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第7章 忘れられぬ結婚式を
66、心の闇と邂逅
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クロードはグラスを置くと、すぐに身だしなみを直して背筋をしゃんと伸ばした。
それは礼儀正しくしなければいけないという、彼の強迫観念じみた行動だ。
明らかに呼吸は浅く、普段の冷静な彼は想像ができなかった。
レベッカはそっと、クロードの背中をさする。
「大丈夫ですか、クロード様……?」
レベッカの真紅の瞳に見上げられて、クロードははっと我に帰る。
「すまない。……あそこに俺の両親がいるんだが、君のことを紹介してもいいか」
「もちろんですわ。私のお父様にもご挨拶していただいたのですから」
自分の親にも挨拶をしてくれたのだから当然だとレベッカが告げると、クロードは浮かない顔のままそっと呟く。
「……最初に謝っておく、すまない。きっと君に、嫌な思いをさせると思う」
眉を下げ、酷く辛そうな顔だった。
確かに、彼は親との軋轢が酷く、それを克服するのがクロードルートの結末だったが。
「気にしませんわ」
正ヒロインのリリアとしてゲームでプレイした時も、体裁だけを取り繕うのに必死な嫌味な両親だったのを覚えている。
その程度、前世でアパレル店舗に来たクレーマーぐらいに思えばやり過ごせる、とレベッカは思った。
しかし、クロードの杞憂はそれだけではないらしい。
「――もしここで少しでも間違えたら、またやり直すために過去にループするかもしれない」
レベッカははっと息を呑んだ。
確かに、軋轢のある両親に彼女と婚約したいと紹介するなんて、人生の分岐点とも呼べるイベントだ。
万が一選択肢を間違えて、婚約を大反対されたら。結ばれることができなかったら。
きっと彼は後悔し、苦しみ悩み、勉強会帰りのベンチへと逆戻りするだろう。
レベッカと積み上げた思い出を、また白紙に戻して。
「もう戻りたくない。繰り返したくなど……っ!」
トラウマを思い出したからか、クロードの呼吸が浅くなる。頬には汗が伝い、硬く拳を握っている。
5回目から転生してきただけのレベッカには分からない、尋常ではない苦悩が彼の体を染め上げる。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
レベッカは、クロードの手を握った。優しく包み込むように。
「大切なクロード様を、私が守ります」
心からの本心だった。
いつも勇気をくれて背中を押してくれた。落ち込んだり弱気になった時に、打開策を考えてくれた。
今度はそのお返しをする番だと、レベッカは思う。
重ねた手を強く握り返し、クロードも頷いた。
視線の先で、息子の姿に気がついたライネル夫妻がゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。夫人のハイヒールの音が、コツコツ、とやたら響く。
相手に見えないよう、重ねた手をさっと離し、クロードとレベッカは姿勢を正す。
「あら、クロード。そちらのお嬢様は、どなた?」
「見ない顔だな」
扇子を広げたライネル夫人と、 顎ひげを蓄えたライネル公爵が目の前に立ちはだかった。
それは礼儀正しくしなければいけないという、彼の強迫観念じみた行動だ。
明らかに呼吸は浅く、普段の冷静な彼は想像ができなかった。
レベッカはそっと、クロードの背中をさする。
「大丈夫ですか、クロード様……?」
レベッカの真紅の瞳に見上げられて、クロードははっと我に帰る。
「すまない。……あそこに俺の両親がいるんだが、君のことを紹介してもいいか」
「もちろんですわ。私のお父様にもご挨拶していただいたのですから」
自分の親にも挨拶をしてくれたのだから当然だとレベッカが告げると、クロードは浮かない顔のままそっと呟く。
「……最初に謝っておく、すまない。きっと君に、嫌な思いをさせると思う」
眉を下げ、酷く辛そうな顔だった。
確かに、彼は親との軋轢が酷く、それを克服するのがクロードルートの結末だったが。
「気にしませんわ」
正ヒロインのリリアとしてゲームでプレイした時も、体裁だけを取り繕うのに必死な嫌味な両親だったのを覚えている。
その程度、前世でアパレル店舗に来たクレーマーぐらいに思えばやり過ごせる、とレベッカは思った。
しかし、クロードの杞憂はそれだけではないらしい。
「――もしここで少しでも間違えたら、またやり直すために過去にループするかもしれない」
レベッカははっと息を呑んだ。
確かに、軋轢のある両親に彼女と婚約したいと紹介するなんて、人生の分岐点とも呼べるイベントだ。
万が一選択肢を間違えて、婚約を大反対されたら。結ばれることができなかったら。
きっと彼は後悔し、苦しみ悩み、勉強会帰りのベンチへと逆戻りするだろう。
レベッカと積み上げた思い出を、また白紙に戻して。
「もう戻りたくない。繰り返したくなど……っ!」
トラウマを思い出したからか、クロードの呼吸が浅くなる。頬には汗が伝い、硬く拳を握っている。
5回目から転生してきただけのレベッカには分からない、尋常ではない苦悩が彼の体を染め上げる。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
レベッカは、クロードの手を握った。優しく包み込むように。
「大切なクロード様を、私が守ります」
心からの本心だった。
いつも勇気をくれて背中を押してくれた。落ち込んだり弱気になった時に、打開策を考えてくれた。
今度はそのお返しをする番だと、レベッカは思う。
重ねた手を強く握り返し、クロードも頷いた。
視線の先で、息子の姿に気がついたライネル夫妻がゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。夫人のハイヒールの音が、コツコツ、とやたら響く。
相手に見えないよう、重ねた手をさっと離し、クロードとレベッカは姿勢を正す。
「あら、クロード。そちらのお嬢様は、どなた?」
「見ない顔だな」
扇子を広げたライネル夫人と、 顎ひげを蓄えたライネル公爵が目の前に立ちはだかった。
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