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第一章 数学の賢者

グラルの受難⑤

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「お前らみたいな貴族はそういった噂が好きなのかもしれないが、それは影でやるものであって本人に気づかれた時点でそれはいじめと同義なんだよ……!」

 グラルは声を荒げながら噂話をする生徒に学年関係なく怒鳴った。

「それに、もうアイズには例の称号はんだよ! だから侮蔑する方が間違いじゃねぇか!!」
「う、嘘だ! 称号が消せる訳がない!」

 噂話をする生徒の一人がそう言った。
 しかしグラルにとっては、そちらのほうが対応し易くもあった。

「んじゃあアイズ、“ステータス”を公開できるか?」
「うん、自分を証明するためなら……! 【ステータス】!!」

────────────────────


アイズ・シン・グラビッド─Lv22


HP:1346/1346

MP:4895/4895

SP:521/521


称号:【勇者】【グラビッド子爵家次女】【転生者】【物理学の探求者】【物理学を極めし者】


固有魔法:【加重魔法】


使用可能魔法:【加重魔法】【火属性初級魔法】【光属性初級魔法】【風属性初級魔法】【火属性魔法】【光属性魔法】【風属性魔法】


────────────────────

 アイズのステータスが公開される。
 するとカフェテリア全体にどよめきが巻き起こった。

「な、何!?」
「あの称号が、ない……」
「一体どうやって……!」

 三者三様の反応を見せる中、一人だけ納得がいかず、異議を唱える者がいた。その生徒は値の張りそうな腕輪をつけており、態度からして貴族であると推測できた。

「【転生者】という称号が何なのかは分からないが、その称号が“あれ”の偽装をしているに違いない!」

 グラルとアイズはある意味、核心に迫っている発言にどきりと動揺した様子を見せるがグラルは「“転生”という言葉の意味が伝わっていない」ということに違和感を覚えた。
 周りを見渡しても、きょとんとしている者しかおらず、それが伝わっていないことの裏付けにもなっていた。

(惜しいな。だが、おかしい……。もしかしたら転生という概念がこの世界にはないのか……?)

 グラルの父親、ディクスには違う世界云々も伝えたので理解してもらうことが出来たが、その話さえグラルがしていなければ伝わらなかったのかもしれない。

「違ぇよ。偽装なんてこれっぽっちもねぇ。そこまでして嘲笑いたいなら、俺はお前にを申し込んでやるよ」

 グラルの驚くような発言に静寂の対極、喧騒に包まれた。
 なぜならば、決闘は一つだけ“ものを賭ける”ことが前提条件であり、勝者がそれらを得ることができる。
 このように定められており、賭けるものがなければ決闘は成立しないのだ。

「お前が賭けるものによるな」
「ああ、俺が賭けるものは“これ”にする」

 そう言って懐から取り出したものはグラルの愛用している短剣、幸運を招く短剣ラックインバイター

「これは使用者の運気を上昇させてくれる短剣なんだが、これで“賭け”になるんじゃねぇか?」

 一目でその短剣の価値を見抜いた生徒は唇を醜く歪めて応えた。
──遠くから「ああっ!?」というようなシータの心の叫びのようなものがグラルの耳を通り過ぎるが、グラルはそれを無視して相手の反応を待った。

「ふん、いいだろう。俺が賭けるものは“堂々と侮蔑する権利”だ」

 「貴族というものは周りを下に見なければ気が済まないのか」とグラルは呆れたような目を向けた。

「それじゃあ決闘成立だ。俺とお前のどっちでもいいが、どっちが申請をしにいくか?」
「お前が行け。お前に後から難癖つけられても困るからな」
「そっちこそ後から文句言うんじゃねぇぞ?」

 そう言うとすぐにグラルは決闘の申請のため、職員室へと向かったのだ。



※※※



「お前はなんでそんなに面倒事ばかり持ってくるんだぁ~?」

 グラルが職員室で頼んだ相手は怠そうな口調が全てを台無しにしてしまっているファンク先生であった。

「え、前にもそんなことありましたか?」

 この時ばかりはグラルも敬語を使っている。
 グラルの質問にファンクは頭を掻きながら言った。

「入学試験の“アレ”、お前の担任になってからどれだけあれこれ言われたと思ってんだぁ~!?」

 入学試験の“アレ”とは勿論、グラルが【部分積分】で試験官の教師と施設内を破壊したことである。
 グラルは「そういえばそんなこともあったな」と思い出したような顔をしたが、その顔を見てファンクの眉間に皺が寄るが、諦めたようにため息をついた。

「それじゃあ申請しておくぞ~日時は今日の放課後……授業が終わってからだ」
「分かりました。ありがとうございます、ファンク先生」

 最後まで敬語のまま、グラルはファンクに一礼して職員室を出ていった。



「申請してきたぞ。日時は今日の放課後、授業の後だそうだ」

 グラルは対戦相手、トラインという名前の生徒にそう告げた。

「ふん、それを賭けたことを後悔させてやる!」

 トラインはその一言だけ言うと、カフェテリアを去った。
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