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第一章 数学の賢者

グラルの学院生活②

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「まあ、理解しているならいいんだが……」

 グラルはそう言うと、この教室にシータただ一人しかいないことについて尋ねた。

「そういや、なんでお前一人しかいないんだ?」
「うぐっ……! そ、そんなの決まってますわ! 友達をつくるために決まってますのっ!!」

 シータの言葉にグラルは同情を禁じ得なかった。
 つい最近になって人と関わることの楽しさと大切さに気づいたグラルであったからだ。

 そんな目に見えないはずのグラルの心情にシータは怒った様子を見せた。

「言われなくても分かってますわよ! と、友達がいないことぐらい……!」

 自分の言葉に悲しくなってきたのか、シータはとうとう沈黙してしまった。

「なあ、シータ……魔法のことを追及しないなら友達になってやってもいいぞ?」
「!? な、な、な……年上の私に上から目線なのがむかつきますわっ!! でも……」

 満更でもなかったのかシータは深く思考を巡らせ始めた。

──“いやでも、もし私のお金目当てだとしたら……!”

──“でも、友達、トモダチ……ともだち……!”

 シータは一回だけ頭を頷かせると、グラルに「あること」を尋ねたのだった。

「一応聞いておきますわ! あくまでも一応!!」
「何だ……?」
「それは私のお金目当てではありませんわよね!?」

「「は、はあ……?」」

 グラルとその傍らにいたアイズまでもが「何を言っているのか分からない」といった表情で反応した。

「だ、だって……私の友達は“私たちって友達だよね?”と言われてでご飯を食べにいくのですよ!? ……グラルさんもその口でしょう!?」
「お、お前……大丈夫か? 金銭ぐらい自分で管理すればいいじゃねぇか!! そんなもん、断れよ!?」

──正論だった。

 普通に断ればいいだけの話であるはずなのにシータはご飯を奢ってしまった。
 そしてそれが更なる連鎖を呼んで“都合の良い”友達という扱いになってしまった。

──ただそれだけのことだった。

「わ、私だって嬉しかったのですわ!」
「いや、だからそれが“都合の良い”友達扱いされてる原因なんだよ……! 俺だって元々は友達にすら興味がなくて、友達の大切さに気がついたのも最近のことだしな! だから少しは共感できる。だから友達になってやるよ」
「ぐ、グラル……そこは素直に頼めばいいのに……ププッ……」

 必死に口元を押さえて笑いをこらえるアイズを見てグラルは今度こそ、普通に頼むことにした。

「シータ、俺と友達になってくれ」

 こうしてグラルとシータの因縁もなく、ただ普通の友達として二人は接することになるのだった。



※※※



 三十分程が経過して他の新入生たちもクラスに来始めた頃、新入生の挨拶でグラルが語った“数学”について話を聞きたいという者が後を絶たず、「数がいつ死を迎えるかを示す」というグラルの発言の詳細を聞くためにグラルの席の周りは他の生徒で埋め尽くされていた。

 シータは多少嫉妬したような表情を見せて、アイズは苦笑いをしていた。

「まあ、そろそろ先生が来る頃だろうしな……後で話そうぜ……?」

 ドアのほうを見れば、丁度先生がドアを開けていた。

「席に座れぇ~お前らぁ~」

 気怠そうな口調で長身の男性が教室に入ると、男女問わず言葉を失った。

「ん? どうかしたかぁ~?」

 その男はスラリと伸びた手足に白めの肌、それと短く切り揃えられた褐色の髪が特徴的だった。

 容姿もそれなりに整っていたため、皆の関心の的となったのである。

「俺の名前はファンク……聞いての通り平民だが、それなりの実力でここにいるからなぁ~態度には気をつけろよ」

 最後の部分だけファンクは少し強めに言って、平民という言葉で態度が変わった一部の貴族出身の生徒たちを威圧した。

「「「は、はい……」」」

 グラルたちにとっては別に大した事でもなく気にしていなかっのだが、大半の貴族出身の生徒はそうでもない。

 寧ろ見下す者の数のほうが多く、ロンバルド王立総合学院の入学については完全実力制のため裏口入学というものも存在せず、“自分を跳び越えて入学した平民”を妬んだりする者も当然のようにいるくらいなのだ。

「まあ、取り敢えずよろしくなぁ~」

 ファンクはまたしても気怠そうな口調で言ったのだった。
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