上 下
41 / 101
第4章 魔王様は脱力系?

モフリシャス!!!

しおりを挟む
 ◆

 リリィはお茶を飲みながら、テレビを見ていた。
 一通り仕事を済ませた後、寝る前にこうしてドラマを見て、お風呂に入るのがリリィのルーティーンなのだ。
 リリィがテレビを見ていると、ダイニングルームにショコラが入ってきた。

「リリィさん、お風呂いただきました」

「あーはいはい。じゃあ私もそろそろ入り……」

 リリィはショコラを振り返ると、固まってしまった。
 その視線はしっぽに釘付けになっている。

「な……」

 リリィはショコラに近づくと、しっぽを凝視した。
 ショコラはもじもじと、恥ずかしそうにしている。

「ルーチェさんが、しっぽ専用のソープを買ってくれたんです」

 そこにあったのは、あきらかにお風呂に入るまでとは違う、もっふもふでボリューミィなしっぽだった。
 毛質がもっともっと柔らかそうになり、艶が出ている。

「……ショコラさん、大変失礼ですが」

「はい?」

「もふっても?」

「ど、どうそ」

 リリィはその、ふわんふわんのしっぽをそっと両手で握った。

 もふもふもふ。

 とろけるような肌触りのしっぽが、リリィの手に触れた。

「……」

 リリィは黙って、もふり続けた。
 そしてぽつりと呟く。

「も……」

「?」

「モフリシャス!!!!」

 よく分からないが、モフリシャスとは、もふもふしたものを褒めるときの褒め言葉のようだった。
 

 ◆

「美容関係の仕事仲間が教えてくれたのよ。あたしに感謝しなさいよね」

 リビングで鼻高々にルーチェが言った。
 ショコラは裸で出てきたミルとメルに服を着せていた。
 そしてリリィは、なしっぷる社のポッキントッシュ、通称ポックPCで、ウェブサイトを検索している。

「あった! これですね!」

 検索でたどり着いたのは、モフリシャスの公式通販ページだった。
 リリィは必要事項を入力すると、『定期購入便』にカーソルを合わせ、かちりとクリックする。

「……定期購入しましたわ」

 ふう、と一仕事を終えたように、リリィは息をつく。
 それを見ていたショコラは、心配になった。

「あの、これ、とても高価なものだと思うんですけど、いいのでしょうか?」

「心配しないでください。ラグナル様のカードで買ってますから」

 そっちの方が余計心配だったのだが、いくら言っても買うと聞かないので、ショコラはあとでラグナルに報告しようと思った。そしてしっぽを見たラグナルは、これほどためになる買い物はないと、定期購入を激押ししたのだった。

「いや~、いい買い物をしました」 

 そう言って、リリィはご機嫌で風呂へ向かったのだった。

 ◆

「ふんっ。これで、あたしがしたこと……ちゃらでいいでしょ?」

「え?」

 ショコラが自分のしっぽをいじっていると、ルーチェがぽつりとそう言った。

「それって……」

「ま、別にあんたなんかにこんなことしてやる義理なんてないんだけどね!」

「ルーチェさん……」

 実はあのときのことを気にしていたのか、とショコラは意外に思った。
 それからふ、と微笑む。

「ショコラ、ルーチェさん、好きです」

「は、はぁ!? 何よいきなり!」

 ルーチェは真っ赤になって動揺する。

「そんなこと言ったって、もう何もやらないわよ!」

「わかってますよ~」

 ショコラが笑うと、ルーチェはショコラにびしっと指差して言った。

「いい、あたしとあんたはライバルなの。だから気安くしないでよねっ」

「?」

 なんのライバルなのかさっぱりわからなくて、ショコラは首をかしげた。
 ルーチェは何も言わず、さっさと部屋を出て行ってしまう。

(ルーチェさんって、結構いい人なんだよね。それにおもしろいし)

 その背中を見送りながら、ショコラはそんなことを考えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?

ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。 当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める…… と思っていたのに…!?? 狼獣人×ウサギ獣人。 ※安心のR15仕様。 ----- 主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...