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第一章 異世界で結婚相談所?

僧侶ハリーとデート

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「ローザさん。あなたはとても優秀な魔法使いの方で、今まで努力をしてきたのだというのが、素人の私にも分かります」


「ふん、まあね」


 謙遜せず、自分に自信を持っているローザは髪を掻き上げる。


「でも、それと同時にとても結婚願望があり、女性としての幸せを感じたいと思っている」


「なな、何よ……悪い?」


 アリサの言葉に図星をつかれたのか、ローザは慌てて言い返した。
 しかし、アリサは優しく首を横に振る。


「いえ、全然悪くありません。
 心の通う相手を見つけ、穏やかな生活を送りたいと思うのは当たり前のことです。
 しかし、戦士や賢者のような方は、確かに強く、収入もいいかもしれませんが、常に命の危険と隣り合わせで、結婚後も安心はなかなか得られないでしょう」


 ゲーム上では、戦士や賢者は必ずパーティに配備したい強キャラだ。

 しかしそのため、致命的な怪我を負い、ゲームオーバーになることも多い。
 旦那が冒険に行く度にハラハラしなくてはいけないのは、結婚後も心労が絶えないはずだ。


「う……。じゃあ、誰がいいのよ」


 実際に日々モンスターと戦っている魔法使いのローザは思い当たる節があるらしく、苦々しく頷く。


 アリサが一枚の男性のプロフィールカードを見せる。
 そこに載っていたのは、ハリーという名の若い僧侶の男性だ。


 目を引く華やかさはないが、朴訥で、とても心の穏やかな人だった。


「なに、僧侶じゃない。地味すぎるわ!」


 一目見てタイプじゃない、とローザは顔をしかめた。


「僧侶の方は、冒険には出ません。
 町の教会で怪我人を癒す神職の方。
 でもそれゆえに、ご自身は命の危険はない。
 そして光魔法は厳しい修行を極めた限られた方しか使えない、いわば資格職。

 この方、ハリーさんに聞いたところ、お仕事も毎日定時には終わり、週休2日だそうです。
 まさに職は安定していて結婚向きです。

 ハリーさんとお話しさせていただきましたが、とても穏やかで、家事や子供もお好きということでしたよ。
 そして、自立した芯のある女性がお好きだと」


 アリサはスラスラと、提案した男性の良いところを挙げていく。


(ローザさん、見た目は巻き髪にネイルをしていて派手だけど、休日は料理とガーデニングをしていると書いてあった。
 遊びに出たり飲み歩くのではなく、根はインドアで穏やかな人のようね。
 自炊もできて、金銭感覚もしっかりしてそう。
 こういう人は見た目のせいで、派手でチャラい男に狙われて、過去に辛い恋を経験してたりするので、少し物足りなくても誠実な男性に落ち着くのよ)


 ハイスペ男子狙いのローザだが、実は家庭的で内気、今後は穏やかな日々を過ごしていきたいんだというのを経験から見抜いたからだ。

 実際に、週休2日の定時上がり、資格職だと告げるとローザの目の色が変わった。


 前世の結婚相談所だったら、この条件の人なら女性たちから大人気に違いないのだ。


 そして、ハリーは町で怪我人を癒す僧侶のため、ギルドに足を運ぶ必要はないというのに、ギルド内の結婚相談所にわざわざ話を聞きにきてくれた。


 ふらりと寄ったのではなく、本気で結婚相手が欲しいと思っている、結婚願望が強い男性だと感じたのだ。

 恥ずかしくて隠しているようだが、結婚願望の強そうなローザにはぴったりである。


「そ、そう……。
 じゃあ、会ってあげてもいいけど……」


 ハリーのプロフィールカードに目を落としながら、ローザが告げる。
 既に、会うのを期待しているような視線だ。


「そうですか、じゃあハリーさんにお伝えして、後日セッティングいたしますね!」


 デート成立の第一号だと、アリサは大きく頷いた。



*   *   *



 数日後、ローザとハリーの1回目のデートの当日。

 二人の休みの日を聞き、アレルギーがないかどうかの確認もし、おしゃれで雰囲気の良いカフェを探し予約する。
 それも、婚活アドバイザーの仕事だ。


 ギルドの個室にて、可愛らしいワンピースに身を包むローザを前にアリサは小さく拍手をした。


「とても可愛らしいですよ!」

「そ、そう?」


 ドレスコードは特にないが、1回目のデートは上品で女性らしいワンピースが良い、と勧めたら、問題ないかチェックして欲しいと言ってきたのだ。


 花柄ワンピースに、薄いピンクのネイル。
 巻き髪はバレッタで束ね、低めのヒールのパンプス。
 ハンドバッグに、胸元には小さなネックレス。


 いつも強気なローザだが、デートに行くファッションが不安で確認に来るなんて、なんて可愛らしいんだろうとアリサは微笑ましく思っていた。


「リラックスして、楽しんでくださいね。
 自然体で!」


「分かったわ。……ありがとう」


 それでもまだ緊張しているローザと一緒に深呼吸をして、アリサは彼女をレストランへと送り出した。


 異世界で開いた結婚相談所、初めてセッティングしたデート。


(ローザさんはとても素敵な女性。
 そして私も、全力でサポートしたわ。
 絶対にうまくいくはずよ!)


 そう確信し、彼女の背中を見送った。
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