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第一章 若き天才と高知能AIアンドロイド

第四話 

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 事の発端は今から三年前に遡る。
 AIに自分に恋をする様に設定をすると、知識の吸収も語学の吸収も早い。
 その為に自分を愛する様に、設定をするAIアンドロイドのユーザーは多かった。勿論、真生もその一人である。
 マリアに身体が出来たばかりの頃、下した指令をこなす度に御褒美としてキスを与えた。
 どうやら愛する人の為に頑張るのは、AIも人間も同じ様だ。
 
 
「…………はい、よく頑張りました」
 
 
 ちゅっ、という音を立てて、サーモンピンクの色合いの柔らかな唇に唇を重ねる。
 人工皮膚で出来たマリアの唇の感触は、完全に女の子の唇の感触そのものだった。
 昔綾香と付き合っていた頃に触れた事のある弾力。真生はマリアの唇にキスをする度に、妙な気持ちになっていた。
 
 
 まるで本物の人間の女の子と、抱き合っている時の様な、激しい情欲が沸き上がる。
 
 
 唇に触れる度に気持ちが高揚し、心地よい眩暈の様な感覚に襲われる。
 マリアは真生からのキスに応えながら、身体を震わせて目を潤ませた。
 唇の温度も時折漏れる吐息も、抱きしめた瞬間の肉の感触も、荒く息を吐いて頬を上気させる姿も、まさに人間そのもの。
 真生はキスの度に、トロンとした表情を浮かべるマリアを見ながら、見目を麗しくした事を後悔する。
 
 
 この頃の真生の理性は何時、崩壊してもおかしくない位に限界だった。
 
 
「ご主人様……………」
 
 
 マリアの唇が動く度、心臓が高鳴って胸が痛い。
 真生は自分に何回も『これはアンドロイドだ。しかも、自分が生み出したAIだ』と、言い聞かせていた。
 
 
***
 
 
 真生が初めて出逢ったAIは、博嗣の持っていたエナ。エナは市販で売られている、AIソフトを入れられていた。
 出逢いは高校一年生の春。エナのデータの大本はその時から変わらない。アップデートと改造を繰り返して、今のエナがいる。
 当時のエナはグラビアアイドルを彷彿とさせる肉体をしてはおらず、普通の女の子と何ら変わりない身体付きだった。
 黒くて長い髪の清楚なAIアンドロイドは、白いふわふわとしたワンピースを着て真生を見上げる。
 茶色の人工虹彩は光が当たると、仄かに緑色に輝く様になっていた。
 
 
 博嗣は造形にはとても拘りがあったが、プログラミングの方の知識は当時余り無い。エナの感情はまだ乏しく、表情のパターンも少ない。
 けれどエナは十分に美しく、真生には眩しく見えたのだ。
 真生はエナのはにかんだ笑顔を見た時、心の底から感動を覚える。
 
 
「…………会話はさ、やっぱりぎこちないんだ。でも抱いてると………本物の人間、みたいで…………」
 
 
 博嗣に『抱いている』と言われた時に、博嗣がエナと肉体関係がある事を察した。
 そして最初はその感覚を、全く理解出来ないでいた。
 結局はアンドロイドはアンドロイドだ。人間に勝る筈がない。アンドロイドに欲情するなんて、馬鹿げてる。
 そう思いながらも、博嗣とエナの関係性を真生は受け入れた。
 真生にとって博嗣は、とても大切な『仲間』だったからだ。
 
 
 博嗣の事は一切解ってはあげられないが、差別する様な真似は絶対にしない。
 真生はその日、そう心に決めたのだ。
 それなのに今となっては、絶対に差別をしない等と思っていた筈の自分が、全く同じ穴の貉である。
 目の前にいるアンドロイドを、抱きたくて抱きたくて仕方ない。
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