雪の華

おもち

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 結論から言うと、処理班の男2人には、俺の記憶を消すことができなかった。
 
 やせ型の男の方は美鈴のときと同様に、意識が薄れていくときにバチっと音がして意識がすぐに戻ったし、もう一人の男に関しては、意識が薄れていくことすらなかった。

 そして今、俺は、彼らが事務所と呼んでいた場所に連れて来られている。
 ここには、彼らが「瞬間移動」と呼んでいた魔法によって連れて来られたが、なかなかどうして居心地の悪いものだった。
 遊園地に行くとよくある真上にものすごい速さで上がる絶叫マシーン。
 あれの上がるときと下がるときの感覚を組み合わせたみたいな、そんな感覚は絶叫系が苦手な涼太にとってはもう二度と体験したくないものになった。

 瞬間移動で移動した先は事務所のエントランスらしいところだったため、建物の外観はまるっきり見当がつかないが、事務所自体はかなり大きな建物だった。
 内装が白一色で統一された施設は吹き抜けになっており、天井ははるか上にあった。
 
 「とりあえず、コテージで待っている君の友達に連絡しなくてはね。変に我々とのことをしゃべられては困るから、今、この場で友達に連絡してくれ。それが終わったらスマホは一度預からせてもらうよ。」
 エントランス付近の長椅子に腰を下ろしたやせ型の男が、向かい合わせで座った涼太にそう言った。
 涼太の背後には、美鈴と小太りの男の姿。
 
 なるほど。変なことを送ろうものなら全力で止めるつもりか。
 
 メッセージはいろいろ考えた末に、「急用ができたから先に東京に帰っている。」というシンプルなものを送った。
 急用は嘘ではないし、ありえないことではないだろう。

 メールしたことを告げると、スマホを渡すようにとやせ型の男が手を伸ばしてきた。
 やんわりと抵抗するもあえなく却下され、男の手へとスマホが渡る。

 男は涼太のスマホをポケットへ滑り込ませると、腰を上げた。
 「じゃあ、行こうか。」

 どこへ行くんだ、と涼太は不満そうに男を見上げる。
 大した説明もなしに彼らに振り回され、大移動をした涼太はかなり虫の居所が悪かった。
 「俺は今どこにいるのかもわからないんだぞ。最低限の説明をする義務があるんじゃないのか。」

 その言葉に、美鈴が涼太の前へと移動する。
 「そうですよね。ごめんなさい。我々の不手際で涼太さんをこんなところまで連れてきてしまったことをお詫びします。詳しい説明は落ち着いた場所で行いますので、とりあえず場所を変えましょう。ここは、事務所の人間ならだれでも通る場所です。人間のあなたがいると目立ちます。」

 「分かった。でも、移動する前に1つだけ。さっきから君たちが言っている事務所とはいったいどんな場所なんだ。」

 
 
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