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第3章 止まらぬ想い

久しぶりの会話

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 部屋の中へ入って明かりを灯す。
 振り返ると、蝋燭立てが何の表情も浮かばせずに立っている。

 家具の配置も部屋の大きさも違うというのに、何故だかマルス公国に保護されていた時に与えられた部屋に二人で居るような錯覚に陥った。

「半信半疑だったわけじゃないが、本当にお前は千年族だったのだな。
 本当に、ちっともあの頃と変わってはいない」

 自分がまだ幼い子供だった時に出会った姿とほとんど変わっていない蝋燭立てを、頭のてっぺんから足のつま先まで眺めてやる。

 まるでおとぎ話のような話だが、やはり千年族と言うのは存在して、今まさに目の前に居るのだと実感した。

「お前は、変わったな」

 蝋燭立ての言葉が広い部屋に落ちる。
 その声が、何とも懐かしい。

「当たり前だろう。
 あれから何年経ったと思っているんだ。八年だぞ」

「随分王らしくなった」

 と言うので、
「それは偉そうで傲慢になったということか」

 意地悪く聞くと、蝋燭立ては目を細めた。
 笑ったのだ。

「お前の名声は、他の国でも聞いていた。
 剣の腕は鈍っていないか」

「千年族は大陸中を放浪していたのか? 
 随分不良なのだな」

 マルス公国に居た当時と変わらず喋りは遅いが、食事中は一言も言葉を発しなかったのに、部屋で二人っきりになった途端に蝋燭立てが自分から話しだした。

 気分が良くなったナギリは上機嫌で返答する。

「―――何故俺があそこに居ると知っていた」

 王国のはずれにある湖のほとりに居た蝋燭立て。おそらくは王国に寄るつもりはなく、すぐに違う国へと行くつもりだったのだろう。

「音楽会に、染め紙の鶴細工と名乗る男が来た。
 お前の故郷の者じゃないのか」

 心休まる心地良いフルートの演奏を披露した、肩口で切りそろえた栗色の髪の毛が印象的な男。
 
 その名前を聞いて、すぐに『神隠し山』の千年族だと分かったのだ。

 蝋燭立ては、ああ、と頷く。

「あいつは山の上にいた時から良くしてくれた」
 
 そこで一度言葉を切り、

「昔から難儀な男だったな」

 と遠い昔を思い出すように目を伏せた。

 音楽会で千年族の者が演奏し、さらに一番演奏が上手かったので名前を聞き、そしてたまたま蝋燭立ての居場所を鶴細工が知っていた。
 
 全てが偶然であった。

 この黒髪の男が王の部屋に居るのは、万に近い奇跡に等しいのだ。
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