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第1章

4.一つよろしいですか

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魔王に娘がいたという、センセーショナルな話題に全生徒がざわついている。

不気味な鴉が再び羽根を広げ、静かにするようにと注意しても、驚いた生徒たちは話を聞く様子もない。

 クロエは咳払いをして、広く通る声を放った。


「一つよろしいですか」


 注意を聞かなかった生徒たちはクロエの声に一斉に口を閉じる。


「入学早々恐縮ですが、クラス委員長の四人とお話がしたいので、この朝礼が終わりましたら生徒指導室へと来てくださいませ」


それだけ告げ、ぺこりと頭を下げてクロエは壇上を横切り幕間へと去っていった。
全校生徒の視線が、最前列の委員長たちに注がれる。


「魔王令嬢直々のご指名、ということでしょうか……」


 突然のことに、いつも冷静沈着なレヴィンも頬に汗をかいている。


「なんだろ、ワクワクするね!」


 無邪気なローレンは目を輝かせながら心躍らせているようだ。

 その後、不気味な鴉からの1週間の行事予定や課題などの連絡事項を並べていくが、委員長四人の頭には銀髪の少女の姿が焼き付き、一切入ってこなかった。


 
*      *      *



 生徒指導室の椅子に座り、クロエはふうとため息をついた。

 父親である魔王の願いとはいえ、大勢の前で脚光を浴びることに慣れていないため、少々疲れてしまった。


(それにしても、様々な種族が通っているのね……)

 
  ヴィンスガーデン・アカデミーに通うには、基準がある。
  
  知性があり他人と意思疎通ができ、二足歩行が可能な人型であること。
  オークやゴブリンのように異形で力は強いが、力任せでしか戦えない者は入学不可。

  
  また、動物の見た目で二足歩行ができず、人型でないものも入学はできない。
  魔王であるヴィンスは以前、クロエにこう言った。


『絶大なる魔力を持つ悪魔が、長らく人間に勝てなかったのはなぜか、わかるか』


  闇の城の玉座に座り、浅黒い肌に真紅の瞳のヴィンスは尋ねる。
  すぐには思い付かず、クロエが首を傾げていると、


『奴らは知恵を使う。一度負けても、一人でも生き延びればその戦いを反芻し、作戦を立て、自分たちに有利な状況を作り、再び戦いを挑んでくるのだ』


 ため息をつきながら、人間の特性を語る。


『脆弱で、寿命も短く、魔力の最大値も少ない愚かな人間どもだが、奴らは人数を集め、経験をもとに規律を以って、的確に我々の弱点を付いてくる』


 眉間に皺を寄せ、過去の壮絶な戦いを思い出しながら、魔王ヴィンスは言葉を紡ぐ。


『我々悪魔は自我が強く、単独行動の者が多いからな』


「でもお父様は、そんな人間たちに勝ったではないですか」


『ああ。だが我らが住む闇の世界に安易に攻め込まれぬようになっただけで、人間界を制圧するには私だけの力では足りない』


 強大な闇魔法を駆使し、たった一人で人間の軍勢を打ち破った、伝説の魔王。
 しかし、やはりどんなに強くても、一人では手数が足りない。


『知性のある人型の悪魔たちで統制した軍隊をつくり、攻め込むのだ。……学園は、その秩序と規律を学ばせる場所である』


 悪魔は皆、自尊心が高く単独行動をする。種族によって特性や長所・短所も異なるため、集団生活をさせ、規律を教え込もうという魔王の発した名案だった。


『なのに、指導者となる委員長の四人が、一番秩序を乱しているのだと言うから、頭が痛いものよ』


 指導しやすいよう、妖精・獣人・牙角種・人型と、悪魔を便宜上四つに分け、そのクラスの中で一番強く理性的な者を委員長として置いたのだが、どうやら最近うまく機能していないようだ。

 魔王の心労は、日に日に増しているという。


「お父様を困らせるなど、愚か者ですわね……」


 クロエは、最愛の父親の気持ちを慮り、胸を痛めた。


「ならば、わたくしはそんなお父様の悩みを取り除くために尽力致します」


 形の良い唇を上げ、玉座の魔王の黒い瞳を真っ直ぐに見つめ、誓うクロエ。


『頼んだぞ、可愛い私のクロエ』


「はい。偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様の名の下に」
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