったんだ。
少し涙目になったお婆ちゃんに気づいて空人くんは笑う。
「今はもう元気だってば、婆ちゃん」
「本当だねえ、こんなに可愛い彼女ができるくらい元気になって本当に良かったよ」
「だからあ、彼女じゃないってば」
お婆ちゃんもお爺ちゃんも空人くんを見る目が優しい。
空人くんが元気で良かった、本当に良かった。
10
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕《わたし》は誰でしょう
紫音
青春
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※第7回ライト文芸大賞奨励賞受賞作品です。
※表紙イラスト=ミカスケ様
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる