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時間稼ぎをするつもりが、事態は惠子の想像よりも急速に変化していた。
日本政府のニュースは、今朝のうちに知人から連絡を受けて知っていて、警備室からの帰路にも念押しで端末に目を通す。国が動き出したとなれば、大学病院で眠る二人はいずれ、そう遠くない内に搬送されるはず。
花眠病患者、もとい、花眠病の媒体は其処にしかないはずだ、と考えるのが通常だからだ。移動範囲に生存する全ての植物は元より、福永啓太に至っては室内に散っていた花弁も同様に、研究所へ送られる。
「お前さんが来てくれたのは、ある意味、僥倖だったかもしれないね」
「……へえ、そうですか」
警備員二人を背後に連れ、両腕を拘束された福永宙は辟易とした表情で返事をする。時間にして三十分、別室で惠子に尋問されたのが応えたか、研究室の前で解放されても、彼は大人しかった。
事を荒立てずに話を付けた。警備員にはそう言って廊下で待機を頼み、教授室に福永を通す。
「静かに。適当な椅子に座っていなさい」
ここで暴れるなら警備員を呼ぶし、大人しくするなら、こちらの許可がある限りでネタを仕入れてもらって構わない。やり取りを済ませたのは丁度今から五分前。
テレビ局の人間など惠子には伝書鳩程度の存在でしかなく、彼よりも優先すべき相手が他にいる。動くタイミングを見誤るわけにもいかない、貴重な人材が。
「待たせたね、水野くん。来てくれるかい?」
時機が良かったか、まるで絶食でもしたかのような青い顔と目が合った。香椎の呼び掛けに瞬きをして、一拍の後、勢いを付けて立ち上がる。
「はい!」
「みんなは少し待つように。ああ、浅香くん、君も」
「はーい」
惠子を見るや、ケトルに手を伸ばした優秀な秘書へ一言残し、水野を先へ行かせて教授室へ戻る。
言われた通りに着席していた福永と顔を見合わせ、無言で彼女は振り返った。
「話があるんだ。彼にも」
「……そう、ですか」
半信半疑を隠さず、一つ椅子を空けて座った水野に、福永が外方を向いて対抗する。
若々しい二人の前に椅子を置き、惠子もまた腰を下ろした。診察疲れと予期せぬ来訪者対応で、老いた身体は既に悲鳴を上げている。風呂でも浸かるような心地で気に入りの椅子に沈むと、吐息を一つ、自分の中で区切りをつけた。
「WHOに政府、大きな団体が花眠病対策に向けて動き出したのは知っているね」
異なる表情と視線が惠子に釘付けになる。道は違えど、どちらも最先端・最新を往かねばならない二人だ。何を言われるにしても、聞く耳を持っている。
「国が動くということは、研究者にとっては有難い道標になる。製薬や治療に予算を割いてもらえるし、何より、誰も未だ到達していない領域に、他でもない自分自身が一番乗りできるかもしれないからね。競争になるんだ」
陽の光を遮るカーテンも引かない部屋で、語る惠子の影は濃く、恐ろしく二人の目に映ったことだろう。
反射で己の姿を確かめながら、老い先短くも負ける気のないことを隠さず、言葉を続ける。
「国立感染症研究所は、この発表よりも早い内から、何人かに声を掛けていてね。私はそれに応じて、既にサンプルを一つ、隣の実験室に預かっている」
「……はい?」
惠子が筆頭者となる研究室は、渡り廊下を挟んだ隣の棟の部屋を含めて全部で六つ。現在三人が居るこのフロアは全て惠子の名前が責任者として掲げられており、瑤子をはじめとする学生達が使う実験室もここに含まれる。鍵付き倉庫で管理をしているが、花眠病患者の細胞や遺伝子は貴重で、出来ることなら知る人間は少ない方が助かる。
驚く瑤子の姿にほっと安堵したのも束の間、シ、と人差し指を立てた。随分と皺が増えたものだ。
「研究の調子は、悪いんでしょうね」
「そうだね。なかなか、たんぱく質の同定が難しい。……この話を君たちにしたのはね、奇妙な出来事がつい最近、あったからなんだ」
ここぞとばかりに鋭い問いかけをする福永を往なして、首を振る。診察の時だけ付ける眼鏡留めが、軽やかな音を立てた。
「私の実験室は、丁度、玄関の真上になる。窓は施錠しているが、人の手で開けることは可能だ。ここでね、とある夜、植木鉢が落ちたんだ」
「植木、鉢?」
「多肉植物用の鉢があるだろう。あのくらいの大きさのものが、数個、真上から落としたように、玄関の屋根や入口に割れて落ちていたそうなんだ。……この内の一つが、伊崎くんの自宅にあったものと一致した」
福永のことや研究のこと、そして伊崎日和の花眠病発症と関連するかもしれない出来事。ストレスのかかるであろう瑤子を気遣うように微笑を傾けて、一つの推測を叩き台に出す。
「知っての通り、日本で花眠病は症例が見られたばかりだ。けれど、伊崎くんの植木鉢と福永くんの花弁の話からは、花眠病が人為的な病だと推測が出来てしまう」
「そんなこと……っ!」
「あくまで、推測だよ。否定が出来なければ、可能性として残る」
口を真一文字に引き結んで、瑤子が反論を堪える。上げた腰をそのままに、両腕を突っ張ったままの彼女から、福永へと視線を移した。
「最初はサンプルが手に入り、研究できるならと思ったんだけどねえ。政府が発表した以上、怪しまれるわけにもいかないから、私はそのうち、ここを出ることになる。その前にどうにかしなければ、と思っていたら、彼が来た。
悪いけれど、言いように使わせてもらうよ」
外面を取り繕う暇もなかったのだろう、睨み返す姿は生意気で可愛いらしい。
室内灯がぼんやりと、均一に三人を照らし出す。空調の効いた程よい室温の中、自動モードの換気扇が回り出し、僅かな空気の流れを作った。
「私達に関する話題は、然るべき時が来るまでは公表を許可しないし、他社への圧力もかけてもらう。いいね、日丸のディレクター?」
大仰な溜息を一つ。福永は腕を組み、椅子の上で踏ん反り返った。
「勿論ですよ。もう一つの用事もね」
苦笑を誘われ、素直に応じる。偽装工作で一面記事に載ることを逃れて、気を抜いているかと思ったが、使える男だ。
「やれやれ、せっかちな男だ……水野くん、高槻先生から聞いたけれど、君はどうやら、既に新しい仮説を立てたようじゃないか」
「あ、はい。えっ、これ言って大丈夫……?」
言いながら瑤子を流し見れば、修士の頃から健在のうっかり発言が返る。福永の溜息に同情をしつつ、呆れを通り越して見慣れてしまった惠子の方は、構わないよ、と肩を竦めて、彼女の抱いているであろう心配を一掃する。
「私はね、君にも、一緒に研究所へ来て欲しいと思っている。未来ある君と君の研究を、後押しさせて欲しい」
残陽が、惠子の横を過ぎ、二人の手前に落ちた。
国立と名が付くと言っても、大学と研究所では、設備も管理も、研究者自身も全てが異なる。
投資できるモノ、人、金の量と質は勿論、個々人に課せられる負担も、研究所に所属した方が少なくて済む。
日本の大学は、未だ学費という形で金を補充し、大学のブランドや教授自身のコネを頼りに体裁を保っていた。一方、院生であれど研究する者として金を支払い続けた海外の大学は、研究者も企業も、日本とは比べ物にならない数が集まり、今や集めた国が最先端を拓く流れが定着している。
少ないながらも予算の大半を受給できる本学は、学生から巻き上げたお金と合わせて、自由の学風の名の下に多様な研究を保障してきた。再生医療の礎を築いたのも、物理や化学で新たな知識を生み出したのも、本学の実力があってこそ。世界ランクで東の大学を超えて久しい今、本学にある設備やコネクションは日本の何処よりも素晴らしいと云えるものだが、取り零してしまうものは必ずある。
海外で渡り歩いてきた、外の研究者とのディスカッション。専門家の指導。研究をすることの重みと、面白さ。金銭や人員の縛りを受けない研鑽。
大学をどのように選び、研究を花開かせるかは学生達に任されている。直接的な関わりがなくとも、論文を読めば補える部分は多いが、箱の中に居てはいつまで経っても井の中の蛙から変化しない。大勢と関わることで研究を奪われるリスクも生じるであろうが、それよりもリターンが大きい。
アイリス・ホワイトとの話もある。惠子の持つあらゆる全てを提供しても良い。先人として、できることは全て行いたかった。
そして、研究者として、同じ土俵で争い、勝ちたかった。
「君は、どうするかい?」
金銭、コネクション、設備、どれを取っても文句の一つも出るまい。これを選ばなければ馬鹿だと、研究者なら嫌でも分かるほどの提案を差し出したと思う。
揺らぎない自信は、経験と実績から。
しかし、一方的に誘う惠子に対し、瑤子がまず見せたのは、怒りにも見える、戸惑いの表情だった。
時間を、いただけませんか。そう言いたげな目に、惠子も苦笑を返す。
「ゆっくり、否、半日は考えてもらって──」
「すみません!」
もう少し年を取っていたら、不整脈を起こしたかもしれない。勢いのある返答をしたと思えば、瑤子はハッと両手で口を覆う。隣の福永を一瞥し、様子を伺われる。
「……あの、」
「……明日の昼までは待てる。直ぐに返事はしなくて構わない」
混乱をしているのだと見なして、水野を急かす色々に言い聞かせる。何を切羽詰まっているのか、大凡の推測はつく。
導いてきたのは惠子だ。
それでも、彼女は自ら選ばなければならない。
助けることも、突き放すこともしない。研究者が仲の良さや交流だけで研究を続けられたのは、過去のこと。
選択肢のない離れた場所にいる惠子には、苦笑を返す以外、何もできることはなかった。
日本政府のニュースは、今朝のうちに知人から連絡を受けて知っていて、警備室からの帰路にも念押しで端末に目を通す。国が動き出したとなれば、大学病院で眠る二人はいずれ、そう遠くない内に搬送されるはず。
花眠病患者、もとい、花眠病の媒体は其処にしかないはずだ、と考えるのが通常だからだ。移動範囲に生存する全ての植物は元より、福永啓太に至っては室内に散っていた花弁も同様に、研究所へ送られる。
「お前さんが来てくれたのは、ある意味、僥倖だったかもしれないね」
「……へえ、そうですか」
警備員二人を背後に連れ、両腕を拘束された福永宙は辟易とした表情で返事をする。時間にして三十分、別室で惠子に尋問されたのが応えたか、研究室の前で解放されても、彼は大人しかった。
事を荒立てずに話を付けた。警備員にはそう言って廊下で待機を頼み、教授室に福永を通す。
「静かに。適当な椅子に座っていなさい」
ここで暴れるなら警備員を呼ぶし、大人しくするなら、こちらの許可がある限りでネタを仕入れてもらって構わない。やり取りを済ませたのは丁度今から五分前。
テレビ局の人間など惠子には伝書鳩程度の存在でしかなく、彼よりも優先すべき相手が他にいる。動くタイミングを見誤るわけにもいかない、貴重な人材が。
「待たせたね、水野くん。来てくれるかい?」
時機が良かったか、まるで絶食でもしたかのような青い顔と目が合った。香椎の呼び掛けに瞬きをして、一拍の後、勢いを付けて立ち上がる。
「はい!」
「みんなは少し待つように。ああ、浅香くん、君も」
「はーい」
惠子を見るや、ケトルに手を伸ばした優秀な秘書へ一言残し、水野を先へ行かせて教授室へ戻る。
言われた通りに着席していた福永と顔を見合わせ、無言で彼女は振り返った。
「話があるんだ。彼にも」
「……そう、ですか」
半信半疑を隠さず、一つ椅子を空けて座った水野に、福永が外方を向いて対抗する。
若々しい二人の前に椅子を置き、惠子もまた腰を下ろした。診察疲れと予期せぬ来訪者対応で、老いた身体は既に悲鳴を上げている。風呂でも浸かるような心地で気に入りの椅子に沈むと、吐息を一つ、自分の中で区切りをつけた。
「WHOに政府、大きな団体が花眠病対策に向けて動き出したのは知っているね」
異なる表情と視線が惠子に釘付けになる。道は違えど、どちらも最先端・最新を往かねばならない二人だ。何を言われるにしても、聞く耳を持っている。
「国が動くということは、研究者にとっては有難い道標になる。製薬や治療に予算を割いてもらえるし、何より、誰も未だ到達していない領域に、他でもない自分自身が一番乗りできるかもしれないからね。競争になるんだ」
陽の光を遮るカーテンも引かない部屋で、語る惠子の影は濃く、恐ろしく二人の目に映ったことだろう。
反射で己の姿を確かめながら、老い先短くも負ける気のないことを隠さず、言葉を続ける。
「国立感染症研究所は、この発表よりも早い内から、何人かに声を掛けていてね。私はそれに応じて、既にサンプルを一つ、隣の実験室に預かっている」
「……はい?」
惠子が筆頭者となる研究室は、渡り廊下を挟んだ隣の棟の部屋を含めて全部で六つ。現在三人が居るこのフロアは全て惠子の名前が責任者として掲げられており、瑤子をはじめとする学生達が使う実験室もここに含まれる。鍵付き倉庫で管理をしているが、花眠病患者の細胞や遺伝子は貴重で、出来ることなら知る人間は少ない方が助かる。
驚く瑤子の姿にほっと安堵したのも束の間、シ、と人差し指を立てた。随分と皺が増えたものだ。
「研究の調子は、悪いんでしょうね」
「そうだね。なかなか、たんぱく質の同定が難しい。……この話を君たちにしたのはね、奇妙な出来事がつい最近、あったからなんだ」
ここぞとばかりに鋭い問いかけをする福永を往なして、首を振る。診察の時だけ付ける眼鏡留めが、軽やかな音を立てた。
「私の実験室は、丁度、玄関の真上になる。窓は施錠しているが、人の手で開けることは可能だ。ここでね、とある夜、植木鉢が落ちたんだ」
「植木、鉢?」
「多肉植物用の鉢があるだろう。あのくらいの大きさのものが、数個、真上から落としたように、玄関の屋根や入口に割れて落ちていたそうなんだ。……この内の一つが、伊崎くんの自宅にあったものと一致した」
福永のことや研究のこと、そして伊崎日和の花眠病発症と関連するかもしれない出来事。ストレスのかかるであろう瑤子を気遣うように微笑を傾けて、一つの推測を叩き台に出す。
「知っての通り、日本で花眠病は症例が見られたばかりだ。けれど、伊崎くんの植木鉢と福永くんの花弁の話からは、花眠病が人為的な病だと推測が出来てしまう」
「そんなこと……っ!」
「あくまで、推測だよ。否定が出来なければ、可能性として残る」
口を真一文字に引き結んで、瑤子が反論を堪える。上げた腰をそのままに、両腕を突っ張ったままの彼女から、福永へと視線を移した。
「最初はサンプルが手に入り、研究できるならと思ったんだけどねえ。政府が発表した以上、怪しまれるわけにもいかないから、私はそのうち、ここを出ることになる。その前にどうにかしなければ、と思っていたら、彼が来た。
悪いけれど、言いように使わせてもらうよ」
外面を取り繕う暇もなかったのだろう、睨み返す姿は生意気で可愛いらしい。
室内灯がぼんやりと、均一に三人を照らし出す。空調の効いた程よい室温の中、自動モードの換気扇が回り出し、僅かな空気の流れを作った。
「私達に関する話題は、然るべき時が来るまでは公表を許可しないし、他社への圧力もかけてもらう。いいね、日丸のディレクター?」
大仰な溜息を一つ。福永は腕を組み、椅子の上で踏ん反り返った。
「勿論ですよ。もう一つの用事もね」
苦笑を誘われ、素直に応じる。偽装工作で一面記事に載ることを逃れて、気を抜いているかと思ったが、使える男だ。
「やれやれ、せっかちな男だ……水野くん、高槻先生から聞いたけれど、君はどうやら、既に新しい仮説を立てたようじゃないか」
「あ、はい。えっ、これ言って大丈夫……?」
言いながら瑤子を流し見れば、修士の頃から健在のうっかり発言が返る。福永の溜息に同情をしつつ、呆れを通り越して見慣れてしまった惠子の方は、構わないよ、と肩を竦めて、彼女の抱いているであろう心配を一掃する。
「私はね、君にも、一緒に研究所へ来て欲しいと思っている。未来ある君と君の研究を、後押しさせて欲しい」
残陽が、惠子の横を過ぎ、二人の手前に落ちた。
国立と名が付くと言っても、大学と研究所では、設備も管理も、研究者自身も全てが異なる。
投資できるモノ、人、金の量と質は勿論、個々人に課せられる負担も、研究所に所属した方が少なくて済む。
日本の大学は、未だ学費という形で金を補充し、大学のブランドや教授自身のコネを頼りに体裁を保っていた。一方、院生であれど研究する者として金を支払い続けた海外の大学は、研究者も企業も、日本とは比べ物にならない数が集まり、今や集めた国が最先端を拓く流れが定着している。
少ないながらも予算の大半を受給できる本学は、学生から巻き上げたお金と合わせて、自由の学風の名の下に多様な研究を保障してきた。再生医療の礎を築いたのも、物理や化学で新たな知識を生み出したのも、本学の実力があってこそ。世界ランクで東の大学を超えて久しい今、本学にある設備やコネクションは日本の何処よりも素晴らしいと云えるものだが、取り零してしまうものは必ずある。
海外で渡り歩いてきた、外の研究者とのディスカッション。専門家の指導。研究をすることの重みと、面白さ。金銭や人員の縛りを受けない研鑽。
大学をどのように選び、研究を花開かせるかは学生達に任されている。直接的な関わりがなくとも、論文を読めば補える部分は多いが、箱の中に居てはいつまで経っても井の中の蛙から変化しない。大勢と関わることで研究を奪われるリスクも生じるであろうが、それよりもリターンが大きい。
アイリス・ホワイトとの話もある。惠子の持つあらゆる全てを提供しても良い。先人として、できることは全て行いたかった。
そして、研究者として、同じ土俵で争い、勝ちたかった。
「君は、どうするかい?」
金銭、コネクション、設備、どれを取っても文句の一つも出るまい。これを選ばなければ馬鹿だと、研究者なら嫌でも分かるほどの提案を差し出したと思う。
揺らぎない自信は、経験と実績から。
しかし、一方的に誘う惠子に対し、瑤子がまず見せたのは、怒りにも見える、戸惑いの表情だった。
時間を、いただけませんか。そう言いたげな目に、惠子も苦笑を返す。
「ゆっくり、否、半日は考えてもらって──」
「すみません!」
もう少し年を取っていたら、不整脈を起こしたかもしれない。勢いのある返答をしたと思えば、瑤子はハッと両手で口を覆う。隣の福永を一瞥し、様子を伺われる。
「……あの、」
「……明日の昼までは待てる。直ぐに返事はしなくて構わない」
混乱をしているのだと見なして、水野を急かす色々に言い聞かせる。何を切羽詰まっているのか、大凡の推測はつく。
導いてきたのは惠子だ。
それでも、彼女は自ら選ばなければならない。
助けることも、突き放すこともしない。研究者が仲の良さや交流だけで研究を続けられたのは、過去のこと。
選択肢のない離れた場所にいる惠子には、苦笑を返す以外、何もできることはなかった。
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