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第3章

13.獣人だけはほんと無理

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「どこ見て歩いてやがるんだ!」


そんな楽しい女子トークを遮る、いかつい叫び声が響いた。
アリスとリリーはびくりと肩を震わせ、クロエも声がした方をゆっくり振り返る。

そこには、背が高くたくましい体つきの男子生徒が数人で揉めていた。



「テメェ、よそ見してぶつかってきやがって。ギルバートさんに謝りやがれ!」


 
怒鳴りつけているのは、髪の毛をツンツンに逆立てた獣人の男だった。怒ると毛が逆立つ彼らは、肉食獣の牙を見せながら威嚇している。

どうやらすれ違いざまに、向かいを歩いていたドワーフの男子と肩がぶつかったらしい。


「ご、ごめんなさい……よそ見してて」


どうやら先にぶつかったのはドワーフのようだが、小柄な彼はぶつかった衝撃で床に転んで尻餅をついてしまっていて、獣人たちは立ったままだ。体格差で跳ね飛ばされたらしい。


「ごめんなさいで済んだら戦争は起こんねえよなぁ!」

「ギルバートさんに謝れよ!」

「す、すみません!」


 取り巻き二人に凄まれ、ドワーフはペコペコと頭を下げている。
 中心にいたギルバードは、釣り上がった細い眉を寄せた後、


「……気ィつけろよ」


と舌打ち混じりに睨みつけている。

ドワーフは平謝りをしながらそそくさと去っていき、憮然としたギルバードと、ヘラヘラ笑う取り巻きの獣人男子たちは肩で風を切りながら歩いて行った。


その様子を影から見ていたクロエ、アリス、リリーの三人。


「さいて―い。三人で横並びに歩いてる方が邪魔じゃんね」

「強い男子は素敵だけど、獣人だけはほんと無理だわ」


 アリスは舌を出し、リリーは肩をすくめて呆れている。


「獣人族たちは、普段からあんな感じなのかしら?」

「そうそう。体がデカくて見た目がイカついから、みんなビビっちゃって。どんどん調子に乗ってるよね」

「ただの輩だわ。関わりたくないわね」


 そうして、アリスとリリーは獣人たちの普段からの素行の悪さをつらつらと愚痴りだした。
 食堂で並ぶ順番抜かされたから、注意したら睨まれたとか。

 気に入らない教師に喧嘩ふっかけたせいで授業にならなかったとか。


「クラス長のギルバードが率先して荒れてるから、手がつけられないわよね」

「うん、獣人たちは団結力だけはあるから」

「なるほど……」


確かに、クロエが転校初日、女だから気に食わないだの、本当に強いのかだの、初対面で文句を言ってきたのはギルバートだった。

敵の喉元に食いつき、食いちぎるフェンリルの彼は、普段から血の気も多いのだろう。


(……学園の秩序のために、放っておくわけにはいかないわね)


弱肉強食なのは野生の世界だけで良い。

悪魔同士で団結し、人間を滅ぼすために戦わなければいけないのだから、学園の生徒同士で内輪揉めしている暇はないのだ。

クロエは去っていくギルバートの、大きく鍛えられた背中を見つめ、考えた。
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