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第七章 リリスとマリア
第六話
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リリスのいる部屋から出た真生は、アダム社の中をゆっくりと見回す。
廊下ですれ違う人の顔を眺めながら、ふとある事に気が付く。アダム社の中を歩いているのは、殆どアンドロイドだった。
確か前に来た時はもっと人間に溢れ返り、ちゃんと人間同士のやり取りが存在していた様に思う。
けれど今のアダム社からは、生きた人間の熱を感じられなかった。
アンドロイドが行き交う廊下を歩きながら、人形の博物館の様だと思う。またはお化け屋敷の中を歩いている様だ、とも思っていた。
やはりアダム社は真生にとって、後味の良くない存在だと確信する。
真生の背後を歩くマリアは、来た時とは違い口数が減っていた。
「うちの姫君が失礼な真似して………本当にごめんねマリアちゃん??」
「…………大丈夫ですよ、東郷さん!!何時かリリスちゃんと仲良くなれたらいいなぁ!!」
作り笑いを浮かべたマリアを横目に、真生はマリアの身体を案じていた。
マリアがあんな風に自分から配線を抜く姿を、初めて目の当たりにしたのだ。
マリアは大した事で物怖じをしない。常に逃げる事は無くちゃんと立ち向かう。
そのマリアが自分から配線を外すという事は、それなりのダメージを身体に負っているに違いない。
***
マリアは家に帰ってくるなり、玄関先で倒れ込む。リリスが与えた電波信号は、やはりマリアのボディを疲弊させていた。
ぐったりとフローリングの床の上に寝転がり、天井を見上げる。真生は慌ててマリアを抱き上げ、寝室迄走った。
「っ…………!!!マリア、本当にごめん!!!」
一連のマリアの行動には、真生は全く関与をしていない。けれど謝らずには居られなかった。
真生の腕の中のマリアは真っ青な顔で笑い、真生の胸に首を預ける。
「……………ご主人様が謝る事なんて、何にも無いですよ??」
マリアはそう言って、静かに目を閉じた。
情報処理とボディを休める為の強制終了をしたマリアを、ベッドに寝かせて溜め息を吐く。
ベッドサイドにはマリアが起きた時に飲める様に、マロウブルーとレモングラスの冷たいハーブティーを置いておく。
真生は一連の事件の件での無力さを、痛いほどに噛み締めていた。
本来ならこの一連の事件に関しては、誰かに頼まれている訳でも無ければ、別に自分が気を病ませるべきことでもない。
ただ仲間が巻き込まれて、親しい身内が怪我をし、知っているアンドロイドが廃棄をされただけだ。
自分の身には何一つ、問題は起きていない。
お節介、野次馬、余計なお世話。そして偽善とヒロイズム。真生は頭に浮かぶ言葉を思い返す度に、がくりと気が重くなる。
疲れ切ったマリアの寝顔も、真生の後悔の念を増幅させた。
「…………ごめんね、マリア…………」
真生はマリアを起こさない様に、サーモンピンクの唇に唇を重ね合わせる。
プラチナブロンドの長い髪を優しく撫でた瞬間、携帯がけたたましく鳴り響いた。
真生は大きく跳ね上がり、慌てて携帯電話の画面を見る。すると其処には『幾丘綾香』の名前が浮かび上がった。
綾香が真生に電話を入れてくるなんて、付き合っていた頃以来だ。
「……………………もしもし」
寝室から出た真生は、携帯電話を耳に宛てる。真生はリビングに向かって歩き始めた。
廊下ですれ違う人の顔を眺めながら、ふとある事に気が付く。アダム社の中を歩いているのは、殆どアンドロイドだった。
確か前に来た時はもっと人間に溢れ返り、ちゃんと人間同士のやり取りが存在していた様に思う。
けれど今のアダム社からは、生きた人間の熱を感じられなかった。
アンドロイドが行き交う廊下を歩きながら、人形の博物館の様だと思う。またはお化け屋敷の中を歩いている様だ、とも思っていた。
やはりアダム社は真生にとって、後味の良くない存在だと確信する。
真生の背後を歩くマリアは、来た時とは違い口数が減っていた。
「うちの姫君が失礼な真似して………本当にごめんねマリアちゃん??」
「…………大丈夫ですよ、東郷さん!!何時かリリスちゃんと仲良くなれたらいいなぁ!!」
作り笑いを浮かべたマリアを横目に、真生はマリアの身体を案じていた。
マリアがあんな風に自分から配線を抜く姿を、初めて目の当たりにしたのだ。
マリアは大した事で物怖じをしない。常に逃げる事は無くちゃんと立ち向かう。
そのマリアが自分から配線を外すという事は、それなりのダメージを身体に負っているに違いない。
***
マリアは家に帰ってくるなり、玄関先で倒れ込む。リリスが与えた電波信号は、やはりマリアのボディを疲弊させていた。
ぐったりとフローリングの床の上に寝転がり、天井を見上げる。真生は慌ててマリアを抱き上げ、寝室迄走った。
「っ…………!!!マリア、本当にごめん!!!」
一連のマリアの行動には、真生は全く関与をしていない。けれど謝らずには居られなかった。
真生の腕の中のマリアは真っ青な顔で笑い、真生の胸に首を預ける。
「……………ご主人様が謝る事なんて、何にも無いですよ??」
マリアはそう言って、静かに目を閉じた。
情報処理とボディを休める為の強制終了をしたマリアを、ベッドに寝かせて溜め息を吐く。
ベッドサイドにはマリアが起きた時に飲める様に、マロウブルーとレモングラスの冷たいハーブティーを置いておく。
真生は一連の事件の件での無力さを、痛いほどに噛み締めていた。
本来ならこの一連の事件に関しては、誰かに頼まれている訳でも無ければ、別に自分が気を病ませるべきことでもない。
ただ仲間が巻き込まれて、親しい身内が怪我をし、知っているアンドロイドが廃棄をされただけだ。
自分の身には何一つ、問題は起きていない。
お節介、野次馬、余計なお世話。そして偽善とヒロイズム。真生は頭に浮かぶ言葉を思い返す度に、がくりと気が重くなる。
疲れ切ったマリアの寝顔も、真生の後悔の念を増幅させた。
「…………ごめんね、マリア…………」
真生はマリアを起こさない様に、サーモンピンクの唇に唇を重ね合わせる。
プラチナブロンドの長い髪を優しく撫でた瞬間、携帯がけたたましく鳴り響いた。
真生は大きく跳ね上がり、慌てて携帯電話の画面を見る。すると其処には『幾丘綾香』の名前が浮かび上がった。
綾香が真生に電話を入れてくるなんて、付き合っていた頃以来だ。
「……………………もしもし」
寝室から出た真生は、携帯電話を耳に宛てる。真生はリビングに向かって歩き始めた。
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