上 下
39 / 84
第7章 趣味コン:魔物狩り

2人の趣味は?

しおりを挟む
夕方、ギルドは人が少なかったので早めに閉め、デートに向かうケビンを送り出す。


(うまくいくといいな、いやきっとケビンさんならうまくいくはず。
 街コンカップリングパーティはお互いを選び合う工程を踏むことで、実際のカップルに進展する確率も高いから、異世界でも好評だもの!)


 ケビンのデートの成功を願いながら、アリサは紅茶を入れて、ほっと一息つこうとした。

 紅茶の甘い香りが鼻口をくすぐり、温かさが喉を通り抜けていく。


「それで、私にぴったりな婚活イベントとやらは、思いついたか?」


 勢いよく紅茶を吹き出した。

 ゲホゲホ、と気管に入りアリサは激しくむせかえる。

 目の前に、金髪碧眼の、イケメンの無駄使い王子が立っていた。


「何を驚いている。
 今日も来いと言ったのは、そなただろう」


 確かに、街コンの帰り道にルビオに向かってギルドに来いと言ったのは間違いないが。


「ゲホッ、る、るびお、おうじ、けほっ」

「大丈夫ですか、アリサさん」


 横についてきていたクレイが、颯爽と近寄り背中をさすってくれた。
 白いハンカチを手渡してくれたので、受け取り口元を抑える。

 そんなアリサは気にも留めず、我が物顔でカウンターの席に座るルビオ。


「さっき、道で黒髪眼帯とすれ違ったぞ。
 何やらめかしこんでいたが」

「黒髪眼帯て……ケビンさんは今からデートなんですよ」


 何度もイベントを一緒に過ごしているんだから、名前ぐらい覚えてほしい。

 ルビオは『デート』という言葉を聞き片眉を上げると、面白くなさそうに肩をすくめる。


「それはそれは。
 私も、早く運命の人とやらに会ってみたいものだな」


 椅子に肩肘をつき、ふてぶてしい物言いをするものだ。


「すみません。
 ケビンさんに先を越されて、王子は昨日から少し機嫌が悪いんです……」


 クレイがそっと耳打ちをしてくれた。


(自分が、カップリングカードを白紙で出したくせに!)


 いい人と出会えないのはアリサのせいだ、とでもいうようにふんぞり返っている。

 アリサは入れたばかりの紅茶を飲むことを諦め、来訪者二人に向き合い、婚活アドバイザーモードになる。

 次こそはクレイとルビオになんとかして相手を見つけようと、彼らに合う趣味コンを模索する。


(エグゼクティブパーティでは女性に話しかけに行くこともできず、相席居酒屋では男同士で仕事の話で盛り上がっていたこじらせ男子な二人も、セミナーの甲斐あって街コンでは女性と話せていた。
 クレイさんは、カップリングまであと一歩だったのよね)


 今までを振り返り、二人の成長を実感するアリサ。

 その上で、より相性の良い女性を探すために趣味コンを思案する。


「そういえば、お二人の趣味ってなんですか?」


 アリサに問われ、ルビオとクレイは顔を見合わせる。


「お恥ずかしながら、自分は仕事一筋なもので、趣味というものが無く。
 強いて言うなら、体を鍛えることが好きです」


 クレイは細身に見えるが、腕まくりした時の筋や、足のふくらはぎの筋肉はなかなかのものだ。
 王子側近として日々鍛錬を怠らず、意外に細マッチョなのかもしれない。

「私は乗馬やボードゲームしている時が一番楽しいな。
 後は剣技の鍛錬か」

 ルビオはさすが王族らしい趣味である。

 確かゲームの公式プロフィールにも書かれていたな、と思い出す。

 バランスのよいステータスを持っていたが、剣が一番強かったため、レアな剣を装備させて戦わせていた。


「なるほど……。ではお二人の共通しているのは、体や技を磨くことなのですね」


 クレイは乗馬やゲームをやらなそうだし、二人とも魔物と戦うための鍛錬をよくしているようだ。

 同じスポーツや、同じエンタメが好きならば、趣味コンも考えやすかったのが。アリサは頭を悩ませる。

「城を脅かす魔物を、我々で退治したりしますからね」

 クレイの言葉に、ひらめいた。

 複数人でパーティを組んで、魔物を倒すというのも、共同作業なのではないか?

 フットサルや料理作りより、命を懸けた極限状態ではその人の性格がわかるし、目標を達成した後に絆が生まれやすいのではないか。


「なるほどなるほど。では、こうしましょう!」

 アリサはペンを持ち、手近にあった紙に書き殴った。

 そこには、


『二十代限定☆週末魔物狩りコン!
 ※イベント中に負った怪我は自己責任となります、ご了承ください』


 と書かれている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される

未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」 目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。 冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。 だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし! 大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。 断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。 しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。 乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...