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第一章 数学の賢者

グラル、学院に入学する⑨

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 数日後にグラルの元へ正式に合格通知を知らせる書面が届いた。

「まさか首席になるとは思ってもいなかったんだがな……! 【堕ちた勇者】がアイズのことならアイズにも首席となる可能性は大いにあったはずだしな。【堕ちた勇者】は何で“堕ちた”んだろうな……?」

 学生寮で新入生の挨拶を考えながらも、グラルは頭のどこかで未だに解消しない謎、【堕ちた勇者】についての謎がぐるぐると回っていた。
 仮に【堕ちた勇者】の名前がアイズではないにしても、敬称をつけて名前が呼ばれていれば【堕ちた勇者】が誰なのかも予想がついていたかもしれなかった。

「解決するはずもないのにな」

 そう独りごつとグラルは脳内を回り続けるモヤモヤを放置してひたすら挨拶を考え続けた。



※※※



 そしてグラルの挨拶で最初を飾られることとなる入学式が訪れた。
 グラルを含め、支給された制服に袖を通して皆一同にこれからへの期待に目を輝かせている。

 制服は白のワイシャツ、深緑のブレザーに加えて男子ならば黒のズボンであり、女子ならばグレーと緑のチェック柄のスカートを穿いている。
 中には少しだけ着崩している者もいなくはなかったが、しっかりと規律を守る者のほうが多かった。

「俺は確か……ステージの裏に回るんだったな」

 グラルは新入生の挨拶のため、他の新入生とは違ってホール内の席に座るのではなく、ステージの裏で待機することになっているのである。

「グラル、まずはようこそロンバルド王立総合学院へ! と言うべきなのかな?」

 グラルがステージの裏側へ向かうとグラルの目の前には──白髪混じりでありながら、それでもその若さが垣間見える溌剌とした表情。
 それとまだ濁り始めていない綺麗な緑色の瞳を持った男がいた。白の値が張りそうなローブを羽織り、フードは下ろしていた。

「グラル・フォン・インテグラです。初めまして、カトル

 目の前のカトル学院長は他の人には見られない特徴的な長い耳を持つ種族──エルフだった。
 グラルは初めて見るその長い耳を凝視してしまい、慌てて視線をカトルの目に合わせた。

「別に構わないよ……? 初対面の人は皆、僕の耳を見てしまうからね。流石にもう慣れたよ。改めて僕はカトル・シン・デカルト。まあ、ここ数十年はここの学院長をやっているよ」
「はい。こちらも改めてグラル・フォン・インテグラです。今日はよろしくお願いします」

 グラル一也は普段は傲慢不遜な態度や口調が目立つが、敬語を使うときはかなり気を使っている。
 だからなのか、グラル一也前世のように敬語をきっちりと使っていた。

「なるほど、稀代の満点獲得者だから性格も天狗になっているのかと思ったけど、そのような事は無いみたいだ……」

 勿論その言葉遣いはカトルに好印象を与えていた。

「それじゃあそろそろ新入生代表の挨拶を頼めるかな?」
「はい。分かりました!」

 グラルが自信を持って答えると、カトルは満足そうに頷いてグラルの元を離れていった。

「さて、俺も準備しねぇとな……!」

 グラルは新入生の挨拶として“数学を布教する”ためにも、何かしらの魔法でサプライズを行いたいと考えていた。
 例えば魔法で形づくった三角形をで正二十面体をつくってみせる、などである。

 図形的な形で数学に興味を持ってくれれば、とグラルは考えたのである。

「そのためには──」

 グラルの持つ称号には【賢者】というものがあるが、なんと【賢者】の称号には六つの基本属性エレメントの魔法を全て使うことが出来るものであったのだ。

 そこでグラルが選択したものは水属性だった。

「これより入学式を始めます。まずは新入生代表、グラル・フォン・インテグラ君! お願いします!!」

「はい……! ご紹介にあがりました、僕の名前はグラル・フォン・インテグラといいます。まず最初に……僕はこの学院で“数学”という学問を広めたいと思っています! そのためには魔法を極めること、たくさんの教養を身につけること、そして健康的な生活を送ることを怠らず……精進を続けようと思います! さて、話は変わりますが、筆記試験の最後の問題、問20は皆さん解けましたか? あの問題も言ってみれば数学の一つです! 数学とは数を突き詰める学問であり、数はいつ自分が死を迎えるかなどの、とても重要な事も示すことが出来ます! だから──僕はこの場所で、この場所から、数学を広めていきたいと思います! 皆さんも一緒に精進していきましょう!! ご清聴ありがとうございました」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 グラルが最後に水属性魔法で正二十面体をつくってそれを霧散させると同時に大きな歓声があがった。
 最初は“数学”という聞き慣れない言葉に首を傾げた者も皆揃ってグラルの説明で「数学について知りたい!」という欲求で満たされたのである。

 こうしてグラルの挨拶は終始一貫、真面目な口調で終わったのだった。
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