悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

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本編

第11話 真白

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「っていうわけなんです! お願いします、このことはどうか内緒に!」

 必死に頭を下げるアリスに、ロザリアは慌てていた。

「わ、わかった。大丈夫だから」

「! 本当に?」

 珍しく言葉を発したロザリアに、アリスは顔をぱあっと上げる。
 ロザリアは初めて会話を交わすことができたのと、今聞いた話の内容が相まって、頭が混乱していた。とりあえずこくこくと頷いて、それを肯定しておく。

「あ、ありがとうございます!」

 アリスはホッとしたように、胸をなで下ろしていた。
 ロザリアとは反対に、少し落ち着いてきたのか、胸に真っ白な子犬……のようなものを抱きしめて、ロザリアを見る。

「一回餌をやったら懐いちゃって、私もなんだか見捨てられなくて。不思議とこの校舎からは出ないし、ここでかえないこともないなぁって」

「そ、そうなの」

「今日も近くの教室でこの子と遊んでいたら、ものすごい物音がして。見に来たらロザリア様が倒れていたんです」

 どうやらこの犬のような生き物は、アリスが見つけた迷い犬らしかった。その犬をこの校舎で飼っていたのだ。
 ロザリアはそういうことだったのね、と納得した。
 自分は余計なことをしてしまったのでは、と少々不安になってしまう。
 犬のような生き物は、しっぽを振り回して楽しそうにしていた。
「子犬、だと思うんだけど。買い手が見つかるまで、お世話したいんだ」

 私のわがままかなぁ、とアリスは頬をかいた。

「な、名前とか、あるの」

「名前はねー、まっしろだから真白って呼んでるよ!」

 そういって、アリスはにこ、と笑った。

「あれ? ロザリア様はどうしてここに?」

「……様、なんてつけなくていい」

 ロザリアはつい気になってしまったことを言ってしまった。
 アリスは目を丸くして、それから笑った。

「ほ、本当?」

 こくん、とロザリアは頷いた。
「だって、同じ学校にいる人なのに、変」

「そ、そっか。私、一人だけ孤児院出身だから、どう接していいのか分からなくって」

「そんなの関係ない、よ」

 ロザリアは自分がすらすらと人と会話できていることに驚いた。
 あの変な男……の夢のせいで、混乱していたのか、さっきから普通にアリスと話せているのだ。
 思った以上に、自然に言葉が出てくる。
 一度話せると、ロザリアは緊張しなくなってきていた。

「あの、あなたが、ここに入っていくのが見えたから」

 ロザリアはもじもじと言った。

「え? 見えたから?」

 きょと、とアリスは目を瞬かせた。

「し、し、心配、しちゃって、その……」

 ロザリアの顔が真っ赤になる。
 アリスは目をまん丸にしていた。

 ──言わなきゃ。この間のことも、ちゃんと。

「あ、あ、あの」

「え?」

「こ、この間は、その……私のペンダントを拾ってくれて……ありがと、う」

 ばくばくする心臓を抑えながら、ロザリアはようやくその言葉を吐き出した。

「大切なものだったから、その、ずっとお礼を言いたくて、私……」

 ロザリアは言いたかったことをようやく吐き出すことができた。
 混乱に乗じて、はっきり話せるようになったのがよかったのかもしれない。
 また、アリスもロザリアに対する印象が大きく変わっていた。

 これがロザリアにとって初めての友達……アリスとの、邂逅になった。
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