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第9章 個人レッスン

疲労がたたり

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朝、新品の靴を履き髪を整えたアリサが、部屋を出る。

 街中を歩くと、老若男女いろんな人がアリサに朝の挨拶をしてくる。


「アリサ、今日も新鮮な果物が入ったよ!」

「あら、美味しそう。
 帰りに寄るから取っといてね」

「アリサー、いいと思ってた人に振られちゃったの。慰めてー!」

「そんな見る目ない人は忘れて、次行きましょ、次!」


 よく行く果物屋の店主と気さくに話し、歳の近い会員とはもはや女友達のようなノリでアドバイスする。

 明るいアリサは、異世界でもすぐに人気者となっていた。


(結婚相談所は順調! 
 クレイさんとケビンさんは無事に、素敵なお相手を見つけたわ。あとは……)

 心の中で算段をつけながらギルドの扉を開けると、


「遅いぞ」


 当たり前のように相談所のカウンター席に座っているルビオ。

 長い足を組み、退屈そうに肘をついている。
チラリとアリサに視線を送ったケビンが、左右に首を振った。

 おそらくは、開店時間より前に来たルビオをケビンが止めたようだが、話を聞かなかったのだろう。


(最後に、このこじらせ男子をどうにかしなきゃね……!)


 三人の中で唯一残ったルビオ王子につきっきりで指導する覚悟を決める。 

「お待たせしました、それでは個室へどうぞ」

 アリサが部屋へと促すと、何かぶつくさ言いながらルビオがゆっくりと立ち上がった。


「すまないな、待っていてくれと言っても聞かなくて……」

「大丈夫です、あとはお任せください」


 ケビンが小声で謝ってきたが、ルビオの勢いに押されてしまったのだろうというのが想像つくので、大丈夫だと答える。

 無理して笑顔を作り部屋へ入ると、連日の仕事の疲れか、思わずふらついてしまうアリサ。


(いけない、睡眠不足で疲れが溜まってるみたい。しっかりしなきゃ!)


 頬を叩いて気合いを入れ直し、ルビオの前へ座った。
 
 こじらせ男子三人のうち、クレイとケビンはめでたくお相手を見つけて順調にいっているため、ルビオ一人に集中して指導を行うことにする。

 ルビオは金髪を掻き上げ、腕を組む。


「マップフレンドとやらのせいで、どこにいくのも情報が筒抜けで、私の自由は無くなった。責任取ってもらおうか」


 クレイからも、ガーネット城の門まで会員が押し寄せて連日出待ちをしており、困っているという話は聞いていたので、該当者には個人的に注意喚起の連絡をしたのだが。

 それでも、運営の隙を狙ってはルビオと無理矢理にでも接触しようとする女性が後を立たないのだろう。

 玉の輿を狙えると思った女性たちの必死さは凄い。


「ではアプリはやめて、また趣味コンを……」

「魔物コンは二度といかん」

 言葉の途中で遮られ、取り付く島もない。


「じゃあどうするんですか、もー!」


 傍若無人なルビオと口喧嘩していた時、アリサはサーッと頭の血が引いていくのを感じた。
連日の疲労が重なったのか、ふらつくと、倒れ込んでしまう。


「お、おい! 大丈夫か?」


 ルビオの慌てた声が聞こえたが、


(ダメだ、力が入らないーーー)


 貧血で視界が真っ暗になったアリサは、そのまま冷たい床へと突っ伏してしまった。
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