上 下
3 / 62

戦闘開始

しおりを挟む
辺境伯領地を出発して一週間。

 王都と辺境伯領地の丁度半分程来たところで、馬車が荒々しく止まった。


「お兄様……何かあったのでしょうか?」

「変な止まり方だったが、何かあれば護衛が何か伝えて来るだろう」


,,トントン,,
扉を護衛が叩き、声が聞こえた。


「アルベルト様、先方に何か怪しい気配があるそうです。大群ではなく、最近増えている小規模な盗賊みたいなのですが如何致しますか?」

「私達は勇敢な辺境の民だぞ捕らえよう。確か王宮の情報だとここら辺りの領地経営が不況状態の為、領民の一部が盗賊になり、襲っていると言う事を聞いたが…….これか」

「お兄様私も!」


兄妹で目線を合わせ頷き合い。


「「よし! 行こう」」

「皆に伝令せよ」

「はっ」


護衛は足早に皆に伝えに行き、アルベルトも馬車から滑る様に出て行った。残されたラティラは、側にある袋から服を出し素早く着替えていた。

 外では刃を重ねる音が響いている。ラティラも馬車から走り出て、皆の方へ走り出した。

 見ると、アルベルトへ盗賊が弓を構えていた! 急いでラティラは弓を射る! 見事腕に命中し、その者はもんどりうって叫んでいた。

 ラティラはその場から矢が無くなるまで、狙って皆の援護をした。矢が無くなると、レイピアを操り闘いの中に入っていった。

 アルベルトはロングソードを持ち、素早く反応し、躊躇なく切り捨てていく。護衛達も其々の武器を持ち、切り捨てて行く。

 この時、躊躇うと命は直ぐに無くなる事を知っているから……たとえ以前は領民であったとしても容赦はしない。

 綺麗な闘いでは無い。そんなもの命の取り合いで出来る訳は無いのだ。お互い必死で殺し合うのだから。

 幾ら力量が違うと言う事が、一目瞭然であっても、油断は出来ない。

…立てなくなるまで倒すだけだ……

 先が見え始め、盗賊全て捕らえられたと思ったら、先の方向から多数の騎馬が駆けてきた。アルベルト達に緊張が走ったが、近づくと騎士団だと分かり各自のやるべき事を続けた。

 生きてる者を縄で縛り、命の無い者は丁寧に扱い、一つの場所に纏めてた。

 騎士団が到着した。先頭の馬から1人の騎士が降りて話しかけてきた。


「王都の騎士団です。私は副団長のジェフリーと申します、貴方達は?」


アルベルトから見た第一印象は、パッと見た目軽薄そうだった。けれどもこれぐらいで無いと、今の騎士団長の下では難しいのだろうなと感じていた。騎士団長を少し知る者としては、このチャラそうな男に、不憫そうな目線を密かにアルベルトは送った。


「私は辺境伯家、長男アルベルトです。今は王都へ行く途中です」


「私共騎士団はこの辺りの盗賊を、淘汰しに来た者です。貴方達に怪我人等は、居ませんか?」


ジェフリーは辺境伯領地の者達を見渡した。その中に銀髪を高くポニーテールにして、女性にあるまじき姿の者を見た!?


「皆どうだ?ラティラは傷は無いか?」

「はいお兄様、大丈夫です」


笑顔で答えてはいるが、明らかに返り血を浴びたであろう、身体にフィトした赤と黒の衣服からは血の匂いがしていた。お兄様との答えで騎士団からは、微かなどよめきが起こっていた。

後を、騎士団達に任せて、近くにあると言う旅宿を、ジェフリーが案内してくれることになった。流石に殆どの者が返り血を浴びてる状態は、良くは無いからだ。

 軽く顔を拭い服をサッと着替えた一同は、旅宿へ出発した。

 皆は興奮した様子も無く、ただただ普通の様なのを、前方で騎乗して先導していたジェフリーは……


「流石だなぁ~ 辺境伯領地を護る護衛や、その護られるであろう時期辺境伯と令嬢迄が、あの戦闘の後こうも普通にできるとは……

 誰一人興奮したり勢いづいたり、しなくて普通に冷静に行動をしている。そうゆう事が一番出来ないんだよ。そして、大事なんだよね。

 辺境伯領地の傭兵軍は王都とは別の組織だから噂しか聞いた事が無いが、一度手合わせしたいなぁ~」




それからしばらくの間静かに進み。


「あっお兄様止まりましたわ。着いたのでしょうか?」

「風呂に入りたいのは分かるが、落ち着きなさい」

「はいお兄様」


,,トントン,,
扉が叩かれた。


「はい」

「着きましたので外へどーぞ」


副団長のジェフリーが扉を開けて、ラティラに手を差し出しエスコートして旅宿に入って行った。


「まぁとても良い旅宿ですね。落ち着いて居ますわ」

「そうだね。こんな所にあったのなんて知らなかったよ」


兄妹の会話にジェフリーが答えた。


「此処は少し隠れた旅宿なんです。今は王都の者は少人数しか知りませんが、これから噂になると予約も取れなくなるかもしれませんよ。

 此処には温泉があるんですよ、傷や肌荒れにとても良い水質らしいですので早速入っては? 女性の美肌効果もありますよ。荷物等は私達が部屋迄持って行きますから」

「それではお願いしようかな」


アルベルトは、目で合図して1人だけ荷物の仕分け等で残し、他の者は温泉へと向かう。男女別の様で別々に案内され皆、とても気持ちの良いゆったりとした湯に浸かる事が出来た。


「あー 生き返るぅ~ すっごく気持ちいいわぁこれぇ~」


女風呂は1人なので、ゆっくり入れてとても良い。外の露天風呂に出ると横では兄達が騒いでいた、それはそれで楽しそうだ。ラティラがゆったり満喫していると。



,,ガサゴソゴソガサゴソゴソ…,,

横の茂みから音が聞こえる?動物?何だろう。ラティラは不思議で立ち上がり覗き込んだ。


「??????」


,,バサッ,,

男が居た……時が止まりお互い全身を見合わし………


「ギャァ~~~~~~」
「うわぁー」

,,ジャバ~ン,,

「おにいさまぁ~おにいさまぁ~」


叫びながらラティラは一枚の小さな布で出来るだけ身体を隠しお湯の中に入った。


「何があった? ラティラ? 大丈夫か?」

「すまない、すまない! 今日は騎士団専用と聞いていたんだ。近道通って温泉に行こうと思ったんだが。まさか女が居るとは! 悪かった」


頭を下げて謝る男に。


「でていけぇー」
「すまない」


男は飛び上がる様にして来た道を帰って行った。男湯からアルベルトが心配そうに。


「ラティラ? 大丈夫か? そちらに行こうか?」

「もう大丈夫です。変な男が迷い込んだだけみたいです」


ラティラは内心ドキドキしていたのだが、声は落ち着いた様子で返した。


「わかったよ、外に出たら話を聞かせてくれ」

「はい」






,,パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ,,
お湯を叩きながらだんだん激しく叩き、止め.……真っ赤な顔で……


「何なのあれ? 全身バッチリ見られたんだけど! どうしょう! みられたぁ~ 誰にも見せた事無いのに」


ドキドキしたり落ち込んだり最悪の初、温泉だった。

 ラティラが、外に出るとすぐ近くの場所で、さっきの男が正座して座っており。横にアルベルトが、ペシペシ何かの棒を、自身の片手の掌で軽く叩きながら立って文句を言っている。


「????????知り合い?」


側では、端の方でジェフリーが腹を抱えて爆笑している?


「お兄様何? お知り合いですか?」


「あー 腐れ縁というか……幼少時からなにかと縁があり。今は、王宮で騎士団を纏めている男だよ」


「騎士団を纏める? 騎士団長? この男が? うーん? 落ち着いて見ると身体付きも良いし、動けそうだわ頭も悪くなさそうだし。ふーん。一回手合わせしてみたいわね?」


「ラティラ口から出てるよ。淑女だろ」


アルベルトから小言がはいり。


「あら? ごめんなさいお兄様。私としたことが、はしたないわね失礼致しました」


風呂上がりなので簡単なワンピースの裾を両手で持ち、カーテシーをして誤魔化した。


「でもお兄様この方が何故女湯に?騎士団専用とか言ってましたが、騎士団にも女の方はいらっしゃいますよね?」


「それが今回は男ばかりだったので、安心していたみたいです。うちの団長が申し訳ありません」


さっき迄、笑い転げていたジェフリーが、ラティラに申し訳なさそうに誤っていた。


「お前が言えよ!ラインハルト」


アルベルトからの突っ込みに。


「すまなかった。知らぬ事とはいえ君の全身を見てしまった。申し訳無い」


頭を下げるラインハルトに……容赦の無い回し蹴りが炸裂され、流石のラインハルトも2、3歩よろけ膝をついた…


周りからは騎士団の唖然とした空気と、傭兵達からはやんややんやの喝采を浴びて、ラティラは無言でズンズン歩いて去って行った。


「バカだろお前…」


アルベルトの冷ややかな声が広間に響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇女は世界を謳歌する

らら
恋愛
「婚約を破棄する!さぁあ!城から出ていけ!」 いや、国外追放でもいいんですけどね?まぁあ、有り難くその言葉頂戴致しますよ。でも、その前に私には任務がありますの。それをぱっぱと片付けてしまいましょう。 そして、私は昔からの夢だった冒険者なった!だが、悪魔と呼ばれる男の人と冒険することになって… 色んな人たちに出会いながら本当の幸せを見つける恋愛ストーリー ☆=主人公以外の目線で書かれています

完・前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方たちの愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

恋愛
 聖女として国にこきつかわれ、お飾り妻として王子の婚約者になったところで毒殺された。  心残りは拾って育てていた幼い弟子。  そして、すぐに生まれ変わったシルフィアは聖女になるのを避けるため魔力0の無能令嬢を演じていた。  実家では義理の母と妹に使用人同然の扱いを受けているが、前世より自由がある生活。新しい趣味を見つけ、その道に邁進する日々。  しかし、義妹によって無理やり社交界に出席させられたことで、その日々は崩れる。 「王城の壁になれば他の殿方や騎士の方々が愛を育む様子を見守ることが……そうとなれば、王城の壁になる魔法を開発しなければ!」  目の当たりにした王城での腐の世界(注:勘違い)から、王城の壁となるため大魔導師となった前世の弟子との偽装婚約(勘違い)を頑張るのだが…… 小説家になろう・Noraノベルにも投稿中

絶対に婚約解消していただきます、もう我慢の限界なので

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリリムは公爵令息であるトーマスと婚約していたが、彼の浮気癖に辟易しており 婚約解消をして欲しいと申し出た。 トーマスは手のひらを返したように、愛しているのはリリムだけだと言って来るが これで何度目か分からない……。 まったく信用していないリリムは今回ばかりは許す気がなく屋敷を飛び出した。 それでも執拗に迫って来るトーマス……二人の関係性の行方や如何に?

【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。

稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」 兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。 「取引……ですか?」 「ああ、私と結婚してほしい」 私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか…… ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。  * * * * * * * * * * * *  青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。 最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。 リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。 ※ゆる〜い設定です。 ※完結保証。 ※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。

【完結】巻き戻してとお願いしたつもりだったのに、転生?そんなの頼んでないのですが

金峯蓮華
恋愛
 神様! こき使うばかりで私にご褒美はないの! 私、色々がんばったのに、こんな仕打ちはないんじゃない?   生き返らせなさいよ! 奇跡とやらを起こしなさいよ! 神様! 聞いているの?  成り行きで仕方なく女王になり、殺されてしまったエデルガルトは神に時戻し望んだが、何故か弟の娘に生まれ変わってしまった。    しかもエデルガルトとしての記憶を持ったまま。自分の死後、国王になった頼りない弟を見てイライラがつのるエデルガルト。今度は女王ではなく、普通の幸せを手に入れることができるのか? 独自の世界観のご都合主義の緩いお話です。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...