【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

第3章 止まらぬ想い

醜い老婆に

　部屋のテーブルに突っ伏して、ティナは窓の外を眺めていた。
　爪の手入れをしていたため、色とりどりのマニュキュアが並べてある。

　背後の扉が開く音がしたので、ぶっきらぼうに、

「食事はいりません。引き取りなさい」

　というと、

「まさか宮廷内で飢死する気か」

　そっけない言葉が返ってきたので、顔を上げた。

　髪を一つに束ねたナギリが、腕を組んでこちらを見ていたのだ。

　ティナは王が来てくれたことに感激し一瞬頬が緩んだが、しかしすぐに表情を曇らす。


「……あの者達と一緒になど、食事はできません」

「そうか、なら、お前は別室で食べるがいい」
　
　ナギリのきっぱりとした口調に、

「お傍に居られないのですか？」

　ティナは泣きそうな顔でナギリにすがりついた。まるで捨てられた子猫のような姿に、ナギリは苦笑する。

「しょうがないだろう。
　じゃあこうしよう、食事は他のカティ達と取り、デザートはお前と二人で食べる。どうだ？」


　悪戯な笑みを浮かべると、ティナは目を丸くした後、くすくすと声を上げた。
　ナギリらしい発想だと思ったのだろう。

　しかしすぐに、口元に添えた手を下ろして、その手を力強く握りしめる。


「……わたくし、幼い頃は素直で従順な子供でしたわ。
　あなたに出会ってから、どんどんわがままになっていく。あなたに私だけを見てほしくて、嫌な女になっていく。
　きっと、将来醜い老婆になるわ」


　ぽつりと吐き出す言葉は、絶望がにじみ出ているようであった。

「それは見てみたいな」

　おどけた調子のナギリに、ティナが眉間にしわを寄せ、その美しい顔を歪める。


「何故あのような得体の知れない者にばかり気を掛けるのですか」


　指が白くなるほど、淡い桃色のドレスの裾をぎゅっとつかんで、ティナは問いただす。

　ティナが些細なことで癇癪を起こすことは珍しくは無かったが、今回は、相手に対する憎しみの感情がありありと表れていた。


「……あいつは私の命の恩人だ。そして剣の師だ。
　遠くに行ってしまったのを、ずっと探していた」


　ナギリがそう言うと、ティナは、

「そんな言い訳は聞き飽きましたわ」

　と首をうなだれた。
　甘い香水の香りが漂ってくる。