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第10章 対面デート
『共感』した
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(王子の婚活の相談に乗るかと思いきや、楽しい一日を過ごしちゃったな。
なんだか、一緒にいるとすぐ時間が過ぎちゃう)
夕日を見上げながら、アリサは呑気なことを考えていた。
公園には、手を繋いで歩いているカップルや、同じくアイスを食べている男女、楽しそうな若者たちの姿が見える。
この公園の広場は、カップルのデートにも人気なのだという。
アリサが転生して来た時とは違い、仲の良さそうなカップルが大分増えていることに気がつく。
そして皆、結婚相談所で見た人だ。
「この町には、幸せそうな者たちが増えたな」
ルビオも同じことを思っていたのだろう。アリサは嬉しそうに頷く。
「嬉しいです。みなさんが心から幸せを感じ、結ばれるお手伝いができて。
この仕事は楽しいし、私の誇りです」
異世界に来て途方にくれた自分が、一念発起して始めた結婚相談所。
失敗や紆余曲折あったけど、最初の決意、暗い顔の人たちを幸せな笑顔にしたい、という気持ちのもと、頑張ってきてよかった。
しかし、たまに思うことがある。
「……でも、ふとむなしく感じることもあります。私は、長らくパートナーがいないもので。
他人の幸せばかりアシストして、自分の幸せは後回しにしてきてしまったのかなぁ、って」
前世では残業や休日出勤も多く、日々の癒しといえばゲームか寝ることだけだった、適齢期のこじらせ女子。
本当は、偉そうに人に指導できる身分じゃないんだよなぁ、とアリサはため息をつく。
そんなアリサの様子を、じっと見つめるルビオ。
「ああ、ごめんなさい。
曲がりなりにも会員の方に、仕事の愚痴なんて」
仲良くなってきたので忘れていたが、ルビオも仕事上のお客様だ。
命運を預けているアドバイザーが弱気なんて、不安になってしまうだろう。
「いや」
慌てて取り繕ったアリサに、少し考えてルビオは重い口を開いた。
「私も、生まれた時からガーネット王国の次期王になることが定められていた。
くる日もくる日も、勉学と剣や魔法の鍛錬、社交界への礼儀作法の訓練ばかりだった」
低い声で、静かに語り出した。
ずっと心の中に秘めていた、彼の本心だ。
「仲の良い友人もいなければ、心から悩みを相談出来る相手もいない。
一国の王子と聞けば皆が羨むだろうが、今や、この町の誰よりも寂しい存在だ」
華やかで高貴で、尊敬される存在。
その実は、唐揚げもチョコミントアイスも食べたことがなく、どこに行くにも側近がついてきて、地位と金目当ての女しか寄ってこない。
王子とは心が空虚で、むなしい男だ、と自嘲気味に呟いた。
「そなたも私も、人や国の幸せのために自分を犠牲にしてきたのだな」
アリサをまっすぐに見つめるルビオ。
その青い瞳は、海よりも空よりも澄んでいる。
「私は今まで誰かに共感したことなどなかったが、そなたの気持ちに、いま心から『共感』した」
婚活には共感力が大事だと、アリサに最初指導された言葉を思い出すルビオ。
ゆっくりと立ち上がり、真正面から目を見てはっきりと告白する。
「アリサ。そなたが望むなら、私の妻になってくれないか」
夕陽が金髪を照らし、ルビオの真剣な眼差しに、アリサの胸は打たれた。
なんだか、一緒にいるとすぐ時間が過ぎちゃう)
夕日を見上げながら、アリサは呑気なことを考えていた。
公園には、手を繋いで歩いているカップルや、同じくアイスを食べている男女、楽しそうな若者たちの姿が見える。
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アリサが転生して来た時とは違い、仲の良さそうなカップルが大分増えていることに気がつく。
そして皆、結婚相談所で見た人だ。
「この町には、幸せそうな者たちが増えたな」
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「嬉しいです。みなさんが心から幸せを感じ、結ばれるお手伝いができて。
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本当は、偉そうに人に指導できる身分じゃないんだよなぁ、とアリサはため息をつく。
そんなアリサの様子を、じっと見つめるルビオ。
「ああ、ごめんなさい。
曲がりなりにも会員の方に、仕事の愚痴なんて」
仲良くなってきたので忘れていたが、ルビオも仕事上のお客様だ。
命運を預けているアドバイザーが弱気なんて、不安になってしまうだろう。
「いや」
慌てて取り繕ったアリサに、少し考えてルビオは重い口を開いた。
「私も、生まれた時からガーネット王国の次期王になることが定められていた。
くる日もくる日も、勉学と剣や魔法の鍛錬、社交界への礼儀作法の訓練ばかりだった」
低い声で、静かに語り出した。
ずっと心の中に秘めていた、彼の本心だ。
「仲の良い友人もいなければ、心から悩みを相談出来る相手もいない。
一国の王子と聞けば皆が羨むだろうが、今や、この町の誰よりも寂しい存在だ」
華やかで高貴で、尊敬される存在。
その実は、唐揚げもチョコミントアイスも食べたことがなく、どこに行くにも側近がついてきて、地位と金目当ての女しか寄ってこない。
王子とは心が空虚で、むなしい男だ、と自嘲気味に呟いた。
「そなたも私も、人や国の幸せのために自分を犠牲にしてきたのだな」
アリサをまっすぐに見つめるルビオ。
その青い瞳は、海よりも空よりも澄んでいる。
「私は今まで誰かに共感したことなどなかったが、そなたの気持ちに、いま心から『共感』した」
婚活には共感力が大事だと、アリサに最初指導された言葉を思い出すルビオ。
ゆっくりと立ち上がり、真正面から目を見てはっきりと告白する。
「アリサ。そなたが望むなら、私の妻になってくれないか」
夕陽が金髪を照らし、ルビオの真剣な眼差しに、アリサの胸は打たれた。
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