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第8話 帝国の令嬢
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「さて、まずは自己紹介を。私はイザベラ・ルドヴィカ・ラルーシ。ゼルドーラ帝国ラルーシ選帝公領から参りましたわ」
どういうわけか狭い私の部屋に帝国からいらっしゃった本物の貴族令嬢がいる。
「イザベラ様とゼルラード帝国並びにラルーシ選帝公領に天使たちの加護がありますように」
私は失礼がないように外国の来賓に対して行う格式ばった挨拶をした。
「ありがとう、あなたにも。それで、エルゼ・モーレさん。私にはあなたが人の婚約者を横取りするような腹黒い女には見えませんの。それどころか、ゲルハルド王子から逃げて迷惑しているご様子。王子がどうしてあなたへの狂った愛に目覚めたのか知りたくてここに来たの」
「せっかくですが、私には何もお話することは……」
「そう。でも私を誤魔化せるとは思わないで。あなたは誰かに何かを口止めされている。そうでしょう? 黒幕がいるのかしら。あなたのことを悪いようにはしないから、その黒幕の名前を言いなさい」
「えっと……」
『天使様が黒幕です』なんて突拍子もないことを言えるはずもなく言葉につまっていると、イザベラ様は部屋の隅に置いてあるものに気がついた。
「あら? これは……。 あなた、これをどこで?」
「それは……、遠い外国から来た知人に貰った飲み物の空き瓶です」
「これは『コーラ』の瓶よね。その知人という人について詳しく教えて。あなたは『ニッポン』という国をご存知かしら?」
「それは、教えられませんし、知りません……」
なぜイザベラ様がコーラについて知っているのかはわからないが、天使様と約束したコーラの秘密は守らないといけない。
「脅すようだけど、婚約破棄を我が国への侮辱とみなし外交問題になった場合、あなたの家は爵位剥奪と領地没収になる恐れもあるのよ?」
「それでも、聖天使軍の騎士であった父の名誉にかけて言えません」
「聖天使軍の騎士……。ふふっ、それはもう答え合わせみたいなものよ。あなたは天使への信仰心が厚いようね」
「それはどういう意味でしょうか?」
「窓をご覧なさい。あなたを心配している守護天使が二人も来てるわ。あなたにも見えるはずよ」
「イザベラ様も天使様を見ることができるのですか?」
「ええ、これでも聖女の力を持っているのよ。でも、他人に知られると面倒なことに巻き込まれて死亡フラグが立ってしまうから今日まで誰にも話さなかったというわけ。あなたも秘密にしておいてくれるかしら。だけど、天使さんになら全部話しても良いわ」
イザベラ様はやはり悪い人ではなかった。聖女様だ。……死亡フラグとはなんだろう。
「それはもちろん、父と天使の名にかけて秘密を誓います」
私はイザベラ様が聖女であることなどを天使様に説明した。
「ガブリエル、ジパングの文化ではミスをした時、このようにセイザをし、額を床につけドゲザのポーズをとり、そしてハラキリすることで罪の許しを得ます」
二人の天使様はイザベラ様の前に座り込み頭を深く下げた。
「まさかジパングからの転生者の人と地上で会うとはね……。それで、ハラキリってその……、自分でお腹を剣で切るということだよね……?」
「そうです。ガブリエル、ハラキリしてください」
「や、やだよ。死んじゃうじゃん」
「私が死を司る天使であることを忘れましたか? 女神様から事後承諾で蘇生許可を受けますから安心して死んでください」
「ううっ、ほんとにやらなきゃダメ?」
イザベラ様は優しい口調で二人の天使様に語りかけた。
「待ってください天使さん。そのしきたりは私の国でもすでに廃れた文化ですよ。今は、失敗の責任をとって自殺するというのはおかしいと考える人が大多数でしょう。あと、ジパングではなく正確にはニッポンで──」
「そうなのですか。私はつい最近170年ほど前にジパングへ行きましたがまだその文化がありましたよ」
「あっ、ずるい。アズラエルちゃんは担当国が違うのに」
「私が担当している国の大使が最新の蒸気式フリゲート艦でジパングへ行くことになったのでついていきました。船の上は治外法権でその国の領土とみなされますからずるなどはしていません」
「170年前がつい最近ですか。ふふっ、ずいぶんとスケールが大きい話ですね。それで聞きたいのですが、私はどうしてこの世界へ転生したのでしょうか?」
「それが私達もよくわかんないんですよー。異世界転生を管轄しているのは他の神々と天使たちなので」
「ええ、天界は俗に言う縦割り行政と言いますか他の部署との協力や情報共有が極度に貧弱なので」
「なんだか私がいた国のお役所みたいですね」
驚いたことにイザベラ様は異世界で亡くなられてゼルドーラ帝国の貴族令嬢として転生されたという。二人の天使様と異世界の話で盛り上がり、様々なことを話されていたが私にはほとんど理解ができなかった。
ゲルハルド王子との婚約破棄騒動は天使様が責任持って解決することを提案しイザベラ様はご納得された。
「ジパングの人は親切だなー。こんなとんでもないミスをしたのに笑って許してくれるなんて。これはぜひとも頑張って婚約破棄の運命を破棄させないと」
「ええ、ジパングの人は異世界転生のプロフェッショナルな民族ですから話が早くて助かりましたね」
どういうわけか狭い私の部屋に帝国からいらっしゃった本物の貴族令嬢がいる。
「イザベラ様とゼルラード帝国並びにラルーシ選帝公領に天使たちの加護がありますように」
私は失礼がないように外国の来賓に対して行う格式ばった挨拶をした。
「ありがとう、あなたにも。それで、エルゼ・モーレさん。私にはあなたが人の婚約者を横取りするような腹黒い女には見えませんの。それどころか、ゲルハルド王子から逃げて迷惑しているご様子。王子がどうしてあなたへの狂った愛に目覚めたのか知りたくてここに来たの」
「せっかくですが、私には何もお話することは……」
「そう。でも私を誤魔化せるとは思わないで。あなたは誰かに何かを口止めされている。そうでしょう? 黒幕がいるのかしら。あなたのことを悪いようにはしないから、その黒幕の名前を言いなさい」
「えっと……」
『天使様が黒幕です』なんて突拍子もないことを言えるはずもなく言葉につまっていると、イザベラ様は部屋の隅に置いてあるものに気がついた。
「あら? これは……。 あなた、これをどこで?」
「それは……、遠い外国から来た知人に貰った飲み物の空き瓶です」
「これは『コーラ』の瓶よね。その知人という人について詳しく教えて。あなたは『ニッポン』という国をご存知かしら?」
「それは、教えられませんし、知りません……」
なぜイザベラ様がコーラについて知っているのかはわからないが、天使様と約束したコーラの秘密は守らないといけない。
「脅すようだけど、婚約破棄を我が国への侮辱とみなし外交問題になった場合、あなたの家は爵位剥奪と領地没収になる恐れもあるのよ?」
「それでも、聖天使軍の騎士であった父の名誉にかけて言えません」
「聖天使軍の騎士……。ふふっ、それはもう答え合わせみたいなものよ。あなたは天使への信仰心が厚いようね」
「それはどういう意味でしょうか?」
「窓をご覧なさい。あなたを心配している守護天使が二人も来てるわ。あなたにも見えるはずよ」
「イザベラ様も天使様を見ることができるのですか?」
「ええ、これでも聖女の力を持っているのよ。でも、他人に知られると面倒なことに巻き込まれて死亡フラグが立ってしまうから今日まで誰にも話さなかったというわけ。あなたも秘密にしておいてくれるかしら。だけど、天使さんになら全部話しても良いわ」
イザベラ様はやはり悪い人ではなかった。聖女様だ。……死亡フラグとはなんだろう。
「それはもちろん、父と天使の名にかけて秘密を誓います」
私はイザベラ様が聖女であることなどを天使様に説明した。
「ガブリエル、ジパングの文化ではミスをした時、このようにセイザをし、額を床につけドゲザのポーズをとり、そしてハラキリすることで罪の許しを得ます」
二人の天使様はイザベラ様の前に座り込み頭を深く下げた。
「まさかジパングからの転生者の人と地上で会うとはね……。それで、ハラキリってその……、自分でお腹を剣で切るということだよね……?」
「そうです。ガブリエル、ハラキリしてください」
「や、やだよ。死んじゃうじゃん」
「私が死を司る天使であることを忘れましたか? 女神様から事後承諾で蘇生許可を受けますから安心して死んでください」
「ううっ、ほんとにやらなきゃダメ?」
イザベラ様は優しい口調で二人の天使様に語りかけた。
「待ってください天使さん。そのしきたりは私の国でもすでに廃れた文化ですよ。今は、失敗の責任をとって自殺するというのはおかしいと考える人が大多数でしょう。あと、ジパングではなく正確にはニッポンで──」
「そうなのですか。私はつい最近170年ほど前にジパングへ行きましたがまだその文化がありましたよ」
「あっ、ずるい。アズラエルちゃんは担当国が違うのに」
「私が担当している国の大使が最新の蒸気式フリゲート艦でジパングへ行くことになったのでついていきました。船の上は治外法権でその国の領土とみなされますからずるなどはしていません」
「170年前がつい最近ですか。ふふっ、ずいぶんとスケールが大きい話ですね。それで聞きたいのですが、私はどうしてこの世界へ転生したのでしょうか?」
「それが私達もよくわかんないんですよー。異世界転生を管轄しているのは他の神々と天使たちなので」
「ええ、天界は俗に言う縦割り行政と言いますか他の部署との協力や情報共有が極度に貧弱なので」
「なんだか私がいた国のお役所みたいですね」
驚いたことにイザベラ様は異世界で亡くなられてゼルドーラ帝国の貴族令嬢として転生されたという。二人の天使様と異世界の話で盛り上がり、様々なことを話されていたが私にはほとんど理解ができなかった。
ゲルハルド王子との婚約破棄騒動は天使様が責任持って解決することを提案しイザベラ様はご納得された。
「ジパングの人は親切だなー。こんなとんでもないミスをしたのに笑って許してくれるなんて。これはぜひとも頑張って婚約破棄の運命を破棄させないと」
「ええ、ジパングの人は異世界転生のプロフェッショナルな民族ですから話が早くて助かりましたね」
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