通路

まるさんかくしかく

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通路

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 主治医の支持で毎日、ウォーキングする事になって、一年が過ぎた。最初は短い距離だったが、だんだんと距離を延ばし、毎日、一万歩ほど歩いている。ちょうど、往復の中間地点にJRの駅があり、そこを折り返して、帰路に就く。不思議なもので、腎臓と肝臓の数値も良くなった。

 そのウォーキングコースに連絡通路があり、そこを抜けている。30年ほど前は開かずの踏切だったのだったのだが、行政もこれではまずいだろうと、突貫工事でトンネルを掘って、通路にしている。

 これだけ歩いていると、突発的な事象にもあったりする。深夜に通路の階段を上っていると、階段の所に倒れている人間がいる。息はあるようだ。酔っぱらいである。

 JR近くの派出所に連絡をして、保護してもらうように、伝えた。

 それが二度ほど続いた。この通路の常連のようである。

 この無理やり作った通路を歩いていると、昔見た「狼男アメリカン」の地下鉄通路の場面を思い出す。

 狼男に変身した主人公の視点で通行人を追い詰める。演じるは、ジム・ヘンソンだったと思う。

 そんな風な通路である。

 ある日、髪の長い女性とすれ違った時は驚いた。

 あまりに、突然で、いきなりな感じだったからだが、すれ違う際、会釈をすると、会釈を返してくれた。

 なんだ、綺麗な女性じゃないか。

 驚いた事に、申し訳ない感じがした。

 それから、数度、すれ違うことがあったが、会釈する時もあれば、しない時もある。

 ただの通行人だからである。

 異常が起きたのは、数か月後だった。

 いつものように、その髪の長い女性とすれ違ったが、片方のパンプスを履いていなかった。

 不自然すぎるので声をかけようとしたが、軽く会釈をして反対側の階段へ向かって行った。

 首をひねりながら、階段を上り、JRの前に行くと、パトカーと救急車が止まっていた。

 何か、事件が起こったのだろう。

 救急車のストレチャーに乗せられている人を見ると、さっき、すれ違った女性だった。

 無謀運転の車が歩道橋を歩いていた彼女を轢いてしまったのだ。


 私は今日もその通路を歩いて、ウォーキングを続けている。

 片方のパンプスをなくした彼女ともよくすれ違うが、会釈を返してくれる。

 早く家に着くと良いな。

 それをいつも願っている。
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