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第四章 心変わりは人の世の常
第六話
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研究室での会話は今、渋谷で起きたアンドロイドが起こした、殺人事件の話で持ち切りだ。
アンドロイドを日常的に使う真生たちの研究室では、事件の概要を延々と予想立てている。
まるで探偵にでもなったかの様に、各々の推測を口にしていた。
「俺は人間の命令だと思うぜ…………アンドロイドが自分の意志で人間を殺すなんて、絶対にありえない」
博嗣がそう言いながら、自分で作ったアンドロイドの虹彩を光に透かす。その隣でキーボードを指で叩きながら、綾香が口を開いた。
「アンドロイドにも意志はあるわ。シンギュラリティの事を考えれば、何時かそんな事が起きても私はおかしくなかったと思う。アンドロイドだと思って不義理な対応をしていたから、きっとこうなったに違いないわ。
AIアンドロイドには感情があるんだから、大切にしなきゃいけないわ」
綾香の口ぶりを聞きながら、真生は綾香がロイを可愛がっているのを、其処から密やかに垣間見る。
それに対して仄かに嬉しさを感じた。
けれど綾香の発言から、研究室の空気がいきなり一変する。美桜が多少むきになった様子で、綾香に対して喰って掛かった。
「…………アンドロイドは作り物だって!意志なんてない!そんなの人間の勘違いよ!!」
昨日博嗣とホテルから出てきた美桜を見た真生としては、アンドロイドの意志での犯行だった場合、それを認めたくない気持ちはよく解る。
アンドロイドに感情があったのならば、今の美桜の状態はまさに明日は我が身だ。
何時エナに殺されても、おかしくない行為をしている。
普段綾香と美桜は仲が良い。二人は塾に通っている頃から仲が良かった。
その分、美桜の綾香に対する口調はきつい。
真生と博嗣はお互いに目を見合わせながら、この場をどう収集をつけるべきかと考える。
綾香と美桜は場の空気を悪くした事を感じ取ったのか、それ以上の議論をせずに作業を再開した。
規則的に響き渡るタイプ音に、真生と博嗣は安堵する。けれど真生は真生で昨日見かけた、博嗣と美桜のホテルの件で、戸惑いを隠せないでいた。
居心地が悪い、と真生は思う。空になった珈琲を買いに行くふりをして、研究室の外に出る。
紙コップ式の自動販売機に小銭を入れ、砂糖とミルクの入ったホット珈琲が出来上がるのを待つ。
出てきた珈琲をその場で口に含むと、妙に安っぽい味がした。
何時もマリアが淹れてくれている珈琲の味は、ちゃんと珈琲メーカーで作っているものだ。
サイフォンで淹れているものと比べれば、流石に味は劣るけれど、ちゃんと真生の好きな温度で濃さである。
真生はマリアの作った珈琲を恋しがりながら、眼鏡を指で押し上げ溜め息を吐いた。
「…………帰りたいな」
ぼそりとそう嘆いてから、通知の鳴り響く携帯電話を開く。するとまた携帯に『アンドロイドが人間を襲った』というニュースが届いた。今度は新宿区。男性一人が怪我を負った。
AIアンドロイドは駆け付けた警察官の手によって、破壊されたと記されていた。
AIアンドロイドが行う殺傷の事件が、こんな頻繁に起きる筈がないと真生は思う。
けれど真生の携帯電話には、新たな事件の概要ばかりが送りつけられ続けていた。
アンドロイドを日常的に使う真生たちの研究室では、事件の概要を延々と予想立てている。
まるで探偵にでもなったかの様に、各々の推測を口にしていた。
「俺は人間の命令だと思うぜ…………アンドロイドが自分の意志で人間を殺すなんて、絶対にありえない」
博嗣がそう言いながら、自分で作ったアンドロイドの虹彩を光に透かす。その隣でキーボードを指で叩きながら、綾香が口を開いた。
「アンドロイドにも意志はあるわ。シンギュラリティの事を考えれば、何時かそんな事が起きても私はおかしくなかったと思う。アンドロイドだと思って不義理な対応をしていたから、きっとこうなったに違いないわ。
AIアンドロイドには感情があるんだから、大切にしなきゃいけないわ」
綾香の口ぶりを聞きながら、真生は綾香がロイを可愛がっているのを、其処から密やかに垣間見る。
それに対して仄かに嬉しさを感じた。
けれど綾香の発言から、研究室の空気がいきなり一変する。美桜が多少むきになった様子で、綾香に対して喰って掛かった。
「…………アンドロイドは作り物だって!意志なんてない!そんなの人間の勘違いよ!!」
昨日博嗣とホテルから出てきた美桜を見た真生としては、アンドロイドの意志での犯行だった場合、それを認めたくない気持ちはよく解る。
アンドロイドに感情があったのならば、今の美桜の状態はまさに明日は我が身だ。
何時エナに殺されても、おかしくない行為をしている。
普段綾香と美桜は仲が良い。二人は塾に通っている頃から仲が良かった。
その分、美桜の綾香に対する口調はきつい。
真生と博嗣はお互いに目を見合わせながら、この場をどう収集をつけるべきかと考える。
綾香と美桜は場の空気を悪くした事を感じ取ったのか、それ以上の議論をせずに作業を再開した。
規則的に響き渡るタイプ音に、真生と博嗣は安堵する。けれど真生は真生で昨日見かけた、博嗣と美桜のホテルの件で、戸惑いを隠せないでいた。
居心地が悪い、と真生は思う。空になった珈琲を買いに行くふりをして、研究室の外に出る。
紙コップ式の自動販売機に小銭を入れ、砂糖とミルクの入ったホット珈琲が出来上がるのを待つ。
出てきた珈琲をその場で口に含むと、妙に安っぽい味がした。
何時もマリアが淹れてくれている珈琲の味は、ちゃんと珈琲メーカーで作っているものだ。
サイフォンで淹れているものと比べれば、流石に味は劣るけれど、ちゃんと真生の好きな温度で濃さである。
真生はマリアの作った珈琲を恋しがりながら、眼鏡を指で押し上げ溜め息を吐いた。
「…………帰りたいな」
ぼそりとそう嘆いてから、通知の鳴り響く携帯電話を開く。するとまた携帯に『アンドロイドが人間を襲った』というニュースが届いた。今度は新宿区。男性一人が怪我を負った。
AIアンドロイドは駆け付けた警察官の手によって、破壊されたと記されていた。
AIアンドロイドが行う殺傷の事件が、こんな頻繁に起きる筈がないと真生は思う。
けれど真生の携帯電話には、新たな事件の概要ばかりが送りつけられ続けていた。
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