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第4章

2話 オバちゃんの決意

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 風を切るかの如く、ライデルの家に向かうリコ様御一行。
 見慣れた道を進むリコたちの目に、いつもと違う光景が映り込む。
 仲良く楽しそうに、畑仕事をするカレンや女子供の姿だ。

「母さん、そこはもう水撒き終わってるよー。こっち撒いてよー」

「はいはーい」

「母さん……『はい』は、一回でいいから。あっ、ちょっと! カレン姉、そこ踏んじゃダメだよ!」

「え? あっ、ごめーん」

「もうっ! カレン姉、ちゃんとして!」

「カレンちゃん、おとななのにおこられてるー! おもしろーい! あはははは!」

「ねー、あははは!」

 そんな微笑ましいやり取りを、リコたちはほっこりしながら見入っていた。

「あっ! リコさんたちだ!」

 子供のひとりが、リコたちに気づく。
 すると、カレンたちは仕事の手を止め、ワラワラとリコたちの周りに集まって来た。
 皆、笑顔で「おはよー」と挨拶をくれる。
 リコも挨拶を返そうと口を開きかけたその矢先、なんのつもりかダンがズイと前に出る。

「おい、皆! 何だ、その失礼な態度は!」

 静まり返るカレンたち。皆、一様に「え?」という顔をしている。
 リコも内心「へ?」と思った。

(ちょ、ちょっと、ダンさん。それ……まだ続けるの? 確かに私が始めたことだけどさー。空気、読もうよ。子供たちに変なオバちゃんって思われるじゃん!)

 ダンたちの前では、散々調子に乗っていたリコ。
 だが、彼女もいい大人である。ちゃんとTPOを弁えているのだ。
 そんなリコを余所に、ダンは続ける。

「こちらにいらっしゃるお方は、我々を正しき道へと導いてくださった『英雄リコ様』だぞ! 皆、きちんと挨拶しないか!」

(ああ、言っちゃたよ……恥ずかしい。恥ずかしすぎるー)

 リコは羞恥心で居た堪れなくなり、助けを求めるようにティーラとケツァルを横目で見た。
 ティーラは女神の如く微笑むばかり。
 ケツァルに至っては、まるで「やっちゃいな」とでもいうように顎をしゃくっている。

(……役に立たん)

 そんな中、きょとんとしていたカレンたちが、突如「ハッ」と何かに気づき、深々とお辞儀をし出す。

「リコ様、これはとんだご無礼を。どうか私たちをお許しください」

「リコさまー、おゆるしください」

(――ってアンタたちもかいっ! どんだけノリがいいんだよ……んー、でもまぁ……ある意味、それだけ純粋でいい人たちってことだよな……子供たちも楽しそうだし)

 リコはカレンたちを見渡した。
 彼女たちは皆、ワクワクした目でリコの返事を待っている。

(もう! 皆、こういうの好きなんだからっ。しょうがないなー。では、皆さんのご要望にお応えして、英雄リコ様いっちゃうよー)

 またまた登場の英雄リコは、右手をスッと翳す。

「そう謝らずともよい。私は其方そなたたちを許そう」

「おお、リコ様」

「ありがとう、リコさまー」

 英雄リコは「うむ」と頷く。

「さて、私は王都に向かう準備の為、村長ライデルに会わねばならん。皆、仕事の邪魔をしてすまなかった。最後に……」

 ここでをたっぷりためる英雄リコ。

「最後にこれだけは言っておきたい。皆の中睦まじい姿が見られて、私は心躍る思いであったぞ……感謝する」

 英雄リコが言い終わると同時に、カレンたちの口から「キァーーーーッ!」という黄色い歓声が上がった。

(ふっ。決まった)

 自分の英雄っぷりに満足するリコ。
 そんなリコの耳に、これから会おうと思っていたライデルの声が聞こえてきた。

「どうしたのですか? 皆さん、随分と賑やかですね」

「あっ、そんちょー! ねぇ、きいてきいて! えーゆーリコさま、ちょーカッコいんだよー」

「そうなのー! そなたたちをゆるそう。かんしゃするーだってー! ねぇ、そんちょーもやって、やってー」

 嬉しそうにはしゃぐ子供たち。
 だが、反対にライデルは困惑した。
 村の見回りの途中、楽しそうなリコたちを見かけて声をかけただけなのに……この場所では、一体何がおこなわれているのだろう……と。

「え、えーと、えーゆーリコさま……というのは?」

「「こちらにいらっしゃる英雄リコ様のことです‼」」

 ダンとカレンが、ビシッと声を揃える。

「はぁ……」

 ライデルは理解出来たのか、出来ないのか微妙な返事をした。

「そんちょー、リコさまにちゃんとごあいさつしなきゃダメだよ」

「えっ? えーと、じゃあ……ご、ご機嫌よう? リコ……様?」

 子供に窘められ、ぎこちなく挨拶するライデル。
 彼にはこれが精一杯なのだ。
 それなのにダンとカレンからキツいダメ出しを食らう。

「義兄さん、ノリ悪い」

「そうよ、ライデル! こういうのは恥ずかしがってはダメ。自分を捨てないと!」

 ライデルは真っ赤な顔を手で覆い「……すまない」と呟く。
 そんな彼の姿は滑稽でどこか可愛くて、この場を爆笑の渦に巻き込んだ。



 ――皆、笑っている。



 ダンもティーラも……カレンもライデルも。そして女も子供も……ここにいる誰もが笑っている。
 それを見て微笑むリコ。

「リコよ、随分と嬉しそうだな。ここがこんなにも下がっておる」

 ケツァルがそう言いながら、リコの目尻を指で突く。

「うん、嬉しい。だって見て! この村では、人間も魔族も関係ない。楽しければ一緒に笑い合える」

 ケツァルはティーラとカレンに視線を向ける。
 彼女たちは仲良く腕を組みながら笑い合っていた。

「ふふっ。そうじゃな、いい光景じゃな」

「ホントにね。こんな光景がこの村だけじゃなくて、この国のどこでも見られるようになるといいな……。一緒に頑張ろうね、ケツァル!」

「ああ、リコ! 勿論じゃとも!」

 リコとケツァルは、気持ちをひとつに頷き合う。
 幸せなひとときであった。
 だが、無情にもその幸せは壊される。



 ――そう、それはなんの前触れもなく、この村に突然現れたのだ。
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