悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

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本編

第32話 我が名は

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 再び、暗闇は消え、現実世界へ。
 ロザリアは力のかぎり叫び、魂装強化の施された肉体を動かした。

「離して!」

「!?」

 ロザリアはそう叫ぶと、自らを押さえつける少女らを撥ね退けた。ロザリアの魂装強化は強烈だ。

「きゃあ……!」

「な、なに!?」

 二人の少女は地面に転がった。
 ロザリアは荒い息を吐きながら、立ち上がる。
 そして真白にたかる生徒たちを一喝した。

「そ、その子を、傷つけないでッッ!!」

 真白の前に立ちはだかると、腕を広げて真白をかばう。

「はっ、ついに本性を現したか!?」

 グレンは手を前にかざすと、武具を召喚した。
 それは一振りの剣だった。
 それをロザリアに突きつける。
 マリアとディーナも同じように、それぞれ召喚した武具をロザリアに向けた。

 けれどロザリアは頑としてその場を動かなかった。

「……私は、お兄様を殺してなんかいないわ」

 緊張感の走る訓練場に、ロザリアの声が響いた。
 ロザリアはぎゅ、と目をつぶって、叫ぶ。

「公爵位を継ぐ気もない!」

「嘘をつくな!」

「グレン様、この女、もう許せないわ!」

 マリアがぎり、と唇を噛む。

「嘘をつくのはやめなさいよ! ユーイン様たちが馬車の事故で死ぬなんて、あまりにもおかしいのよ!」

 ユーインとルイスは、領地へ遊びに行く途中に、馬車が横転して二人ともなくなったのだという。それはあまりにも不自然すぎる事故だった。
 けれどロザリアがそれが不自然な事故だとしても、本当になにも関係していないのだ。

「私はなにもやってない」

「ふ、ふん、アリスが、言っ……」

「違う!」

 そう叫んだのは、アリスだった。

「違う、違うの! 」

 その瞳からは涙がぼたぼたとこぼれ落ちている。
 泣いて、呼吸がうまくできていないようだった。

「わ、わ、わたし、が……ッ」

「アリスちゃん、いいよ」

 ロザリアは泣くアリスを止めた。

「この人たちに、何か言われたんでしょう?」

「!」

 ロザリアはグレンを見つめながら、言った。

「はっ、なにをいってるんだ? どこにそんな証拠がある?」

 グレンは笑う。

「僕は王子だぞ?」

「……」

 この学園は、身分平等を謳っている。
 それなのに、この王子ときたら、自分の身分を笠に着て、異常高に振舞っているのである。

「魔術の才もない君のような者たちがこの学園にいることすら、不愉快なんだ。遅かれ早かれこうなる運命だったんだ」

 高慢そうなその少年は、ロザリアを見てほくそ笑んだ。

「さあ、選べよ。降参するか、ここで戦うか」

「……」

 ロザリアが口を開きかけたとき。

「ロザリアちゃん、ダメ!!!」

「!」

 アリスが叫んだ。

「そんな理不尽な誘いにのっちゃだめ! 私が、本当のこというから! 退学になるべきは、私とグレン殿下なの!」

 だから、とアリスが続けようとしたところで、ロザリアは首を振った。

「もしも周りの大人たちが信じてくれなかったら、困る。グレン殿下は自らおっしゃったわ、この戦いに勝てば、無実を信じると」

 ここにいる生徒の大半がその言葉を聞いている。
 グレンも後には引けないだろう。

「なんで……わたしのために、そんな……」

 アリスは呆然としたようにそういった。

「だって……」

 ロザリアの足は、ガクガクしていた。
 体はふるえ、頬には涙が伝っている。

 でも、言わなきゃいけないことがある。
 声をかけてくれたアリスに。
 助けてくれたアリスに。


「友達だと、思うから……ッ!」


 ──今度は私が、アリスちゃんを助けるんだ。

 アリスの表情に、じわじわと驚愕が広がっていく。

「はっ、生意気なことを」

 グレンがいらだたしげにそう言うと、剣を振るった。
 マリアとディーナもロザリアにおそいかかる。
 ロザリアには抵抗する手段がない。

 けれどこれでよかったのだ。
 何も抵抗しないより、ずっと。

 ロザリアは、自分の心の弱さに打ち勝ったのだから。

 ロザリアがぎゅ、と目をつぶったとき。

「っ!?」

 ロザリアを中心にして、まばゆい光が溢れた。

「なんだこれは!?」

 周りの人たちもざわついている。

 まばゆい光は立っていられないほどの突風を巻き起こし、ロザリアは吹き飛ばされないように歯を食いしばった。

『……よく言った、ロザリア=リンド・オルガレム』

「!」

 光の先で、男が玉座から立ち上がった。
 そしてこちらに近づいてくる。

『どうしようもない女だと思っていたが、なかなかどうして、根性があるようだ』


 暗がりで見えなかった顔に、光が差した。

『その姿勢、気に入ったぞ』

 それは、真っ黒な髪に赤い瞳の、若い青年だった。
 堂々とした立ち居振る舞い。
 顔の半分には魔導紋が刻まれている。

「かわってやるよ」

 ニッと男が笑う。

「あなたは、一体……」

 あたりが一層強い光に包まれた。

『我が名は──』




〝破壊〟の罪
 



オレイカルコスの槍
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