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第3章

15.ゴミは拾って捨てなさい

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数日間、生徒たちの学生生活を観察してクロエにわかったことがある。
便宜上、妖精・獣人・牙角族・人型と悪魔を無理やり4つのタイプに分け、クラス長をその上につけているのだが。

やはり生来、体が大きく、たくましい種族が学園内でのイニシアティブをとっていることが多いようなのだ。

人間と同じ170cm程度の者が多い人型族、それよりも小柄な妖精族は、獣人や牙角族に一線を引いているように見える。


ドラゴンやリザードマンのいる牙角族は、そもそも人数が少ない上に、自尊心が高いため他者をいじめるようなことはしないが、獣人たちは数も多く、徒党を組んで威嚇してくるため厄介だ。


食堂の行列を横入りしては、ドワーフに向かって「小さくて見えなかったぜ」と笑ったり。
扉を開けるのに足で蹴破ったり、ゴミ箱に物を投げたり、休み時間は下品な話をしては大声で笑ってたり。

アリスとリリーのように、女子は呆れて無視しているようだが、やはり集団生活で種族間での軋轢はよくない。



*     *     *



放課後、クロエは掃除当番だったためモップで教室の床を拭いていた。

黒板を消す人や窓を拭く人もいて、テキパキと清掃が行われる中、教室の後ろの方では数人の獣人の男子たちが楽しそうに会話をしていた。


「授業終わったんだから、くっちゃべるなら寮に帰ればいいのに……」


アリスが雑巾を洗いながら、ため息混じりに不良集団を見る。


「クロエさん、彼らが帰ったら僕が残りを掃除しときますよ」


日直のため日誌を書いていたレヴィンが、何か言いたげな視線を獣人たちに向けているクロエをなだめるように言う。


「レヴィンさんは掃除当番ではないじゃないですか」

「日誌書くのにもう少し時間かかるんで、構いませんよ」


にこり、とレヴィンは微笑む。
その瞳には、「あいつらは何言っても無駄だから、面倒ごとは避けましょう」と書かれている。

しかし、モップを手に持ったクロエは思う。


一部の傍若無人な奴らのために、周囲が気を使うのはいかがなものか、と。
誰かが咎めなければいけないのだ、と。


教師の悪口でゲラゲラ笑っている獣人たち。


その中心にいるギルバートは、おやつ代わりの揚げたネズミの肉を齧っていた。

フェンリルの悪魔の彼は、肉食獣らしく牙のある大きな口でネズミの肉を咀嚼したあと、口の中に残った骨を床に吐き出した。


乾いた音がして、白い骨がクロエの足元近くに転がってくる。


クロエが眉をひそめたのを見て、レヴィンが「まずい」と思ったのか、立ち上がろうとした瞬間、それよりも早く、クロエは獣人たちに近づいた。


「ギルバートさん、ちょっとよろしいかしら」


腰まで伸びた美しい銀髪をなびかせ、穏やかな笑みを浮かべて話かけるクロエ。
机の上に足を乗せてふんぞり返っていたギルバートが、視線だけクロエに向けた。


「このあたりはもう掃除したんです。拾ってくださらない?」

「……ああ?」


クロエは、足元に落ちているギルバートが吐き出した骨を指差した。
しかし、取り巻きの獣人たちはクスクスと笑っているし、ギルバートは動こうとしない。


「掃除当番はアンタだろ。そのモップで掃除しといてくれよ」


とクロエの持っているモップを指差し、鬱陶しいと言わんばかりだ。
アリスやレヴィン、そのほかの掃除当番たちが、怖いもの知らずなクロエに助け舟を出せずに固まっていると、


「品性がなく、短気で短絡的な方だと思ってましたが、言葉も理解できないのかしら?」


涼やかな声で、クロエは教室でたむろする不良たちに堂々と言い放つ。



「自分のゴミは自分で拾って捨てなさい。……って言ってますのよ」



一歩も引かないと、強い意志を持って。
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