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第6章
5話 オバちゃんの再会
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「リ、リコーーーーッ! 何故、其奴と一緒にいるのじゃーーーーッ!」
リコが謁見の間に入った途端、ケツァルの絶叫が響き渡る。
いくら警備が手薄とはいえ、こんなに騒いだら見つかってしまう。
リコとカイルは、慌ててケツァルのもとへと急いだ。
玉座の両側に置かれた鳥籠。
右側には見慣れたケツァル。左側にも白いケツァル……。
「……ケツァルが分裂した? ……ってか突然変異?」
目を丸くするリコ。
ケツァルは、鳥籠の格子から鼻を突き出して喚いた。
「そんな訳あるか! 此奴はワシが捜しておった我が同胞、ムシュフシュだ!」
リコは腕を組み「ほーう」と深く頷く。
「やっぱりお友達、ここにいたんだね。カイルからケツァルみたいなのがもう一匹いるって聞かされて、そうなんじゃないかなぁと思ってたんだ。見つかってよかったね。ケツァル!」
朗らかに語るリコに、ケツァルの目が据わる。
「よかったねじゃと……。リコよ、何を呑気な! オヌシ、怪我はどうしたのじゃ! それに何故、その悪党と親しくしておる!」
「あーそれねー。ケツァルが連れて行かれてから色々ありまして。怪我はティーラが癒やしてくれて……カイルは相棒になったの。こう見えて、結構頼れるナイスガイだよ。そんで二人でケツァルを助けに来たんだ!」
ケツァルが「はぁ?」と目を剥く。
「まぁまぁ、落ち着きなさい。ケツァルコアトル。わざわざ助けに来てくれたリコさんに失礼ですよ!」
ムシュフシュと呼ばれた白い生き物が、ケツァルを窘めた。そして、リコに目を移すと丁寧なお辞儀をする。
「初めまして。ムシュフシュと申します。リコさんのことは、ケツァルコアトルからお聞きしました。大変なご苦労をされたとか。巻き込んだケツァルコアトルに代わり、私からお詫び申し上げます。あっ、リコさんとお呼びしても?」
ケツァルと同じ生き物の筈なのに、もの凄い低姿勢のムシュフシュ。
(おっ! か、堅いな。それになんかズイズイ来る感じだ)
リコはバカ丁寧なムシュフシュに、どう接していいか分からず、顔を引き攣らせた。
「え、ええ。どうぞお好きに……」
「本当ですか? 嬉しい。ありがとうございます。ところでリコさん。私の名前……ムシュフシュなのですが……」
ムシュフシュがモジモジしながら、チラチラとケツァルを見る。
「その……出来ましたら……私にも……」
言いにくそうにモゴモゴと話すムシュフシュ。
その態度に、リコはデジャブを感じた。
(ん? これって……ケツァルの呼び名を決めた時と同じじゃない? モジモジしとるがな。なんだー。かなり可愛いい奴じゃないさ。白くてモフモフだし。大好物! 大好物! ならば……)
「えーと、私があなたの呼び名を決めてもいいの?」
リコはムシュフシュに尋ねた。
ムシュフシュは、モジモジをピタリと止め、格子をガシャンと掴む。
「は、はい! ぜひっ! ぜひっ! リコさんに決めて頂きたいです!」
「ほーう。よーし! 引き受けましょう! じゃあ……」
リコは唇を指でトントンと叩き考えると、ムシュフシュにニッコリ笑う。
「あなたは真っ白で雪みたいだからネーヴェ! イタリア語で雪って言う意味なんだ。ピッタリでしょう? どうかな?」
パァーッと目を輝かせるムシュフシュ。
彼はその名をいたく気に入ったのか、赤い尻尾をものスッゴイ勢いで振り回した。
格子に齧りつき抗議するケツァル。
「ちょっと待てっ! そこはムシュかフシュではないのかっ! 何故そんな洒落た名を――」
「――ヤキモチは見苦しいですよ、ケツァル。それにしてもリコさんは、ネーミングセンスが抜群ですね! ネーヴェ! イタリア語で雪! ああ、素晴らしすぎるっ!」
ウットリしながら自慢するムシュフシュ改めネーヴェ。
ケツァルは、口をカパッと開けたまま固まった。
そこにカイルが呆れた声を出す。
「コントは終わったか。そろそろ城を出たいんだが……」
「はっ! そうです。ここを抜け出さなくては! ……ですが……この鳥籠はもう女王でなければ開けれないのです」
鳥籠の中で悲しそうに俯くネーヴェ。
リコは「本当?」と、アホ面で固まっているケツァルの鳥籠を、シゲシゲと観察する。
そして、試しに扉を引っ張ってみた。
――パカ。
いとも簡単に開いた。
「あらやだ、普通に開くけど? ほら、ケツァル。いつまでも固まってないで、早くこっちにおいで!」
笑顔で腕を広げるリコ。
「リッ……リコォーーーーッ!」
ケツァルが目を潤ませ、リコの胸に飛び込んだ。
リコはケツァルをギュッと抱き締める。
久々のケツァルの温もりに、リコはポッカリと空いていた心の隙間が埋まっていくのを感じた。
「ケツァル……あの時、助けられなくてごめんね」
「何を言う! リコはこうして助けに来てくれたではないか! ワシこそすまんかった! 痛い思いをさせてすまんかった! リコーーッ!」
ケツァルが例の如く、リコの頬にグリグリと頭を押しつけた。
「こ、これは……どういうことです!」
今度はネーヴェがポカンとする番であった。
ケツァルは、グリグリを続けながら自慢げに語る。
「だから言ったであろう。リコは傀儡石を石コロにしてしまう凄い奴じゃと! リコにかかればこんな鳥籠を開けることなんて、ヘソで茶を沸かすようなものなのじゃよ!」
ネーヴェが「ふーむ」と難しい顔して考え込む。
「ネーヴェ? どうしたの? ほら、ネーヴェも出ておいで!」
そう言いながら、リコはネーヴェの鳥籠もしれっと開ける。
ネーヴェはつぶらな瞳でリコをジーッと見つめ……やがて、感極まったように小さな体をプルプルと震わせた。
「そうです! きっとそういうことなんです! リコさーん! 私を受け止めてー!」
ネーヴェはそう叫びながら、ケツァルをドカッと蹴り飛ばし、リコの胸に飛びついた。
「う、うおっ! ネ、ネーヴェ? いきなりどうしたの?」
「分かったのです! リコさんはまだ女王に存在を知られていない! だから傀儡石を石コロにしたり、鳥籠を開けたり出来るのですよ!」
リコは、ネーヴェの言っている意味が分からずに「ん?」と首を傾げた。
そんな彼女の代わりに、大理石の床に転がる哀れなケツァルを拾い上げながら、カイルが口を出す。
「女王が知らない人間なんて、この国にはごまんといるぞ! だけど誰ひとりそんな力は持ってないぜ!」
ネーヴェはリコにしがみついたまま、カイルに目を向ける。
「リコさんはこの世界の人間ではありません。ケツァに巻き込まれて、偶然この世界に来てしまった極めて異例な人間なのです」
「はぁ?」
調子はずれの声を上げたカイルが「本当か?」とリコに目を遣る。
(うわっ。ネーヴェさん……トップシークレットをヌルッと暴露しやがったわね。でも……カイルなら、まぁいいか)
リコは、頭を掻きながら苦笑いをする。
「とんでもない話だけど……そうなんだ。オマケでたまたま、この世界に来ちゃいました。この世界でいうところの……異世界人なんだな。ワタクシ」
目を白黒させるカイル。だが、やがて納得いったように天井を仰いだ。
「カァーーーーッ! 異世界人! どーりで変なオバちゃんの訳だよ! 好奇心旺盛で警戒心なさ過ぎだし、すーぐ調子に乗るしさー。俺、見ててハラハラ……って、あ? 何だよ、ケツァル」
騒ぎ立てるカイルの腕を、ケツァルがしつこく揺さぶる。
「そのくらいにした方がオヌシの身の為じゃぞ……ほれ、見てみるがいい」
ケツァルの指さす先に、カイルはどす黒いオーラを見た。それを纏っているのは言うまでもない……リコであった。
カイルは「ひぃ!」と顔を引き攣らせ、慌ててネーヴェに話を振る。
「え、えーと、ネーヴェ。リコがとても希有な人間だというのは分かった。だから……頼む! 話を進めてくれ」
ネーヴェは、リコの腕の中で仰々しく頷く。
「では、進めさせて頂きます。さて、私もケツァルも偶然にこの世界に来たのですが……私たちは人間ではなくドラゴンです。なので『ドラゴン・ジュエル』が私たちの魔力を奪い反応した為、女王に存在を知られてしまいました」
「ドラゴン?」
カイルが首を捻る。
「ええ。私たちドラゴンは、この世界にはいない魔獣なんです」
「へぇー、アンタらドラゴンっていう魔獣なんだ。どーりで見たこと――」
「――そうじゃぞ! 最強で最高神とも謳われた魔獣・ドラゴンじゃ!」
カイルの言葉を遮り、胸を張るケツァル。
カイルは「スゲー、スゲー」と一応褒めて、すぐネーヴェに視線を戻す。
「で? アンタらの魔力を奪う『ドラゴン・ジュエル』って何だよ」
「女王のペンダントです。その『ドラゴン・ジュエル』の所為で、私は力を奪われ続けずっと女王に囚われていました。そんな私を助ける為にケツァルまでこんなことに……」
辛そうに俯くネーヴェ。
リコは、そのモフっとした頭をそっと撫でる。
「そうだったんだ。辛かったね」
すると、ケツァルがカイルの手を離れ、リコの肩に飛び乗る。
「リコよ。女王は奪ったワシらの魔力を、好き勝手使っておるのじゃ。あの傀儡石だってワシらの魔力で……生み出しておる。ワシらさえこの世界に来なければ……魔族たちはあんな目に合わずに済んだのじゃ……」
シュンとする二匹を、リコは優しく諭す。
「ケツァル、ネーヴェ。勘違いしてはダメだよ。あなたたちは決して悪くない! ドラゴンなんちゃらだっけか? そんなものを悪用する女王が悪いんだ!」
弾かれたように、リコを見つめるケツァルとネーヴェ。
「リコ……」
「リコさん」
「とにかく私は、この世界に存在する筈のない人間。だから女王の……いや、ドラゴンなんちゃらの力を無効に出来る……っていうことでいいのかな? ケツァルに巻き込まれただけって思ってたけど……私って、もしかして無敵な存在?」
「そうだよ! やっぱオバちゃんはスゲーんだよ!」
カイルがリコの背中を勢いよくバシッと叩く。
「だーかーらっ! カイル! 痛いって!」
「リコ、照れんなよー。よっ! 無敵の英雄リコ様! なんだったら、その『ドラゴン・ジュエル』も石コロにしちゃえよー!」
「もう! そんな都合よく……ん? 待てよ」
リコは顎に手を当てる。
(ここまで来たら、もう四の五の言ってられないか。ダメならダメでまた考えればいいし……ってダメだったら殺されるの確定だけど……。うーん。いや、しかーし! この際、当たって砕けろだよね! 日本の主婦を舐めんなよ! こちとらご近所トラブル、ママ友問題、そんな数々の試練を乗り越えて来たんだからね! 根性ならピカイチだよ! よっしゃー! 傀儡石でもドラゴンなんちゃらでもバッチ来いってんだ!)
覚悟を決めたリコの目がキラリと光る。
「ふっふーん。一か八か試してみるかね」
ほくそ笑むリコに、ケツァルがワクワクした顔を向ける。
「おっ! リコよ、何だかやる気だな!」
「うん。女王の悪行にはもうウンザリだよ。怒りのK点軽く越えましたから」
「ならば皆さん。コロシアムに急ぎましょう! 魔族王が殺される前に! ……また悲劇が繰り返されてしまう」
ネーヴェの最後の言葉は、リコに聞こえるかどうかの囁きであった。
(ん? 悲劇が繰り返される?)
どういう意味なのか聞こうとリコが口を開きかけたが、カイルから横槍が入る。
「ただ、問題は厳重な警備なんだよな……あっ! そうだ!」
突然大声を出したカイルに、リコたちは注目する。
するとカイルは、ニヤリと悪い顔でリコたちを見回した。
「俺にいい考えがある。俺について来な!」
リコが謁見の間に入った途端、ケツァルの絶叫が響き渡る。
いくら警備が手薄とはいえ、こんなに騒いだら見つかってしまう。
リコとカイルは、慌ててケツァルのもとへと急いだ。
玉座の両側に置かれた鳥籠。
右側には見慣れたケツァル。左側にも白いケツァル……。
「……ケツァルが分裂した? ……ってか突然変異?」
目を丸くするリコ。
ケツァルは、鳥籠の格子から鼻を突き出して喚いた。
「そんな訳あるか! 此奴はワシが捜しておった我が同胞、ムシュフシュだ!」
リコは腕を組み「ほーう」と深く頷く。
「やっぱりお友達、ここにいたんだね。カイルからケツァルみたいなのがもう一匹いるって聞かされて、そうなんじゃないかなぁと思ってたんだ。見つかってよかったね。ケツァル!」
朗らかに語るリコに、ケツァルの目が据わる。
「よかったねじゃと……。リコよ、何を呑気な! オヌシ、怪我はどうしたのじゃ! それに何故、その悪党と親しくしておる!」
「あーそれねー。ケツァルが連れて行かれてから色々ありまして。怪我はティーラが癒やしてくれて……カイルは相棒になったの。こう見えて、結構頼れるナイスガイだよ。そんで二人でケツァルを助けに来たんだ!」
ケツァルが「はぁ?」と目を剥く。
「まぁまぁ、落ち着きなさい。ケツァルコアトル。わざわざ助けに来てくれたリコさんに失礼ですよ!」
ムシュフシュと呼ばれた白い生き物が、ケツァルを窘めた。そして、リコに目を移すと丁寧なお辞儀をする。
「初めまして。ムシュフシュと申します。リコさんのことは、ケツァルコアトルからお聞きしました。大変なご苦労をされたとか。巻き込んだケツァルコアトルに代わり、私からお詫び申し上げます。あっ、リコさんとお呼びしても?」
ケツァルと同じ生き物の筈なのに、もの凄い低姿勢のムシュフシュ。
(おっ! か、堅いな。それになんかズイズイ来る感じだ)
リコはバカ丁寧なムシュフシュに、どう接していいか分からず、顔を引き攣らせた。
「え、ええ。どうぞお好きに……」
「本当ですか? 嬉しい。ありがとうございます。ところでリコさん。私の名前……ムシュフシュなのですが……」
ムシュフシュがモジモジしながら、チラチラとケツァルを見る。
「その……出来ましたら……私にも……」
言いにくそうにモゴモゴと話すムシュフシュ。
その態度に、リコはデジャブを感じた。
(ん? これって……ケツァルの呼び名を決めた時と同じじゃない? モジモジしとるがな。なんだー。かなり可愛いい奴じゃないさ。白くてモフモフだし。大好物! 大好物! ならば……)
「えーと、私があなたの呼び名を決めてもいいの?」
リコはムシュフシュに尋ねた。
ムシュフシュは、モジモジをピタリと止め、格子をガシャンと掴む。
「は、はい! ぜひっ! ぜひっ! リコさんに決めて頂きたいです!」
「ほーう。よーし! 引き受けましょう! じゃあ……」
リコは唇を指でトントンと叩き考えると、ムシュフシュにニッコリ笑う。
「あなたは真っ白で雪みたいだからネーヴェ! イタリア語で雪って言う意味なんだ。ピッタリでしょう? どうかな?」
パァーッと目を輝かせるムシュフシュ。
彼はその名をいたく気に入ったのか、赤い尻尾をものスッゴイ勢いで振り回した。
格子に齧りつき抗議するケツァル。
「ちょっと待てっ! そこはムシュかフシュではないのかっ! 何故そんな洒落た名を――」
「――ヤキモチは見苦しいですよ、ケツァル。それにしてもリコさんは、ネーミングセンスが抜群ですね! ネーヴェ! イタリア語で雪! ああ、素晴らしすぎるっ!」
ウットリしながら自慢するムシュフシュ改めネーヴェ。
ケツァルは、口をカパッと開けたまま固まった。
そこにカイルが呆れた声を出す。
「コントは終わったか。そろそろ城を出たいんだが……」
「はっ! そうです。ここを抜け出さなくては! ……ですが……この鳥籠はもう女王でなければ開けれないのです」
鳥籠の中で悲しそうに俯くネーヴェ。
リコは「本当?」と、アホ面で固まっているケツァルの鳥籠を、シゲシゲと観察する。
そして、試しに扉を引っ張ってみた。
――パカ。
いとも簡単に開いた。
「あらやだ、普通に開くけど? ほら、ケツァル。いつまでも固まってないで、早くこっちにおいで!」
笑顔で腕を広げるリコ。
「リッ……リコォーーーーッ!」
ケツァルが目を潤ませ、リコの胸に飛び込んだ。
リコはケツァルをギュッと抱き締める。
久々のケツァルの温もりに、リコはポッカリと空いていた心の隙間が埋まっていくのを感じた。
「ケツァル……あの時、助けられなくてごめんね」
「何を言う! リコはこうして助けに来てくれたではないか! ワシこそすまんかった! 痛い思いをさせてすまんかった! リコーーッ!」
ケツァルが例の如く、リコの頬にグリグリと頭を押しつけた。
「こ、これは……どういうことです!」
今度はネーヴェがポカンとする番であった。
ケツァルは、グリグリを続けながら自慢げに語る。
「だから言ったであろう。リコは傀儡石を石コロにしてしまう凄い奴じゃと! リコにかかればこんな鳥籠を開けることなんて、ヘソで茶を沸かすようなものなのじゃよ!」
ネーヴェが「ふーむ」と難しい顔して考え込む。
「ネーヴェ? どうしたの? ほら、ネーヴェも出ておいで!」
そう言いながら、リコはネーヴェの鳥籠もしれっと開ける。
ネーヴェはつぶらな瞳でリコをジーッと見つめ……やがて、感極まったように小さな体をプルプルと震わせた。
「そうです! きっとそういうことなんです! リコさーん! 私を受け止めてー!」
ネーヴェはそう叫びながら、ケツァルをドカッと蹴り飛ばし、リコの胸に飛びついた。
「う、うおっ! ネ、ネーヴェ? いきなりどうしたの?」
「分かったのです! リコさんはまだ女王に存在を知られていない! だから傀儡石を石コロにしたり、鳥籠を開けたり出来るのですよ!」
リコは、ネーヴェの言っている意味が分からずに「ん?」と首を傾げた。
そんな彼女の代わりに、大理石の床に転がる哀れなケツァルを拾い上げながら、カイルが口を出す。
「女王が知らない人間なんて、この国にはごまんといるぞ! だけど誰ひとりそんな力は持ってないぜ!」
ネーヴェはリコにしがみついたまま、カイルに目を向ける。
「リコさんはこの世界の人間ではありません。ケツァに巻き込まれて、偶然この世界に来てしまった極めて異例な人間なのです」
「はぁ?」
調子はずれの声を上げたカイルが「本当か?」とリコに目を遣る。
(うわっ。ネーヴェさん……トップシークレットをヌルッと暴露しやがったわね。でも……カイルなら、まぁいいか)
リコは、頭を掻きながら苦笑いをする。
「とんでもない話だけど……そうなんだ。オマケでたまたま、この世界に来ちゃいました。この世界でいうところの……異世界人なんだな。ワタクシ」
目を白黒させるカイル。だが、やがて納得いったように天井を仰いだ。
「カァーーーーッ! 異世界人! どーりで変なオバちゃんの訳だよ! 好奇心旺盛で警戒心なさ過ぎだし、すーぐ調子に乗るしさー。俺、見ててハラハラ……って、あ? 何だよ、ケツァル」
騒ぎ立てるカイルの腕を、ケツァルがしつこく揺さぶる。
「そのくらいにした方がオヌシの身の為じゃぞ……ほれ、見てみるがいい」
ケツァルの指さす先に、カイルはどす黒いオーラを見た。それを纏っているのは言うまでもない……リコであった。
カイルは「ひぃ!」と顔を引き攣らせ、慌ててネーヴェに話を振る。
「え、えーと、ネーヴェ。リコがとても希有な人間だというのは分かった。だから……頼む! 話を進めてくれ」
ネーヴェは、リコの腕の中で仰々しく頷く。
「では、進めさせて頂きます。さて、私もケツァルも偶然にこの世界に来たのですが……私たちは人間ではなくドラゴンです。なので『ドラゴン・ジュエル』が私たちの魔力を奪い反応した為、女王に存在を知られてしまいました」
「ドラゴン?」
カイルが首を捻る。
「ええ。私たちドラゴンは、この世界にはいない魔獣なんです」
「へぇー、アンタらドラゴンっていう魔獣なんだ。どーりで見たこと――」
「――そうじゃぞ! 最強で最高神とも謳われた魔獣・ドラゴンじゃ!」
カイルの言葉を遮り、胸を張るケツァル。
カイルは「スゲー、スゲー」と一応褒めて、すぐネーヴェに視線を戻す。
「で? アンタらの魔力を奪う『ドラゴン・ジュエル』って何だよ」
「女王のペンダントです。その『ドラゴン・ジュエル』の所為で、私は力を奪われ続けずっと女王に囚われていました。そんな私を助ける為にケツァルまでこんなことに……」
辛そうに俯くネーヴェ。
リコは、そのモフっとした頭をそっと撫でる。
「そうだったんだ。辛かったね」
すると、ケツァルがカイルの手を離れ、リコの肩に飛び乗る。
「リコよ。女王は奪ったワシらの魔力を、好き勝手使っておるのじゃ。あの傀儡石だってワシらの魔力で……生み出しておる。ワシらさえこの世界に来なければ……魔族たちはあんな目に合わずに済んだのじゃ……」
シュンとする二匹を、リコは優しく諭す。
「ケツァル、ネーヴェ。勘違いしてはダメだよ。あなたたちは決して悪くない! ドラゴンなんちゃらだっけか? そんなものを悪用する女王が悪いんだ!」
弾かれたように、リコを見つめるケツァルとネーヴェ。
「リコ……」
「リコさん」
「とにかく私は、この世界に存在する筈のない人間。だから女王の……いや、ドラゴンなんちゃらの力を無効に出来る……っていうことでいいのかな? ケツァルに巻き込まれただけって思ってたけど……私って、もしかして無敵な存在?」
「そうだよ! やっぱオバちゃんはスゲーんだよ!」
カイルがリコの背中を勢いよくバシッと叩く。
「だーかーらっ! カイル! 痛いって!」
「リコ、照れんなよー。よっ! 無敵の英雄リコ様! なんだったら、その『ドラゴン・ジュエル』も石コロにしちゃえよー!」
「もう! そんな都合よく……ん? 待てよ」
リコは顎に手を当てる。
(ここまで来たら、もう四の五の言ってられないか。ダメならダメでまた考えればいいし……ってダメだったら殺されるの確定だけど……。うーん。いや、しかーし! この際、当たって砕けろだよね! 日本の主婦を舐めんなよ! こちとらご近所トラブル、ママ友問題、そんな数々の試練を乗り越えて来たんだからね! 根性ならピカイチだよ! よっしゃー! 傀儡石でもドラゴンなんちゃらでもバッチ来いってんだ!)
覚悟を決めたリコの目がキラリと光る。
「ふっふーん。一か八か試してみるかね」
ほくそ笑むリコに、ケツァルがワクワクした顔を向ける。
「おっ! リコよ、何だかやる気だな!」
「うん。女王の悪行にはもうウンザリだよ。怒りのK点軽く越えましたから」
「ならば皆さん。コロシアムに急ぎましょう! 魔族王が殺される前に! ……また悲劇が繰り返されてしまう」
ネーヴェの最後の言葉は、リコに聞こえるかどうかの囁きであった。
(ん? 悲劇が繰り返される?)
どういう意味なのか聞こうとリコが口を開きかけたが、カイルから横槍が入る。
「ただ、問題は厳重な警備なんだよな……あっ! そうだ!」
突然大声を出したカイルに、リコたちは注目する。
するとカイルは、ニヤリと悪い顔でリコたちを見回した。
「俺にいい考えがある。俺について来な!」
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