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大将 エリオット
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日が落ちる前の未だ閑散としている酒場の一つに、大きな影がスルリと入り込んできた。巨体のわりに俊敏な動きで入り口近くの椅子にどかっと座り込み、大きな身体を机に投げ出した。
騎士団の制服は破れなどは無いが、本人同様どこもかしこも薄汚れている。エリオットも、先に汗を流し見綺麗にして落ち着きたかったのだが、酒を先ずは一杯飲みたかったのだ。
「ああ~ 疲れた~~ 何でも良いから、一杯だけ入れてくれ!!!!」
「あらまあ? いつも陽気な熊の大将が一体どうしたのかしら? かなりくたびれてるわね?」
「女将。まあ、疲れが癒える酒でも入れてあげてよ」
「軍師君いらっしゃい。お久しぶりねぇお相手が出来たらお店にも来なくなったわね。でも幸せそうでなによりだわぁ~ 大将すぐ持ってくるわね。軍師君は飲む?」
「軽いの頂戴」
「わかったわ」
女将が奥に消えると、ディランはエリオットの向かいに座った。
「スッゲー疲れてんね。そんなに大変だったの?行ってから二日経ったよね。三班も皆、窶れてたから気になってさぁ」
「ああーーー 疲れたと言うか、気持ち的にな……巨大生物の食事中を眺めて其奴が息絶えるところまで見てるとな。此奴は一体何のために生まれて来たのか不思議で……不憫になってな。皆、声には出さなかったが、同じ様なことを考えてたんじゃ無いのか」
「ああ……そう言うことか」
「まあ、俺は一杯だけ飲んだら帰るけどな。アイツが心配してるかもしれないからな」
「リオン君だったっけ?」
「そうだ。家に来て、もうそろそろ半年か、だいぶん落ち着いたよ」
「確か……中世的な感じの可愛い子だったよね。大将の甥っ子とは思えないね」
「甥っ子……では無いな」
「えっ? 妹さん夫婦の忘形見でしょ」
「言ってなかったか? 血は繋がってないんだよ。あいつら夫婦はなかなか子供に恵まれなくてな、そんな時あいつらの友人夫妻が事故で亡くなって、身寄りが無かった赤ちゃんだったリオンを妹達が我が子にして引き取ったって話だよ」
「マジか! じゃあ血が繋がってないの?」
「無いな」
驚きのあまり一時停止したディランの前に、グリーンの爽やかな見た目のお酒が静かに置かれた。エリオットには黒色の大きめなグラスに入ったお酒が来た。二人はそれぞれ手に取り乾杯して、喉を潤した。
「うめぇ~ やっぱり女将のとこのお酒は一味違うよね。何でだろう」
「そうだな。何の酒かはわかんねえが美味い」
「あらまあ嬉しいお言葉ね。だったら頻繁にお二人共来て下さいな。最近騎士団の方々お見かけしないから寂しいわ」
女将は、スタイル良く見た目も良く頭も良く言う事なしのいい女なんだが、何処となく何かがある女なんだと、察しの良い獣人は何か感じるらしい。
ディランとエリオットも薄々感じては居るが、なにせ酒が美味いから偶に吸い寄せられる様に、来てしまうみたいだ。疲れている時は尚更美味い酒を一杯だけでも飲んで帰りたいと思うのは、仕方のない事だ。
「あら? お二人共もう無くなってしまったわね。もう一杯如何? オススメの是非呑んでいただきたいお酒がありますのよ」
「飲みたいけど、待ってる人居るから帰るよ」
「俺も、疲れたから今日はもう寝るわ」
「ええーーーっ寂しいわぁこんな時間から寝てしまうのぉ私の側にいて欲しいのにぃー」
「あーすまない。二人分置いとくから又な」
しな垂れかかってくる女将をさり気なく避けて、ポケットから二人分の料金を出し机に置き。エリオットは椅子から立ち上がり店の外へ。その後をディランも追う。
「大将ゴチです」
「ああ」
二人は、飲酒した後だとは微塵も感じさせない足取りで、夕方騒めく繁華街から住宅地へ歩き出した。
「そーいやぁさぁ大将未だ知らないでしょう。サミュエルがね、番見つけてね。それも人魚だったんだよぉーーー
あのサミュエルが、ラブラブ甘々で凄いんだからぁ! ビックリだよ。んでね、ノアがね……御祝いで海の側の家を買うから金出せって。結構俺、徴収されちゃった。きっと大将の所にも来るから、心しときなよ。給料から計算して、妥当なお金取ってるからってノア言うけどさぁキツイよぉ~」
「そうか……サミュエルに番が見つかったか……良かったな。でも人魚とは……大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。そこんとこはね、ノアが付いてるからさぁ。自然と人魚ってそこまで貴重な存在では無くてぇ珍しい魚を引き寄せてくれるんだよって感じになってるんだ。
現に最近、漁業関係潤ってるみたいでさ、美味しいお魚近場で沢山取れるんだって皆んなニコニコなんだよね」
「そうか……なら良いが」
「大丈夫だって、騎士団の副団長がお相手なんだよ。誰も手出ししないよ」
「そうだな。じゃあ俺はこっちだからディラン又な! 俺は一週間休みだから! お休み」
「えー!!一週間休みってなんでだよー」
叫ぶディランを残し、エリオットはほんのり優しい風を感じ家路を急いだ。
騎士団の制服は破れなどは無いが、本人同様どこもかしこも薄汚れている。エリオットも、先に汗を流し見綺麗にして落ち着きたかったのだが、酒を先ずは一杯飲みたかったのだ。
「ああ~ 疲れた~~ 何でも良いから、一杯だけ入れてくれ!!!!」
「あらまあ? いつも陽気な熊の大将が一体どうしたのかしら? かなりくたびれてるわね?」
「女将。まあ、疲れが癒える酒でも入れてあげてよ」
「軍師君いらっしゃい。お久しぶりねぇお相手が出来たらお店にも来なくなったわね。でも幸せそうでなによりだわぁ~ 大将すぐ持ってくるわね。軍師君は飲む?」
「軽いの頂戴」
「わかったわ」
女将が奥に消えると、ディランはエリオットの向かいに座った。
「スッゲー疲れてんね。そんなに大変だったの?行ってから二日経ったよね。三班も皆、窶れてたから気になってさぁ」
「ああーーー 疲れたと言うか、気持ち的にな……巨大生物の食事中を眺めて其奴が息絶えるところまで見てるとな。此奴は一体何のために生まれて来たのか不思議で……不憫になってな。皆、声には出さなかったが、同じ様なことを考えてたんじゃ無いのか」
「ああ……そう言うことか」
「まあ、俺は一杯だけ飲んだら帰るけどな。アイツが心配してるかもしれないからな」
「リオン君だったっけ?」
「そうだ。家に来て、もうそろそろ半年か、だいぶん落ち着いたよ」
「確か……中世的な感じの可愛い子だったよね。大将の甥っ子とは思えないね」
「甥っ子……では無いな」
「えっ? 妹さん夫婦の忘形見でしょ」
「言ってなかったか? 血は繋がってないんだよ。あいつら夫婦はなかなか子供に恵まれなくてな、そんな時あいつらの友人夫妻が事故で亡くなって、身寄りが無かった赤ちゃんだったリオンを妹達が我が子にして引き取ったって話だよ」
「マジか! じゃあ血が繋がってないの?」
「無いな」
驚きのあまり一時停止したディランの前に、グリーンの爽やかな見た目のお酒が静かに置かれた。エリオットには黒色の大きめなグラスに入ったお酒が来た。二人はそれぞれ手に取り乾杯して、喉を潤した。
「うめぇ~ やっぱり女将のとこのお酒は一味違うよね。何でだろう」
「そうだな。何の酒かはわかんねえが美味い」
「あらまあ嬉しいお言葉ね。だったら頻繁にお二人共来て下さいな。最近騎士団の方々お見かけしないから寂しいわ」
女将は、スタイル良く見た目も良く頭も良く言う事なしのいい女なんだが、何処となく何かがある女なんだと、察しの良い獣人は何か感じるらしい。
ディランとエリオットも薄々感じては居るが、なにせ酒が美味いから偶に吸い寄せられる様に、来てしまうみたいだ。疲れている時は尚更美味い酒を一杯だけでも飲んで帰りたいと思うのは、仕方のない事だ。
「あら? お二人共もう無くなってしまったわね。もう一杯如何? オススメの是非呑んでいただきたいお酒がありますのよ」
「飲みたいけど、待ってる人居るから帰るよ」
「俺も、疲れたから今日はもう寝るわ」
「ええーーーっ寂しいわぁこんな時間から寝てしまうのぉ私の側にいて欲しいのにぃー」
「あーすまない。二人分置いとくから又な」
しな垂れかかってくる女将をさり気なく避けて、ポケットから二人分の料金を出し机に置き。エリオットは椅子から立ち上がり店の外へ。その後をディランも追う。
「大将ゴチです」
「ああ」
二人は、飲酒した後だとは微塵も感じさせない足取りで、夕方騒めく繁華街から住宅地へ歩き出した。
「そーいやぁさぁ大将未だ知らないでしょう。サミュエルがね、番見つけてね。それも人魚だったんだよぉーーー
あのサミュエルが、ラブラブ甘々で凄いんだからぁ! ビックリだよ。んでね、ノアがね……御祝いで海の側の家を買うから金出せって。結構俺、徴収されちゃった。きっと大将の所にも来るから、心しときなよ。給料から計算して、妥当なお金取ってるからってノア言うけどさぁキツイよぉ~」
「そうか……サミュエルに番が見つかったか……良かったな。でも人魚とは……大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。そこんとこはね、ノアが付いてるからさぁ。自然と人魚ってそこまで貴重な存在では無くてぇ珍しい魚を引き寄せてくれるんだよって感じになってるんだ。
現に最近、漁業関係潤ってるみたいでさ、美味しいお魚近場で沢山取れるんだって皆んなニコニコなんだよね」
「そうか……なら良いが」
「大丈夫だって、騎士団の副団長がお相手なんだよ。誰も手出ししないよ」
「そうだな。じゃあ俺はこっちだからディラン又な! 俺は一週間休みだから! お休み」
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