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第一章 数学の賢者
歴史研究部①
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「あぁ~? 歴史研究部だぁ~?」
「はい、どこで活動しているのか教えてください」
「あ、ああ……。歴史研究部は会議室の方で活動してるぞ~」
「分かりました! ありがとうございます!!」
グラルは再びファンクの元を訪ねて歴史研究部の活動場所について聞いていた。
歴史研究部は会議室──学院の教室の中でも特に広い教室であった。
会議室の座席はカタカナの“コ”の文字状に配置されており、そのまた一段上にもう一列座席が並ぶといったような、二段に分かれて座席が配置されている。
そのため会議室は学院の最上階と一つ下の階をまたがって部屋は存在する。
「四階まで階段を登るのか……」
グラルは一度面倒臭そうな顔をしたが、この世界の歴史について知りたいことには変わりはなく、アイズと一緒に階段を登った。
この学院は五階建てであるため、会議室は一つ下の四階まで階段を登る必要があった。
階段はワンフロア登る度に一回折り返す造りなので、実質階段を登る回数で言えば六回だった。
──階段を登り、会議室の扉をノックする。
「すみません、誰かいませんか?」
グラルは普段のような品のない口調ではなく、状況が状況であるので丁寧な言葉を使っていた。
「はーい、ってもしかして新入生?」
会議室の扉が開き、中から出てきたのはこの世界ではあまり見かけない黒髪黒目の少女。
「はい」「は、はい……」
グラルとアイズが返事を返すと、歴史研究部に所属していると思われる少女は口元を綻ばせた。
(あれ、どんどん口が横に伸びてるぞ!?)
「ひっ!?」
──口元を綻ばせるどころか、そのまま口を横に引き伸ばして口の形がアルファベットの“U”の文字になった。
アイズはその少女の口が口裂け女の口に見えてしまい、軽く悲鳴をあげてしまった。
「あっ、ごめんごめん! 嬉しくなるとつい口が……こうなっちゃうんだよね~」
(こうなるってどうなるんだよ!? 怖ぇよ!?)
「おっと、私の名前をまだ言ってなかったわね……! 私はシャル、さあ入って入って!」
グラルの内心などお構いなしに黒髪の少女──シャルは自分の名前を名乗り、会議室の中へ入るよう催促した。
「「は、はあ……」」
アイズも戸惑っていたようで、二人は揃って会議室の中へと入っていった。
「やあやあ! よく来てくれたね!! 私はマレーネ、よろしく!」
会議室の中に入るとやたらとテンションの高い声が二人にかけられた。
しかも言葉が連続的に続くことに加えて、勝手に自己紹介をしていた。
(何でこんな人しかいねぇんだ!?)
グラルはまだ二人しか知らないが、歴史研究部の面子はオブラートに包んで“テンションの高い人”しかいないようで、色々と騒動に巻き込まれそうな予感がして顔を引き攣らせた。
「で、このクラブに入りたいのね?いいわ、入部届け出の書類は持ってる?」
「少し言葉と言葉の間に間を持たせてくれねぇか!?」
「ぐ、グラル……!?」
マレーネの早口に素の口調が出てしまうグラルとグラルの口調に失礼がないかとオロオロし始めるアイズ。
会議室の中では早口な者、失礼な者、オロオロしている者によって、場は完全に混沌を極めていたのである。
「部長、いくらなんでも新入生には聞きとれないと思いますけど? 僕たちは慣れているので構いませんが、それは新入生には酷なものだと思いますよ」
その次に現れたのはくすんだ茶色の髪と、琥珀色の瞳を持った男子生徒だった。
──その顔は呆れの表情一色であり、ため息をついていた。
「ああ、僕はカイといいます。よろしく」
表情に乏しい訳ではないようであるが、グラルは何故か“寡黙そうな人”だと認識していた。
「それじゃあ俺も先に自己紹介しておきます。俺はグラル、グラル・フォン・インテグラといいます。クラブ紹介で言っていた“五種類の学問”について興味があったので入部するつもりです。よろしくお願いします!」
「わ、私はアイズ・シン・グラビッドといいます。え、えっと……」
アイズはふと言葉に詰まる。
【魔に魅入られし者】という称号が消えたにせよ、一度ついた蔑称が消える訳でもなく、ましてや自身のトラウマが解消される訳でもなかった。
「別にいいわよ、私はそういうの気にしないから」
「えっ!?」
驚くことに、「気にしない」と言ったのは部長、つまりマレーネだった。
「はい、どこで活動しているのか教えてください」
「あ、ああ……。歴史研究部は会議室の方で活動してるぞ~」
「分かりました! ありがとうございます!!」
グラルは再びファンクの元を訪ねて歴史研究部の活動場所について聞いていた。
歴史研究部は会議室──学院の教室の中でも特に広い教室であった。
会議室の座席はカタカナの“コ”の文字状に配置されており、そのまた一段上にもう一列座席が並ぶといったような、二段に分かれて座席が配置されている。
そのため会議室は学院の最上階と一つ下の階をまたがって部屋は存在する。
「四階まで階段を登るのか……」
グラルは一度面倒臭そうな顔をしたが、この世界の歴史について知りたいことには変わりはなく、アイズと一緒に階段を登った。
この学院は五階建てであるため、会議室は一つ下の四階まで階段を登る必要があった。
階段はワンフロア登る度に一回折り返す造りなので、実質階段を登る回数で言えば六回だった。
──階段を登り、会議室の扉をノックする。
「すみません、誰かいませんか?」
グラルは普段のような品のない口調ではなく、状況が状況であるので丁寧な言葉を使っていた。
「はーい、ってもしかして新入生?」
会議室の扉が開き、中から出てきたのはこの世界ではあまり見かけない黒髪黒目の少女。
「はい」「は、はい……」
グラルとアイズが返事を返すと、歴史研究部に所属していると思われる少女は口元を綻ばせた。
(あれ、どんどん口が横に伸びてるぞ!?)
「ひっ!?」
──口元を綻ばせるどころか、そのまま口を横に引き伸ばして口の形がアルファベットの“U”の文字になった。
アイズはその少女の口が口裂け女の口に見えてしまい、軽く悲鳴をあげてしまった。
「あっ、ごめんごめん! 嬉しくなるとつい口が……こうなっちゃうんだよね~」
(こうなるってどうなるんだよ!? 怖ぇよ!?)
「おっと、私の名前をまだ言ってなかったわね……! 私はシャル、さあ入って入って!」
グラルの内心などお構いなしに黒髪の少女──シャルは自分の名前を名乗り、会議室の中へ入るよう催促した。
「「は、はあ……」」
アイズも戸惑っていたようで、二人は揃って会議室の中へと入っていった。
「やあやあ! よく来てくれたね!! 私はマレーネ、よろしく!」
会議室の中に入るとやたらとテンションの高い声が二人にかけられた。
しかも言葉が連続的に続くことに加えて、勝手に自己紹介をしていた。
(何でこんな人しかいねぇんだ!?)
グラルはまだ二人しか知らないが、歴史研究部の面子はオブラートに包んで“テンションの高い人”しかいないようで、色々と騒動に巻き込まれそうな予感がして顔を引き攣らせた。
「で、このクラブに入りたいのね?いいわ、入部届け出の書類は持ってる?」
「少し言葉と言葉の間に間を持たせてくれねぇか!?」
「ぐ、グラル……!?」
マレーネの早口に素の口調が出てしまうグラルとグラルの口調に失礼がないかとオロオロし始めるアイズ。
会議室の中では早口な者、失礼な者、オロオロしている者によって、場は完全に混沌を極めていたのである。
「部長、いくらなんでも新入生には聞きとれないと思いますけど? 僕たちは慣れているので構いませんが、それは新入生には酷なものだと思いますよ」
その次に現れたのはくすんだ茶色の髪と、琥珀色の瞳を持った男子生徒だった。
──その顔は呆れの表情一色であり、ため息をついていた。
「ああ、僕はカイといいます。よろしく」
表情に乏しい訳ではないようであるが、グラルは何故か“寡黙そうな人”だと認識していた。
「それじゃあ俺も先に自己紹介しておきます。俺はグラル、グラル・フォン・インテグラといいます。クラブ紹介で言っていた“五種類の学問”について興味があったので入部するつもりです。よろしくお願いします!」
「わ、私はアイズ・シン・グラビッドといいます。え、えっと……」
アイズはふと言葉に詰まる。
【魔に魅入られし者】という称号が消えたにせよ、一度ついた蔑称が消える訳でもなく、ましてや自身のトラウマが解消される訳でもなかった。
「別にいいわよ、私はそういうの気にしないから」
「えっ!?」
驚くことに、「気にしない」と言ったのは部長、つまりマレーネだった。
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