37 / 44
第一章 数学の賢者
黒い蔦①
しおりを挟む
グラルはやはり自分の気持ちに踏ん切りがついていないのか、翌朝学院に向かう道中での表情もいつものような傲慢不遜を体現したものではなかった。
「はあ、どうしちまったんだろうな……俺は」
そんな日に限っていつも傍にいるはずのアイズはおらず、グラル一人での登院となっていた。
普段グラルとアイズが登院するとき、男子寮と女子寮から学院への道が丁度、同じ道になるところで落ち合っている。しかし、何故かアイズの姿がなかったのである。
「はあ……」
グラルの心境の変化に伴って、ため息の回数が多くなってしまうが、今のグラルにはどうすれば良いのか分からずにいた。
そして学院に到着すると既にシータが一人で席に座っており、グラルは教室のドアを閉める。
「え!? 何で閉めますのグラルさん!?」
グラルが黙ってドアを開けると、頬を膨らませたシータの顔があった。
──そして次第に生徒が集まっていく。
しかし不思議なことに、グラルはまだアイズの姿を見ていなかったのである。
「ホームルームを始めるぞ~って、あれ? グラビッドはどうした?」
「ファンク先生!! 大変です! このクラスの──」
ファンクの口調も真面目なものへと変わり、そこへドアを開けて中へ入ってきたのは、真剣な表情のカトル学院長だった。
※※※
アイズはこの日によりによって何時もよりも早い朝に寮を、出発して学院へと向かった。
おかしな話ではあるが、アイズは早い時間に登院することで、グラルと距離を空けようとしたのである。
「昨日の“あれ”は、一体誰が……?」
アイズのここで言う“あれ”とは決してグラルの表情などではなく、全く別のことであった。
──“【堕ちた勇者】、学院ごと破壊されたくなければ【賢者】との距離を空けろ”
昨日の時点でアイズの寮の自室には“手紙のようなもの”が送りつけられていたのである。
その内容は脅迫じみた──しかし、全く意図の読めない内容だった。
“学院ごと破壊”されたくなければ“グラルとの距離を空けろ”という脅迫にしてはその二つの事柄の繋がりが見えてこないものであり、共通点も見当すらつかないものであった。
さらに悪いことに、相手側は何故かグラルの称号である【賢者】の存在を知っているという非常に厄介なおまけ付きだった。
──これを無視できなかったアイズは距離を空ければ【勇者】としての力でなんとか出来ると踏んでいた。
しかしそんなものはただの幻想にすぎなかった。
「【堕ちた勇者】! 臆病なお前ならそのように行動すると読んでいたぞ……! くははははははははは!!」
──瞬間、アイズの意識が刈り取られる。
そして瞬く間に、声の主の足元から生え出した蔦がアイズの身体を頭から足まで包み込んでいた。
“それ”はまるで蚕の繭のように、隙間無くアイズの周囲を埋めつくしていたのである。
「あれ? ここは……?」
【物理学の勇者】こと、アイズが目を覚ました場所──視界に入ったものは見慣れた寮の自室の天井ではなく、黒一色に染まった蔦。
その蔦は一見影のようにも見えるが、影にしては妙に立体感がありそれが本物であることを証明している。
足を動かそうと藻掻くと、足に絡みついた“何か”が己の足を逆方向へ引っ張って足に痛みが走る。
「何……これ、っ……!?」
蔦が蠢いてアイズの顔の部分だけ露出させるとアイズの目の前にはフードの男が不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ようこそ! ワタシの世界へ!!」
そこにいた男は両手を広げて叫んだ。
その男の特徴──フードを被っているために素顔までは視認できないが、右手の平に五芒星を水面に写したような、歪な刺青のある男だということだけは辛うじてアイズにも確認できた。
「はあ、どうしちまったんだろうな……俺は」
そんな日に限っていつも傍にいるはずのアイズはおらず、グラル一人での登院となっていた。
普段グラルとアイズが登院するとき、男子寮と女子寮から学院への道が丁度、同じ道になるところで落ち合っている。しかし、何故かアイズの姿がなかったのである。
「はあ……」
グラルの心境の変化に伴って、ため息の回数が多くなってしまうが、今のグラルにはどうすれば良いのか分からずにいた。
そして学院に到着すると既にシータが一人で席に座っており、グラルは教室のドアを閉める。
「え!? 何で閉めますのグラルさん!?」
グラルが黙ってドアを開けると、頬を膨らませたシータの顔があった。
──そして次第に生徒が集まっていく。
しかし不思議なことに、グラルはまだアイズの姿を見ていなかったのである。
「ホームルームを始めるぞ~って、あれ? グラビッドはどうした?」
「ファンク先生!! 大変です! このクラスの──」
ファンクの口調も真面目なものへと変わり、そこへドアを開けて中へ入ってきたのは、真剣な表情のカトル学院長だった。
※※※
アイズはこの日によりによって何時もよりも早い朝に寮を、出発して学院へと向かった。
おかしな話ではあるが、アイズは早い時間に登院することで、グラルと距離を空けようとしたのである。
「昨日の“あれ”は、一体誰が……?」
アイズのここで言う“あれ”とは決してグラルの表情などではなく、全く別のことであった。
──“【堕ちた勇者】、学院ごと破壊されたくなければ【賢者】との距離を空けろ”
昨日の時点でアイズの寮の自室には“手紙のようなもの”が送りつけられていたのである。
その内容は脅迫じみた──しかし、全く意図の読めない内容だった。
“学院ごと破壊”されたくなければ“グラルとの距離を空けろ”という脅迫にしてはその二つの事柄の繋がりが見えてこないものであり、共通点も見当すらつかないものであった。
さらに悪いことに、相手側は何故かグラルの称号である【賢者】の存在を知っているという非常に厄介なおまけ付きだった。
──これを無視できなかったアイズは距離を空ければ【勇者】としての力でなんとか出来ると踏んでいた。
しかしそんなものはただの幻想にすぎなかった。
「【堕ちた勇者】! 臆病なお前ならそのように行動すると読んでいたぞ……! くははははははははは!!」
──瞬間、アイズの意識が刈り取られる。
そして瞬く間に、声の主の足元から生え出した蔦がアイズの身体を頭から足まで包み込んでいた。
“それ”はまるで蚕の繭のように、隙間無くアイズの周囲を埋めつくしていたのである。
「あれ? ここは……?」
【物理学の勇者】こと、アイズが目を覚ました場所──視界に入ったものは見慣れた寮の自室の天井ではなく、黒一色に染まった蔦。
その蔦は一見影のようにも見えるが、影にしては妙に立体感がありそれが本物であることを証明している。
足を動かそうと藻掻くと、足に絡みついた“何か”が己の足を逆方向へ引っ張って足に痛みが走る。
「何……これ、っ……!?」
蔦が蠢いてアイズの顔の部分だけ露出させるとアイズの目の前にはフードの男が不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ようこそ! ワタシの世界へ!!」
そこにいた男は両手を広げて叫んだ。
その男の特徴──フードを被っているために素顔までは視認できないが、右手の平に五芒星を水面に写したような、歪な刺青のある男だということだけは辛うじてアイズにも確認できた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる