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第5章
4話 オバちゃんの力
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扉の中は、この店の応接室らしき部屋でゆったりしたソファーとテーブル、壁に大きな本棚が置かれていた。
この部屋は荒らされていない。きっと魔族たちが立ち入らなかったのであろう。
オルガが徐に本棚を押す。
すると、重そうな本棚はスーと後ろに引っ込み、床に人ひとり入れるぐらいの地下への階段が現れた。
オルガは棚にあったランタンと、壁に掛けられた鍵束を手に取る。そして、目でリコたちを促し、薄暗い階段を降りて行く。
階段のその先は、大きな地下牢になっていた。
太く頑丈な鉄格子の奥に何かがいる。
オルガがランタンを近づけると、リコの見覚えのあるそれが浮かび上がった。
血のように赤い石の首輪。
その首輪をガッチリと嵌められた虚ろな者たち。
そうそれは、傀儡石をつけられた大勢の魔族たちの姿であった。
トカゲのような外見の亜人、リザードマン。背が低く、ずんぐりむっくりした体型の岩妖精、ドワーフ。そして、ウェアキャット……エルフの姿まである。
「これは⁉」
リコは目を見開いた。
そんなリコに、オルガは淡々と告げる。
「この店は魔族を売買する場所。領主が今度、大きなオークションを開く予定だから、いつもよりも多く魔族を仕入れたの」
「オークション! そんな見世物みたいなことをなぜ!」
「女王と貴族へのご機嫌取りよ。そういう面白い趣向は、彼らがとても喜ぶし、お金にもなるから」
――ガツッ。
鉄格子に拳を打ちつけるカイル。
「畜生っ! なんて奴らだ!」
「魔族のあなたが怒って当然ね。現にリザードマンたちがこの街を襲って、商人たちに罰を与えたわ」
リコの脳裏に、街で見た無残な遺体が浮かんだ。
(ああ、あれは魔族を売買する商人たちだったんだ)
すると、オルガがポツリと呟く。
「私もその罰を受けなければならない。私の……私の継母が領主だから……」
「オ、オルガの継母が領主⁉」
驚くリコに、オルガは辛そうに頷く。
「元々は父が領主だった。もう7年も前のことだけど……。とても優しい父だったわ。母を早くに亡くした私を悲しませないように、父は母の分の愛情も注いでくれた。そんな父だったから……だからこのクスタルでの魔族の売買を禁じていたの」
「オルガの親父さんが? そんな街があったのか……でもそんなことしたら――」
驚くカイルの言葉を遮り、オルガが声を荒げる。
「あの女王が黙ってないわ。案の定、貴族たちに圧力をかけ、父を……このクスタルを孤立状態にしたのよ!」
オルガは憎しみの炎を目に宿らせ語り始める。
特産物のないこの街クスタルは、周りから農産物や工芸品を集め、それを王都に送ることで収入を得ていた。
しかし、孤立状態となったクスタルはそれが成り立たなくなる。
経済的に追い詰められたオルガの父。そこにある貴族が助け船を出した。
その貴族は言う。
「私も心の中では、女王の魔族への仕打ちに反対なのだ。だが私は、声を上げる勇気がない。その点、あなたは素晴らしい。ぜひ、私の娘を後添えとして迎えてくれ。そうすれば私が街の援助を約束しよう」
オルガの父はクスタルに暮らす人々の行く末を考え、この申し出を受け入れたのだ。
そして、継母が息子を連れクスタルにやって来たのである。
貴族の援助を受け、街の活気が少しずつ戻り始めた。
順調かと思われたその矢先、オルガの父が急な事故によって命を奪われる。
そして、継母が後を継ぎ領主になったのだ。
継母は、父の禁じていた魔族の売買を大々的に行い、私腹を肥やし、この街を権力と金で牛耳るようになってしまったのである。
「今思えば、あの貴族の申し出も女王の差し金だったに違いないわ。物が集まるクスタルで、魔族の売買をさせたいから、あの人……継母を送り込んだのよ。だって売買を始めたら、あの貴族の領地が増えたのよ。それって女王からのご褒美としか思えない。それに父の事故も怪しい。きっと事故じゃなく継母に殺されたのよ!」
怒りに肩を震わすオルガ。
女王の被害者がここにもいた。
魔族を苦しめるだけじゃ飽き足らず、彼らを擁護する人間を排除し、こんな少女までも悲しませている。
「あの女王は狡猾だ。反発した親父さんを、ただ殺すだけじゃ腹の虫が治まらなかったんだよ。だから貴族を使って、散々苦しめてから殺した。あの女王ならやりかねないさ」
カイルが吐き捨てるように言った。
そこでリコは、疑問を口にする。
「オルガ。あなたは罰を受けなければならないって言っていたけど、今の話を聞いた限りじゃ、私は違うと思うんだけど……」
オルガはリコを真っ直ぐ見据える。
「ミルを助ける為、あの人にオークションを勧めたのは私だからよ」
「えっ? ミルって?」
リコの問いに、オルガが無言で鉄格子の中を指さす。その指の先には、猫の耳と長い尻尾を持つウェアキャットがいた。
「……ミルとはね、父が亡くなった日に出会ったの。森でひとりで泣いていた私に、泣きやむまでずーっと寄り添ってくれた。人間の私を嫌がらずにずーっとね」
オルガは、ミルを見ながら続ける。
「それからちょくちょく森で会うようになって、私たちは色んなことを話した。楽しかったぁ。私が家であの人にどんなに虐げられても、ミルがいたから耐えられたの。なのに……なのにミルが兵士に捕まって、どこかの商人に売られてしまった。どこに行ったのか分からなかった。だから――」
カイルが口を挟む。
「――大きなオークションを開けば、ミルが売られて来るって考えたのか?」
「そうよ。一か八かの賭けだったわ。でも運が味方してくれた。私の願い通りミルはこの街に売られて来たの。私はミルを逃がす機会を密かに窺っていた。そしたらリザードマンの襲撃が! 私は自分の強運に感謝したわ! そして、騒ぎに乗じてこの店に入り込んだら、護衛に見つかってしまって……」
言葉を濁すオルガ。
代わりにカイルが続ける。
「それで、斬られたんだな……。オルガ、よく聞け。厳しいことを言うようだがミルを逃がすことは無理だ。お前も分かってるだろ? この牢から出してもあの状態じゃまたすぐ捕まる」
カイルが顎でしゃくるミルは、生きる屍のようにその目に何も映していない。
「分かってるわ! だけどっ! だけどっ! どうしても助けたいのよ!」
カイルの腕を掴み、必死に訴えるオルガ。
だが、カイルは悔しそうに俯いた。
「傀儡石がある限り無理なんだよ!」
リコが「ちょっと待って!」と二人を止めた。
「私に試したいことがあるの。オルガ、牢を開けてくれる?」
オルガが「え?」と涙に濡れた顔をリコに向ける。
リコは、彼女を安心させるように微笑む。
「大丈夫、悪いようにはしないから。さあ、開けて」
オルガは、持っていた鍵束で牢を開けた。
リコは暗い牢に足を踏み入れ、ミルの前にしゃがむ。
自分を落ち着かせる為に、深呼吸するリコ。
(お願いだから、石コロになってよー!)
祈るような気持ちで、リコはミルの首輪についた傀儡石に触れた。
首輪から傀儡石がポロッと落ちる。
――コロコロコロコロ。
ティーラの時と同じく、石コロになって地面を転がる傀儡石。
正気に戻るミル。その目は、キョロキョロと元気よく動きオルガを捉えた。
「オルガ!」
「ミ、ミル?」
目の前で起きたことが信じられないオルガは、口元を手で覆い立ち竦む。
「オルガーーーーッ!」
ミルが牢から飛び出し、オルガに抱きついた。
オルガは腕の中のミルの暖かさを実感して、抱き返す手に力を込める。
「ミル! よかった! 本当によかった!」
オルガとミルが喜びを分かち合う中、リコは黙々と傀儡石を石コロに変えていく。
傀儡石の呪縛から解き放たれていく魔族たち。皆、目を白黒させている。
彼らより目を白黒させたカイルが、リコの肩をガシッと掴む。
「リコ! これはどういうことだ!」
「さあ、私にもさっぱり。だけどよかった。残念なオチが待ってなくて」
リコは飄々と答えながら、傀儡石をつけた最後の魔族に目を向ける。
すると、その表情は切ないものへと変わった。
「こんな小さな子まで……」
彼女の目線の先にいたのは、人形のように座るリザードマンの子供。
リコはその子供を優しく抱き上げると、傀儡石に触れる。
「……怖いことは終わったよ。もう大丈夫だからね」
リコの腕の中で、目をパチクリさせるリザードマンの子供。やがて、リコの温もりに安心したのかニッコリ笑い、その小さな体を預けた。
「何だよ、リコ! ただのオバちゃんなんて言っときながらさー。アンタ、スゲー力、持ってんじゃん!」
カイルが興奮気味に、リコの背中をバシッと叩く。
「い、痛い! カイル、年上を敬うって言葉知ってる?」
「あ? 知らんよ? でもさー、本当にスゲーよ。俺、目から鱗が落ちたよ!」
「そんな言葉を知ってて、なんでさっきのは知らないのよ!」
言い合うリコとカイルの側に、オルガとミルが寄って来た。
「ミルを助けてくれてありがとう! 本当に感謝してるわ!」
感謝を伝えたオルガの顔は、険しいものから可憐で可愛らしい少女に戻っていた。
その横でミルが、嬉しそうに長い尻尾をパタパタと振ってる。
そこに威厳のある声が響く。
「ここにいる皆を代表して儂からも礼を言おう」
リコが目を向けると、エルフのご老体がゆっくりと頭を下げる。それに続いて周りの魔族たちも同じく頭を下げた。
リコは、そんな彼らに恐縮する。
「頭を上げてください。私は傀儡石をなくしただけです。まだあなた方が危険なことには変わりない……この子も両親に帰さなければ……」
リザードマンの子供の頬を優しく撫でるリコ。
その時、オルガが叫んだ。
「そうだわ! リザードマンたち! 彼らを止めないと!」
皆の視線がオルガに集まる。
「リザードマンたちがこの街を襲っているのよ! きっとこの子を取り返しに来たんだわ! 早く止めに行かないと!」
ミルが「そんな!」と口を押さえる。
「何! リザードマンじゃと! よし! 儂も行こう」
エルフのご老体の言葉を合図に、リコたちは全員地下から地上へと向かった。
この部屋は荒らされていない。きっと魔族たちが立ち入らなかったのであろう。
オルガが徐に本棚を押す。
すると、重そうな本棚はスーと後ろに引っ込み、床に人ひとり入れるぐらいの地下への階段が現れた。
オルガは棚にあったランタンと、壁に掛けられた鍵束を手に取る。そして、目でリコたちを促し、薄暗い階段を降りて行く。
階段のその先は、大きな地下牢になっていた。
太く頑丈な鉄格子の奥に何かがいる。
オルガがランタンを近づけると、リコの見覚えのあるそれが浮かび上がった。
血のように赤い石の首輪。
その首輪をガッチリと嵌められた虚ろな者たち。
そうそれは、傀儡石をつけられた大勢の魔族たちの姿であった。
トカゲのような外見の亜人、リザードマン。背が低く、ずんぐりむっくりした体型の岩妖精、ドワーフ。そして、ウェアキャット……エルフの姿まである。
「これは⁉」
リコは目を見開いた。
そんなリコに、オルガは淡々と告げる。
「この店は魔族を売買する場所。領主が今度、大きなオークションを開く予定だから、いつもよりも多く魔族を仕入れたの」
「オークション! そんな見世物みたいなことをなぜ!」
「女王と貴族へのご機嫌取りよ。そういう面白い趣向は、彼らがとても喜ぶし、お金にもなるから」
――ガツッ。
鉄格子に拳を打ちつけるカイル。
「畜生っ! なんて奴らだ!」
「魔族のあなたが怒って当然ね。現にリザードマンたちがこの街を襲って、商人たちに罰を与えたわ」
リコの脳裏に、街で見た無残な遺体が浮かんだ。
(ああ、あれは魔族を売買する商人たちだったんだ)
すると、オルガがポツリと呟く。
「私もその罰を受けなければならない。私の……私の継母が領主だから……」
「オ、オルガの継母が領主⁉」
驚くリコに、オルガは辛そうに頷く。
「元々は父が領主だった。もう7年も前のことだけど……。とても優しい父だったわ。母を早くに亡くした私を悲しませないように、父は母の分の愛情も注いでくれた。そんな父だったから……だからこのクスタルでの魔族の売買を禁じていたの」
「オルガの親父さんが? そんな街があったのか……でもそんなことしたら――」
驚くカイルの言葉を遮り、オルガが声を荒げる。
「あの女王が黙ってないわ。案の定、貴族たちに圧力をかけ、父を……このクスタルを孤立状態にしたのよ!」
オルガは憎しみの炎を目に宿らせ語り始める。
特産物のないこの街クスタルは、周りから農産物や工芸品を集め、それを王都に送ることで収入を得ていた。
しかし、孤立状態となったクスタルはそれが成り立たなくなる。
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その貴族は言う。
「私も心の中では、女王の魔族への仕打ちに反対なのだ。だが私は、声を上げる勇気がない。その点、あなたは素晴らしい。ぜひ、私の娘を後添えとして迎えてくれ。そうすれば私が街の援助を約束しよう」
オルガの父はクスタルに暮らす人々の行く末を考え、この申し出を受け入れたのだ。
そして、継母が息子を連れクスタルにやって来たのである。
貴族の援助を受け、街の活気が少しずつ戻り始めた。
順調かと思われたその矢先、オルガの父が急な事故によって命を奪われる。
そして、継母が後を継ぎ領主になったのだ。
継母は、父の禁じていた魔族の売買を大々的に行い、私腹を肥やし、この街を権力と金で牛耳るようになってしまったのである。
「今思えば、あの貴族の申し出も女王の差し金だったに違いないわ。物が集まるクスタルで、魔族の売買をさせたいから、あの人……継母を送り込んだのよ。だって売買を始めたら、あの貴族の領地が増えたのよ。それって女王からのご褒美としか思えない。それに父の事故も怪しい。きっと事故じゃなく継母に殺されたのよ!」
怒りに肩を震わすオルガ。
女王の被害者がここにもいた。
魔族を苦しめるだけじゃ飽き足らず、彼らを擁護する人間を排除し、こんな少女までも悲しませている。
「あの女王は狡猾だ。反発した親父さんを、ただ殺すだけじゃ腹の虫が治まらなかったんだよ。だから貴族を使って、散々苦しめてから殺した。あの女王ならやりかねないさ」
カイルが吐き捨てるように言った。
そこでリコは、疑問を口にする。
「オルガ。あなたは罰を受けなければならないって言っていたけど、今の話を聞いた限りじゃ、私は違うと思うんだけど……」
オルガはリコを真っ直ぐ見据える。
「ミルを助ける為、あの人にオークションを勧めたのは私だからよ」
「えっ? ミルって?」
リコの問いに、オルガが無言で鉄格子の中を指さす。その指の先には、猫の耳と長い尻尾を持つウェアキャットがいた。
「……ミルとはね、父が亡くなった日に出会ったの。森でひとりで泣いていた私に、泣きやむまでずーっと寄り添ってくれた。人間の私を嫌がらずにずーっとね」
オルガは、ミルを見ながら続ける。
「それからちょくちょく森で会うようになって、私たちは色んなことを話した。楽しかったぁ。私が家であの人にどんなに虐げられても、ミルがいたから耐えられたの。なのに……なのにミルが兵士に捕まって、どこかの商人に売られてしまった。どこに行ったのか分からなかった。だから――」
カイルが口を挟む。
「――大きなオークションを開けば、ミルが売られて来るって考えたのか?」
「そうよ。一か八かの賭けだったわ。でも運が味方してくれた。私の願い通りミルはこの街に売られて来たの。私はミルを逃がす機会を密かに窺っていた。そしたらリザードマンの襲撃が! 私は自分の強運に感謝したわ! そして、騒ぎに乗じてこの店に入り込んだら、護衛に見つかってしまって……」
言葉を濁すオルガ。
代わりにカイルが続ける。
「それで、斬られたんだな……。オルガ、よく聞け。厳しいことを言うようだがミルを逃がすことは無理だ。お前も分かってるだろ? この牢から出してもあの状態じゃまたすぐ捕まる」
カイルが顎でしゃくるミルは、生きる屍のようにその目に何も映していない。
「分かってるわ! だけどっ! だけどっ! どうしても助けたいのよ!」
カイルの腕を掴み、必死に訴えるオルガ。
だが、カイルは悔しそうに俯いた。
「傀儡石がある限り無理なんだよ!」
リコが「ちょっと待って!」と二人を止めた。
「私に試したいことがあるの。オルガ、牢を開けてくれる?」
オルガが「え?」と涙に濡れた顔をリコに向ける。
リコは、彼女を安心させるように微笑む。
「大丈夫、悪いようにはしないから。さあ、開けて」
オルガは、持っていた鍵束で牢を開けた。
リコは暗い牢に足を踏み入れ、ミルの前にしゃがむ。
自分を落ち着かせる為に、深呼吸するリコ。
(お願いだから、石コロになってよー!)
祈るような気持ちで、リコはミルの首輪についた傀儡石に触れた。
首輪から傀儡石がポロッと落ちる。
――コロコロコロコロ。
ティーラの時と同じく、石コロになって地面を転がる傀儡石。
正気に戻るミル。その目は、キョロキョロと元気よく動きオルガを捉えた。
「オルガ!」
「ミ、ミル?」
目の前で起きたことが信じられないオルガは、口元を手で覆い立ち竦む。
「オルガーーーーッ!」
ミルが牢から飛び出し、オルガに抱きついた。
オルガは腕の中のミルの暖かさを実感して、抱き返す手に力を込める。
「ミル! よかった! 本当によかった!」
オルガとミルが喜びを分かち合う中、リコは黙々と傀儡石を石コロに変えていく。
傀儡石の呪縛から解き放たれていく魔族たち。皆、目を白黒させている。
彼らより目を白黒させたカイルが、リコの肩をガシッと掴む。
「リコ! これはどういうことだ!」
「さあ、私にもさっぱり。だけどよかった。残念なオチが待ってなくて」
リコは飄々と答えながら、傀儡石をつけた最後の魔族に目を向ける。
すると、その表情は切ないものへと変わった。
「こんな小さな子まで……」
彼女の目線の先にいたのは、人形のように座るリザードマンの子供。
リコはその子供を優しく抱き上げると、傀儡石に触れる。
「……怖いことは終わったよ。もう大丈夫だからね」
リコの腕の中で、目をパチクリさせるリザードマンの子供。やがて、リコの温もりに安心したのかニッコリ笑い、その小さな体を預けた。
「何だよ、リコ! ただのオバちゃんなんて言っときながらさー。アンタ、スゲー力、持ってんじゃん!」
カイルが興奮気味に、リコの背中をバシッと叩く。
「い、痛い! カイル、年上を敬うって言葉知ってる?」
「あ? 知らんよ? でもさー、本当にスゲーよ。俺、目から鱗が落ちたよ!」
「そんな言葉を知ってて、なんでさっきのは知らないのよ!」
言い合うリコとカイルの側に、オルガとミルが寄って来た。
「ミルを助けてくれてありがとう! 本当に感謝してるわ!」
感謝を伝えたオルガの顔は、険しいものから可憐で可愛らしい少女に戻っていた。
その横でミルが、嬉しそうに長い尻尾をパタパタと振ってる。
そこに威厳のある声が響く。
「ここにいる皆を代表して儂からも礼を言おう」
リコが目を向けると、エルフのご老体がゆっくりと頭を下げる。それに続いて周りの魔族たちも同じく頭を下げた。
リコは、そんな彼らに恐縮する。
「頭を上げてください。私は傀儡石をなくしただけです。まだあなた方が危険なことには変わりない……この子も両親に帰さなければ……」
リザードマンの子供の頬を優しく撫でるリコ。
その時、オルガが叫んだ。
「そうだわ! リザードマンたち! 彼らを止めないと!」
皆の視線がオルガに集まる。
「リザードマンたちがこの街を襲っているのよ! きっとこの子を取り返しに来たんだわ! 早く止めに行かないと!」
ミルが「そんな!」と口を押さえる。
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