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第2章
銀色の水面に恐怖して
しおりを挟む日が高く昇っている時間に顔を合わすのは久しぶりだった。
陽光に煌めく、青みがかった銀。太陽の光の下では白金に見える銀が好きで、輝きを失う夜を一層心細くさせたのを、覚えている。
「思い出して、しまったんでしょう?」
二つ縛りをしていた髪を後頭部で結わえるようになったのは、彼女に憧れたからだった。額の輝きが種族の違いを見せつけるけれど、彼女はいつだって笑顔で気高くて、優しくハークを迎えてくれた。
記憶を失った後も、ずっと。
強い光が彼女の顔に青白い影を作る。
ハークの瞳よりも薄い青色の瞳が、悲しみと慈しみに濡れていた。
「……私も、忘れていたのに」
春の雨を呼ぶような、水気を含んだ声。彼女の声を潤ませるのは、いつだって彼だったのを、ハークは知っていた。
銀の輝きが薄れた髪。左右で色の異なる目。それだけを理由に村を追い出された『彼』。
成り行きで同乗しただけなのに、たったそれだけでも思い出してしまうほど強い想いを抱いた相手だった。
「ねえ、私たち、これからどうなるんだろう」
朝日のようにあたたかく優しい彼女が、柄にもない言葉を口にした。
互いの肩に止まる相棒でも慰められない、慰めきれない不安が、二人の間に漂っている。
「誰とも連絡が取れない。連絡をしようにも、離れられない。
……離れたら、戻ってこれないかもしれない」
ナイシャが、こらえきれなかった涙を落とす。ぽたり、白磁のバルコニーに落ちたそれは、淡く青い染みを作って消えていく。
彼女の泣く姿をただ見つめることもできず、ハークは手を伸ばす。
今ここに二人が生きていることを、慰めるように。
「今は、役目を果たしましょう。ナイシャ」
抱きしめた身体は、柔らかくも細く、頼りない。
連絡が途絶えた今、生きていくことすら危ういのは言わずとも知れていた。
「私達は、銀の守護者です。ヒトがいなければ、生きていけないのですから」
目蓋の裏に過った、金色の微笑み。
そのあたたかさに頼るしかない不甲斐なさに、胸の奥がちくりと痛んでいた。
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