愛と狂気のダンス

春巻翠

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Part.3

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「お母さん、行かないで…。」

「優や、元気でね。体に気をつけるんだよ。」

「お母さああああん」



私は今日、12月31日、死んだ。

50歳だった。

人生ここまで本当にいろんなことがあった。

学生時代はバレーボール部に所属し、辛い六年間を過ごした。

社会人になって就職して、親元を離れ、あの人と出会い、結婚して子供を産んだ。

その間に社会も大きく変動し、もう私のような古い人間には
非常に生きづらい世の中になってしまった。

タイミングとしてはよかったかもしれない。

それでも一つ心配なのは、2人の子供たちのことだ。

姉の方は高校二年生で、将来の夢はアナウンサーになることらしい。

最近は、そのために毎日学校や図書館に行って、ずっと勉強していた。

毎日遅くにげっそりして帰ってくるので、いつも心配だった。できることならもう少し支えてあげたかった。

努力家な姉とは対照的に、中学3年の弟は学校を休みがちで、ずっと部屋に引きこもっている。

少しは外に出て欲しいし、親としてはちゃんと社会に出て行けるのか心配である。


そんな彼らは今、 病室のベッドで横たわる、もう動くことのない私を見つめている。

どうやら、犯人はまだ見つかっていないらしく、

尚更、子供たちが道を踏み外さないか心配である。

私が発見されたとき、腹には大きな穴がポッカリと空いていて、
あらゆる臓器がめちゃくちゃに刻まれていたらしい。

全く記憶にないが、家でゆっくりとコーヒーを飲みながら、韓国ドラマを見ていたところまではおぼえている。

犯人がわからないのも煮え切らないし、50という若さで死ぬことを、尚早だと思わないではないが、

そこまで生に執着はしていない。

だが、家族が心配でならない。

誰がご飯をつくるのか、洗濯して、掃除をするのか。子供たちは...


私は、幽体となった今、少し子供たちと、夫を見守ることに決めた。







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