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一年生

3章 初めてのテスト

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「おはよ」
「おはようございます」
今日も私は瀬田先生と登校だ。
「そういや、不宮」
「なんです?」
「再来週に体育祭あるけど、何出るか決めとんの?」
「えっと…私、運動苦手なので玉入れです」
「へぇ…色はなんやっけ?」
「青です」
「お、同じや」
え、ガチ!?
「先生はなんの競技にでるんですか?」
「僕は借り物競走にでる」
「へぇ…楽しそう」
「毎年くじ引きだからあたった」
楽しみだな。漫画みたいな展開もあるんだろうか。
「今、何借りるんだろうとか想像した?」
「え、いや…してませんけど」
「絶対したやろっ!」
だって、ねぇ?
「ええんやけどさ…生徒は借りんから」
「えぇ~!面白くない」
「変に勘違いされたら困るやろ」
そりゃそうだけどさぁ…。
「それよりも来週のテストは大丈夫なん?」
あ…。
「言っとくけど、赤点の措置はないかんな」
「はーい…ちなみに赤点って何点以下ですか?」
「40点」
高っ。頑張ろ。
「不宮なら大丈夫だろうけどな。偏差値もずいぶん高いし」
「えっ!?」
「理科の偏差値、軽く60は超えとるやろ?授業中見てても分かるわ」
意外と観察力良くて草。私の理科の偏差値は65~70辺りなのだ。
「あはは…」
「ま、僕が担当してるクラスなら赤点取る子はおらんし」
あ、そうなんだ?
「期待してる。じゃ、来週のテスト頑張れ」
私に期待!?先生は意味深なことを言って職員室へ行ってしまった。
「そんなこと言うからさぁ…期待しちゃうの分かってんの?」
私は一人で呟くと顔の熱が引くのを待って、裏門を通った。

それからあっという間にテストになった。

テスト当日
「よし」
私は気合いを入れ、ポニーテールにして学校へ。瀬田先生はテストの打ち合わせがあるとかでテスト期間は一緒に行けないらしい。ポニーテールを見せられないのは少し悲しいがそれよりも
「化学のテストっしょ」
本命すぎる。ドキドキしながら教室へ。座っていても心臓は速く鳴るばかり。全然収まってくれない。
「席つけー」
ドキドキしてたらあっという間に来てしまった。
「ふー…」
深呼吸、深呼吸。大丈夫、私!
「始めっ」
勢いよく紙をめくり、1問目から解いてく。予想してたよりは簡単。
(んと…)
頭の中で最速で脳を回転させる。
(これ)
直感を信じつつ、最終問題へ。
(これは…まずこの数を求めて、当てはめる。その答えを割って、足す)
少し時間はかかったが、解き終わった。
コンコン
「失礼します。質問ありますか?」
先生来た!
「残り10分、頑張ってください」
先生はそう言って教室から出て行ってしまった。お願い、満点までいって!
キンコーン
「やめっ」
鐘と同時にシャーペンを置く。後ろの人が集めてくれるのを横目に
「若葉、どうだった?」
クラスメイトからの質問に答える。
「え、うーん…自信ないかも」
「問い5のカッコ3ってどうなった?」
「えーと、エにしたかな」
「同じ~!」
他愛もない会話をして、私は次の科目に目を通した。

テスト後
「不宮おる?」
この声は…
「いますいます!」
「若葉~、王子様が迎えにきてくれたよぉ?」
クラス中の人目が私に集中する。
「はいはい……」
私は頭を抱えながら瀬田先生の元へ行く。
「何ですか?」
「ちょっと化学室来てもらってもええ?」
「はぁ…わかりました」
私は荷物をまとめる。人が多くてドア付近に行けないかも…と考えたが、みんなが一本道を開けてくれてる。どんな団結力だよ。
「で、私を呼ぶってことはテストで何かあったんですか?」
問題の正解率とか?
「まぁ、そんなとこ」
ふーん。どんどん化学室へ向かってく。
ガタッ
ドアを閉められる。
「不宮、お願いや。丸つけ手伝って」
「え?」
間抜けな声が出た。
「不宮満点やったし、人手がなくて」
なるほど。って
「私満点だったんですか!?」
「見事に」
マジかぁ。やりすぎた。
「じゃ、これ模範解答。よろしく」
私の目の前にはたくさんの答案、答案、答案。これ、私がいなかったら先生一人で片付けてたんだよね?そう思うと怖い。
「終わったら言って」
「はーい」
私は答案の山に手をつける。黙々と作業をして2時間。
「終わったぁ~」
やっと終わった。
「お疲れ様。本当にありがとな」
先生も手を止めて休憩してる。
「いえいえ」
それじゃ、私はそろそろ帰るか。
「不宮、帰る?」
「あ、はい…お疲れ様です」
「じゃ、送ってくわ」
「さよ……えっ!?」
「先生車でしたっけ?」
記憶がない。
「え、自転車」
ですよね!?
「ほら、日も沈んできてるし危ないから」
「え、でも…」
「いいから。お礼くらいさせてくれ」
「まぁ…分かりました」
そんなに言われたらねぇ?
「準備するから正門で待ってて」
そう言われ、私は荷物をまとめると下駄箱へ向かった。
「お、不宮。帰りか?」
「見崎会長!」
偶然!
「はい。テストお疲れ様です」
「お疲れ。瀬田先生の手伝いでもしてたか?」
ギクゥ
「ふーん。そうか」
やっぱりバレちゃったみたい。
「その様子だと化学は満点だったんだな」
「え、あ、はい」
何でわかったんだろ。
「だって、前にも満点取った子を採点に付き合わせてたからな」
へ?
「あ~、一人だけだから大丈夫だ。そんな選りすぐるようなことはしとらんよ」
は、はぁ?
「まぁ、この話はまたゆっくりしよか。待ってる人がいるんだろ?」
「ーっあ、はい!失礼します」
私は会長に軽く礼をすると正門へ向かった。
「お、来た来た」
先生は先にいた。
「僕より遅いってどういうことや?」
「さっき…会長に会って」
「あぁ、見崎か」
納得したように先生は目を細める。
「それじゃ、行こか。場所どこだっけ?いつもあの交差点だから分からん」
「最上駅の近くです」
「割と近くね!?」
「そりゃ、歩いて20分くらいですからね」
いつも先生と歩くのは10分くらい。
「まぁ、確かに…」
先生の顔が薄暗闇の中、月に照らされる。
「理科が得意なのって中学から?」
「まぁ…理科の先生がいい人たちだったので自然と頑張れたんですよ」
つい二、三ヶ月前の話だが。
「へぇ」
元気かなー。
「前の先生はめちゃくちゃ変わってて、問題もたくさんだしてくれるし、面白くて」
「僕は?」
「えっ?」
なんて?
「僕の授業はどう?」
「面白いです!なんで私以外が発言しないか不思議なくらいで…」
「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」
先生の目が笑う。
「いえ……」
「あ、そういえば明日生徒会で体育祭の役割決めするから忘れんなよ」
「はーい」
忘れそう。
「忘れてたら迎えに来てやるけん」
「え…いいですよぉ」
「なんで?」
「だって…王子とか色々言われてるので」
正直、先生もいい気分じゃないよね。
「不宮は嫌?」
「えっ?」
「そんな風にクラスメイトから見られるの」
本音を言うなら
「別に…」
嫌ではない。
「ならええやん」
先生は上機嫌でスタスタと歩く。先生の考えてることがわからないよぉ。
「あ、先生空見てください!今日は月が綺麗ですよ」
そこにはいつもより大きめの月。そういえばニュースで今日はビッグムーンって言ってたっけ。
「ほんとや。不宮と一緒に見る月だからかもな」
「え!?私と?」
「残業頑張ったからや」
「残業て…大変でしたけど」
丸つけはしたくないけど、先生と二人きりならいいかな…とか思ったりして。
「あ、先生!私の家ここです」
家の明かりが見える。
「そか。じゃあ今日は本当にありがとう。また明日」
「はい…えと」
こういうときなんて言えばいいんだろ。そうだ!
「瀬田先生、おやすみなさい」
「おやすみ」
先生はそう言って去っていった。
「ただいまー」
私はその姿を見送ると家に入り、ソファへダイブ。テレビでニュースをつけると、丁度月の話題だった。
「月、綺麗だったな」
先程見た月を思い出す。
『夏目漱石は、あなたを愛してますを"月が綺麗ですね"と言う風に表現したみたいですね』
へー…。
『この返しが色々あって、"定番は死んでもいいわ"なんですけど他にも………』
待って、私さっきもしかして遠回しに告白した!?
『"あなたと一緒に見る月だから"はあなたじゃなきゃダメという意味があるようです』
さっき先生が言ってたのに似たニュアンスだ!てことは……
「え、え、えぇ~ッ!!!???」
先生知ってて返したの!?てかそしたら
「先生のばかぁ……」
顔から湯気が出そう。明日直視できるかな…
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