《氷結》少女の英雄譚

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第一章《少女と槍星の邂逅》

1-18《守る側として》

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 自分達はここで死んだ、と思っていた4人は突如現れた少女の姿を、驚いた顔で凝視する。
 
 当然その少女はソフィアである。身長はその年齢に対して平均的だが、それでも12歳の子供であるのには変わらない為、この場にいるのは普通に不自然である。
 そしてその装備。ソフィアの使う槍術―――主にダグラスから教わった槍術は、起動力や速さに重点を置いた槍術。鎧などの装備は、その槍術の特性を殆ど無意味にしてしまうだろう。
 ソフィアの装備は、胸元を覆うプレートアーマー、ただそれだけである。それ以外はほぼ私服であり、守るものがないので一撃でも受けたら致命傷になりかねないだろう。
 だがダグラス曰く、


『受けたら危険?なら受けなければいいんだよ。躱せ!!そして槍で受け止めろ!!』 

 まさしく脳筋ダグラスらしい発言だが、それが可能にするのがソフィアだ。
 ダグラスより身軽で華奢なソフィアは、速さだけを見ればダグラスを超え、攻撃を支える為の力も付いてきている。
 それに、槍の才に恵まれたソフィアはその腕も徐々に上げてきており、並の戦士では太刀打ちできないだろう。

「遅れてすみません。えーっと…大丈夫ですか…?」

 ソフィアのその言葉にハッと意識を取り戻し、目の前にいる大柄な男―――ギランは口を開く。

「あ、あぁ…大丈夫だ。流石に死ぬかと思ったがまさか来てくれるとは思ってなかった」

 しどろもどろな様子でギランは言い、そしてソフィアへと体を向け頭を下げる。

「助けてくれてありがとう…!…さっきも言った通り絶対死ぬと思った…死ぬのが怖かったんだ。年下の少女だからって蔑したりしねぇ…これは俺なりの全力の礼だ」

 突然の礼にソフィアは驚きの表情で、それを止めようとするがギランは頑なに、頭を上げようとはしない。ソフィアはギランの覚悟というものを感じたのか、止める事を強要せずギランに向けて口を開く。

「いえ…私も間に合ってホッとしています。…助かってよかったです!」

 その言葉にガバッとギランは顔を上げ、ソフィアを見る。
 その表情は満面の笑みで―――感情の濁りの一切も無い純粋な笑み。

―――あぁ、これはだ…

 その様子からソフィアは、ギランの事を心から心配していたという事がわかる。当然ソフィアに命の危機を救われたという時点で、それはわかる事なのだが実際目の当たりにし、死の恐怖を間近で味わったギランにとってその表情は、精神的な面でも救われる部分が沢山あった。
 思わず涙がこみ上げてきそうなギランに、ポンッと肩に手を置かれギランは振り向く。

「ふぅ~…本当に貴方が無事で良かったわよ…心臓止まると思ったんだから」
「あぁ…心配かけて済まなかったな」
「本当ですよ!こんなところで死なないでください!僕たちの旅は始まったばかりなんですから!」
「本気でビックリしたんだからね!」

 そこには2人の女性と1人の男性。全員が何処か安堵したような顔をしている。やがて3人はソフィアに向かい何かを思い出したかのような顔をして口を開く。

「あ、そう言えば名乗ってなかったわね。私の名前はサーシャ。見ればわかると思うけれど魔法使いよ。あとギランを助けてくれて本当にありがとう!」
「僕の名前はクリードです!」
「アタシの名前はラファリアよ!」

 3人の言葉にギランは、納得したような顔をし自分もと、口を開く。

「そういえば名乗ってなかったな。俺の名前はギラン。何度も言うが助けてくれて本当にありがとう…」
「いえ…!…あ、私の名前はソフィアです。皆さんが無事で良かったです!」

 互いに自己紹介をし合い、場の空気は先程までの戦闘の雰囲気から消え、冷える中比較的暖かく感じてしまうソフィア達だった。


 ***


「んっ…と。こんな感じですかね。何処か痛みますか?」
「いや、大丈夫だ。何から何までありがとうな」

 ギランの傷を即座に応急処置し、取り敢えずは安心といった感じでふぅと息を吐くソフィア。ギランはその手際の良さにまた驚きを隠せなかったが、それはあまり気にする事では無いと判断したようだ。

「取り敢えず傷口は抑えたので後は…聖堂教会でしたね!そこで治療してください!」

 聖堂教会―――それは冒険者ギルドと同じく国や組織などに縛られる事のない、ただ一つの組織である。
 聖堂教会で活動している人達は皆、修道服を着ており魔法とは違う力を行使し、傷を癒す力―――『治癒術』と、透明な壁を展開し外敵から身や周りを守る力―――『結界術』。これらを使い人々を癒し守る為の組織である。
 この世界で傷を癒す手段は、聖堂教会での治癒術に頼るしか無い。中には薬師も居て傷薬なども存在するが、その場で回復させるとなるとそれはあまり良い手段とは言えないだろう。
 そしてその組織は冒険者ギルド同様、様々な街などにあり、何処にいても基本近くにあるので誰でも気軽に行けるのが特徴。
 因みにエステルにも聖堂教会はあるので、ソフィアはそこまでギラン達を連れて行こうとするが、ギラン達は首を横に振り「大丈夫だ」と口を開く。

「流石にそこまでしてもらうのは悪いな…ちょっと痛むがそれだけだ。エステルまでそこまで距離は無いし特に問題もないだろう」
「でもまた途中で魔物と出会ったりしたら…」
「大丈夫よ!あの時は不意打ちを喰らっちゃったけど…もうあんなミスはしないわ!私は学んだのよ!」

 ソフィアの心配をよそに、サーシャは答える。
 ソフィアも「まぁ…そこまで言うなら」とギラン達の熱気に押され、これ以上の心配は無いと言葉を取りやめた。


 ***


 その後ソフィアは、ギラン達とは先程の休憩所の辺りまで戻ったところで別れる事になった。やはりソフィアは何処か心配そうな顔で、ギラン達の後ろ姿を見ていたが早々魔物に襲われることもないだろうと気持ちを切り替え、ソフィアは再びその場にある石造りの椅子に腰掛ける。

「ふぅ…なんか結構疲れちゃったな…」

 ギラン達の気配を感じ、すぐにそれを危機と判断してギラン達の元へと向かったソフィア。当然その走りは全力で、未だ子供のソフィアには少々体力の消耗が激しかったようである。
 ソフィアはあの時の感覚を思い出してみる。

―――初めて

 ソフィアは初めてと言う行為をした。たとえそれが人々に仇なす存在の魔物であってもだ。

―――魔物を見たのも以来…でも自然と恐怖は湧いてこなかったよね…?

 ソフィアにとって魔物とは、命の危機を覚えさせられるまでに追い詰められた、危険な筈だろう。当然ソフィアもその時の恐怖は、身に染みている。
 だがこれは反射的な行動だろう。単に魔物に対する恐怖よりも、追い詰められている人を助けたいという気持ちが強かっただけだ。
 
 もうソフィアはではなく、に至るまでの強さを手に入れている。
 それがソフィアの自身にも繋がり、精神的にも強くしている要因だろう。

「よしっ!家に帰るとしますか!…父さんが待っているだろうし…」

 ソフィアは、外出時のダグラスの悲しそうな顔を思い浮かべて立ち上がった。
 その表情は苦い笑みを浮かべていた。


 ***


 ダグラスの別荘。帰宅したソフィアはそれを見た。




 今にでも泣きそうな顔をした、ダグラスが玄関前に座っている姿を…










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