【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
上 下
75 / 129
第四章 社畜と女子高生と青春ラブコメディ

14.社畜と二日酔い

しおりを挟む


 目覚めた時、俺の体は鉛のように重かった。

 幸いにも、クリスマスの翌日は土曜日で、会社に行く必要はない。というか、そうでなければ俺と篠田はそこまで飲まなかった。二十代半ばに差し掛かると、大量の飲酒は翌日の仕事に影響するからだ。

 俺よりも先に理瀬、篠田、照子が起きたらしく、カウンターで朝食をとっていた。ソファで寝ている俺だけが、一人放置されている。


「ぬおお……」


 頭を押さえながら、俺は体を起こした。


「あっ、剛が起きた」


 照子がまるで他人事のように呟く。二日酔いの朝だというのに、ご飯と味噌汁と昨日の残り物の肉を食べている。

 篠田はその隣にいたが、まだ気分が悪いのか、温かいお茶だけ飲んでいる。

 理瀬もご飯と味噌汁を食べていた。「とりあえず朝食にご飯と味噌汁を食べておけば、糖分と塩分が十分に補給されてエネルギー切れを起こさず一日過ごせる」と、いつか教えた記憶がある。「特に二日酔いの日は脱水症状になりがちだからおすすめ」とも言った。理瀬はその教えを守っているらしい。まあ、理瀬は酒を飲んでいないから、関係ないのだが。


「宮本さん、大丈夫ですか?」


 理瀬が俺の近くに来た。他の二人は、これ以上動くための力は残っていないようで、理瀬をぼんやりと目で追っている。


「昨日は、すまんかった」

「いえ、気にしないでください。気分がよくなるまで、ゆっくりしてくださいよ」

「うーん……」


 体を無理やり起こしてみたものの、まだ全身が重く、食欲はない。吐き気はわずかなので、理瀬の家をゲロまみれにすることだけは防げる。


「水……」

「はい。持ってきます」


 理瀬が早足でキッチンに戻り、水を入れてくれた。


「スピリタスじゃないよな?」

「私はあんなことしませんよ」

「ああ、すまん。疑わずにはいられないんだ。トラウマってやつだな」


 照子をにらみながら、俺は水の匂いをわざとらしく嗅いで、無臭であることを確認してから飲んだ。いつもの照子なら悪びれて笑うところだが、今日は生気がないのでろくに反応しなかった。


「うち、今日の夜ラジオの収録やけん、一回帰って準備せなあかん」

「私も、明日から実家に帰る予定なので、帰って準備しないと」


 どうやら二人はさっさと帰るつもりのようだ。篠田が洗い物をして、その間に照子が残っていた酒瓶を全部回収した。


「剛はまだおるん?」

「ああ、動けなくはないが、できるならそうしたい」

「ふうん。うちと篠田ちゃんはもう帰るわ。あんまり長居せられんじょ」

「わかっとるわ」


 こうして二人は帰っていった。帰り際、篠田は五千円札を、照子は一万円札を理瀬に出した。理瀬は「お金はいいですよ」と断ったが、照子が「気持ちの問題やけん」と言って、篠田も同意した。俺も受け取った方がいいと思うので、軽くうなずいた。理瀬は受け取ることにした。

 リビングには、俺と理瀬の二人が残された。


「あの、これからどうしますか」

「とりあえずシャワー浴びたい」

「いいですよ。篠田さんも照子さんも、朝起きてすぐに使ってましたよ」


 俺はお言葉に甘えて、シャワーを浴びた。熱いシャワーを浴びると、衰退していた体の感覚が蘇ってきた。スピリタスにやられたが、俺はもともとあまり酔わないし、酔いが覚めるのも早い。体中をきれいに洗い、出た後は俺が置いていた歯ブラシでしっかりと歯を磨いた。それでも酒臭さは抜けていなかったが、ずいぶんマシな姿になった。

 シャワーから出ると、理瀬が味噌汁をあたためて、俺を待ってくれていた。


「昨日の残り、何か食べますか」

「いや、それはいい。まだそこまで食欲がない」

「お味噌汁に、卵でも入れましょうか」

「……いいな、それ」


 ちゃんとした味噌汁に卵を入れて食べるなんて、何年ぶりだろうか。実家で母親がたまにそうしてくれた時はあったが、上京してからはずっとインスタントの味噌汁ばかり。ダシを取る手間すら、一人だと面倒に感じていた。上京前に料理を教え込まれたから、理瀬に教えるくらいにはできるのだが、とにかく一人ではやる気にならなかった。

 理瀬の味噌汁はうまかった。味噌以上に煮干のダシが聞いて、奥深い味わいがあった。


「料理、上手くなったなあ」

「そうですか? レシピ通りに作ってるだけですよ」

「レシピどおりに料理ができるのはある種の才能なんだよ。朝飯、ありがとうな」

「いえ、お気になさらず」


 当たり前のように受け取ってしまったが、二日酔いの翌日にこんなあたたかい食事があるなんて、俺はものすごく恵まれている。一般的な二日酔いの翌日は、一人で気分の悪さと深酒の後悔に苦しむだけで、後味の悪いものだ。

 とはいえ、まだ体は重い。意識がはっきりして、動くことは問題なさそうだ。気合を入れれば、家までは一人でたどり着けるだろう。


「帰ろうかな」

「えっ、無理しない方がいいですよ」

「照子と篠田だって、一人で帰っただろ。俺も大丈夫だよ。クリスマスの日に俺みたいなおっさんと二人きりなんて嫌だろ」

「別に、嫌ではないですよ、宮本さんと一緒にいることは」

「和枝さんとは会わないのか? 今日がクリスマス本番だろ」


 酒盛りをした昨日はイブで、今日がクリスマス。理瀬はクリスマスを家族で過ごすものだと言っていたから、俺より和枝さんと一緒にいるべきだ。


「昨日の昼間に会ってきましたよ。お母さん、お酒も豪華な料理も禁止されてるので、無理に祝ってくれなくていい、って言ってましたよ。だから今日は行かないつもりですよ。もう冬休みなので、しばらくは毎日時間がありそうなので、そう頻繁に行く必要もないです」

「ああ、そっか。高校生は冬休みだもんな。いいなあ冬休み」

「特にすることもないですよ」

「することがない、ということは一つの幸せなんだよ」


 俺は朝飯を食べ終わり、理瀬と一緒に後片付けをした。


「昨日の片付け、もうやったのか」

「はい。昨日の夜、みんなが寝てからやってしまいましたよ」

「朝まで置いといて、俺達に手伝わせてもよかったんだぞ」

「残ったお料理が多くて、すぐ保存したかったので……それに最近、食器とかが放置されていると、体が勝手に動くんですよ」

「なんか、おかんみたいになってきたな」


 談笑しながら、ゆっくりと時間を過ごす。パーティがハイテンションな時間だったぶん、理瀬と過ごすゆるやかな時間が、ちょうどいい熱さの温泉に入っている時にように心地よい。

 片付けを終え、理瀬はエプロンを脱いだ。続いてなぜか部屋着用のパーカーも脱ぐ。全室セントラルヒーティングの部屋だから長袖Tシャツ一枚でも寒くないのだが、わざわざ脱ぐ理由はよくわからなかった。後片付けで動いたから、体が温まったのだろうか。若いっていいね。


「あー、やっぱ寝たい。動いたら疲れた」

「いいですよ。私も昨日、遅くまで起きてたので、もう一眠りしたいです」

「すまんな。あっちの部屋借りるわ。おやすみ」


 そう言って、かつて篠田と一緒に住んでいた部屋に向かうと、ベッド上から布団とシーツが消えて、マットレスだけ置かれていた。


「そっちの部屋、しばらく使わないと思ったので、シーツは片付けちゃいましたよ」

「そっか。じゃあソファで寝るか」

「私のベッドでいいですよ」

「……ん? 今からお前も寝るんだろ?」

「はい。一緒に寝ましょうよ」

「はい?」


 俺は、耳を疑った。

 一緒に住んでいた頃も、理瀬の部屋はプライベートゾーンだと認識していて、めったに入ることはなかった。入ったのは、停電でパニックになった時くらいだ。

 

「……なんで?」


 まったくもって理解不能だったので、俺はシンプルに聞き返した。


「シーツを片付けてしまったし、ずっとソファで寝るのはよくないからですよ」

「俺、自分でシーツ出そうか?」

「予備はもうないですよ」

「隣におっさんが寝てたら邪魔だろ」

「邪魔じゃないですよ……ほら、早く行きましょうよ」


 理瀬が俺の手を引っ張る。少し抵抗したが、理瀬がおそらく彼女の持つ全力で引っ張ってきたので、俺は従った。

 俺がまず横になると、理瀬も続いた。ダブルベッドなので、二人で寝てもそこそこ距離はある。


「あの……これ言うの恥ずかしいんですけど、笑わずに聞いてもらえますか」

「何だ?」

「昨日の夜……宮本さん、ずっと篠田さんと照子さんと話してて、私とはあまり話してくれなかったので、なんか、ちょっと、まだ一緒にいたいんですよ」


 そう言って理瀬はぐっ、と体を寄せてきた。シャツの胸元が開いていて、きれいな鎖骨が見えている。視線をもっと下げたら、シャツの中身まで見えそうなほど近い。


「なんだ、お前やきもち焼いてるのか」

「……」

「そんな顔するなよ」


 理瀬がちょっと寂しそうな顔をしていたので、俺は髪を撫でてやった。理瀬の体を安易に触ってはいけない、とは思っていたが、理瀬用のベッドの寝心地が想像以上によく、半分睡魔に襲われていたから、つい無意識的にやってしまった。

 髪を撫でられていた理瀬は目をキラキラさせていた。俺の記憶は、一旦そこで途切れた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タイムトラベル同好会

小松広和
ライト文芸
とある有名私立高校にあるタイムトラベル同好会。その名の通りタイムマシンを制作して過去に行くのが目的のクラブだ。だが、なぜか誰も俺のこの壮大なる夢を理解する者がいない。あえて言えば幼なじみの胡桃が付き合ってくれるくらいか。あっ、いやこれは彼女として付き合うという意味では決してない。胡桃はただの幼なじみだ。誤解をしないようにしてくれ。俺と胡桃の平凡な日常のはずが突然・・・・。 気になる方はぜひ読んでみてください。SFっぽい恋愛っぽいストーリーです。よろしくお願いします。

処理中です...