16 / 34
沈船村楽園神殿
ガイドブック(12巻目)
しおりを挟む
濁ってる。
あの学校の空気が乾いているというなら、この村のそれは湿りきって、水の底にいるかのよう。
・・・この村の傍に湖があるから、そのせいか。
どの家も似たり寄ったりの形で、色も灰色一色。そのせいか、妙に閉塞感がある。
おまけに何処からか視線を感じるような。余所者が珍しいから? じろじろ見られると挙動不審になって余計怪しまれるから止めて欲しいな。
「それでそうするんですか、游理さん。園村さんの居場所について、何か当てがあるんです?」
「取り合えず、彼に仕事を依頼したって人の家に行く」
「場所は?」
「所長が言うには間違えようがないって・・・えっと地図」
バックから所長にもらった「沈船村観光ガイド(12)」を取り出す。
「第12版ってことですか?」
「全12巻らしいよ」
唖然とする宇羅。私も所長に渡された時は驚いたよ。おまけに1冊でもちょっとした小説くらいの厚さがある。どんだけ詳細なんだ。地味に残りが気になるし。
「こういう地図って最初の巻の頭に載せるもんだと思うんですが」
「さあそう言う方針だとしか」
「でも観光用の地図になんて記載されてますか?」
「所長からは、すごく詳しい
「地図は48、49ページ見開き」また半端なページに。
「どんなんですか?」
横から宇羅が覗き込んでくる。距離近いって。
「その家の名前は?」
「この村と同じ、『沈船』村長の家」
「そうですか」
見開きページには一面のモザイクだった。
情報過多、というか細かい記号が滅茶苦茶な密度で書き込まれてる。ひとつひとつの記号の意味・・・地図記号とかも交じってるけど、見たこともないのがほとんど。
照合表とかも載ってない・・・これ一般的なものなの・・・?
これ見ても大雑把な村の形しかわからない・・・この地図、全然役に立たない。
「宇羅わかる?」
「目の焦点合わせたら、こう何か浮き上がって」
「来るの?」
「来ないです。はっきり言って落書きにしか見えません」
期待させといて・・・
「というか、村長さんの家なんですよね。だったら地図に頼るまでもなくそこらの人に訊いたらいいじゃないですか」
「知らない人にそんなこと普通訊かないでしょ」
「そうですか?」
「少なくとも私だったら気後れするし。だから他の人もしないはず」
「・・・游理さん。ギリギリとは言え社会人なんですから、そういう自分の感覚を他人に押し付けるの止めましょうよ」
なんだよ・・・私が人として問題あるみたいな言い方、傷つくなぁ。
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
無視して勝手にコンタクト開始すな。
「はあああい。何でしょうかあ?」
「私たち、今この村に着いた所でして」
「はざ。どちらかあらいりゃしゃりまし?」ぐちゃぐちゃ。
「ええ、都の方から」
「アさああ。それはとおおえいからおこしょ」ころころころ。
何だろ。訛りみたいな。何言ってんのか聞き取れない。話してる人も妙に青白いけど大丈夫なんだろうか。
「それで、この村の『沈船』さんのお宅へ伺いたいんですけど」
「『cchh』さん? ああ、村長の」ギュチャギュチャ。
「はい、よろしければどの様にしていけばいいか、教えていただけるとありがたいんですけど」
「あああ。そこの右、右、右。右。右・・・・」ヒイイイイイ。
「・・・・わかりました。お時間を割いていただきありがとうございます」
「右、右みい右・・・・・・・ぐらさささあ」コココキキキキ。
「はい、お婆さん、ではわたしたちはこれで。失礼しますね」
・・・私よりうまくコミュニケーション取れてる。途中変な雑音が混じってるし、よくわからなかったけど。
宇羅、本当に理解してるの?
「あそこの角を曲がって40mほど進んだ後、左折。その後50m進んで今度は右折。30m先でまた右折したら着くそうです」
「あの会話でそこまでわかったの」
すごいな。傍目には一方的に宇羅が喋ってるようにしか見えなかったのに。
「この家か・・・」
でかい。
湖の畔に建てられた洋館。村の他の家と比べて何倍も大きい。やっぱり村の長の家だからか。
宮上さんの実家もデタラメな広さだったけど、こっちはなんて言うか、年月が積み重なった品格というか雰囲気がある感じ。
「宇羅、呼び鈴押して」
「それくらい自分でして下さいよ」
「さっきみたいに、初対面の人と接するのはあなたの方が向いてる」
「一応游理さんは先輩でしょ」
それを言われると、反論出来ない。
屋敷の中に通されて、そのまま執事みたいな人に連れられて奥の部屋へ。先日と同じ流れだなここ。
でもやっぱり内部はかなり違う。あの屋敷が特異だったってのもあるけど、こっちは正統派のお金持ちの家って感じ。
ただやっぱり湿った感じがしてる。村もそうだったから、この地域の気候なんだろうか。絵画もあるのに傷まない?
「対策はしておりますので」執事さんが即座に答えてくれた。
「それにこの作品群の美しさはこの地でこそ十全に顕れるものですので」
そういうものなんだ。私にはグロい絵にしか見えないけど。
「ああるじ。ええのしまはああらいssのおふたかたをお連れしました」
また変なノイズが入ってる、私の耳がおかしいのかな?
「入ってもらいなさい」ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。
一際大きな扉の向こうから凛とした女性の声が聞こえた。その後また変な音が聞こえた。
あの学校の空気が乾いているというなら、この村のそれは湿りきって、水の底にいるかのよう。
・・・この村の傍に湖があるから、そのせいか。
どの家も似たり寄ったりの形で、色も灰色一色。そのせいか、妙に閉塞感がある。
おまけに何処からか視線を感じるような。余所者が珍しいから? じろじろ見られると挙動不審になって余計怪しまれるから止めて欲しいな。
「それでそうするんですか、游理さん。園村さんの居場所について、何か当てがあるんです?」
「取り合えず、彼に仕事を依頼したって人の家に行く」
「場所は?」
「所長が言うには間違えようがないって・・・えっと地図」
バックから所長にもらった「沈船村観光ガイド(12)」を取り出す。
「第12版ってことですか?」
「全12巻らしいよ」
唖然とする宇羅。私も所長に渡された時は驚いたよ。おまけに1冊でもちょっとした小説くらいの厚さがある。どんだけ詳細なんだ。地味に残りが気になるし。
「こういう地図って最初の巻の頭に載せるもんだと思うんですが」
「さあそう言う方針だとしか」
「でも観光用の地図になんて記載されてますか?」
「所長からは、すごく詳しい
「地図は48、49ページ見開き」また半端なページに。
「どんなんですか?」
横から宇羅が覗き込んでくる。距離近いって。
「その家の名前は?」
「この村と同じ、『沈船』村長の家」
「そうですか」
見開きページには一面のモザイクだった。
情報過多、というか細かい記号が滅茶苦茶な密度で書き込まれてる。ひとつひとつの記号の意味・・・地図記号とかも交じってるけど、見たこともないのがほとんど。
照合表とかも載ってない・・・これ一般的なものなの・・・?
これ見ても大雑把な村の形しかわからない・・・この地図、全然役に立たない。
「宇羅わかる?」
「目の焦点合わせたら、こう何か浮き上がって」
「来るの?」
「来ないです。はっきり言って落書きにしか見えません」
期待させといて・・・
「というか、村長さんの家なんですよね。だったら地図に頼るまでもなくそこらの人に訊いたらいいじゃないですか」
「知らない人にそんなこと普通訊かないでしょ」
「そうですか?」
「少なくとも私だったら気後れするし。だから他の人もしないはず」
「・・・游理さん。ギリギリとは言え社会人なんですから、そういう自分の感覚を他人に押し付けるの止めましょうよ」
なんだよ・・・私が人として問題あるみたいな言い方、傷つくなぁ。
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
無視して勝手にコンタクト開始すな。
「はあああい。何でしょうかあ?」
「私たち、今この村に着いた所でして」
「はざ。どちらかあらいりゃしゃりまし?」ぐちゃぐちゃ。
「ええ、都の方から」
「アさああ。それはとおおえいからおこしょ」ころころころ。
何だろ。訛りみたいな。何言ってんのか聞き取れない。話してる人も妙に青白いけど大丈夫なんだろうか。
「それで、この村の『沈船』さんのお宅へ伺いたいんですけど」
「『cchh』さん? ああ、村長の」ギュチャギュチャ。
「はい、よろしければどの様にしていけばいいか、教えていただけるとありがたいんですけど」
「あああ。そこの右、右、右。右。右・・・・」ヒイイイイイ。
「・・・・わかりました。お時間を割いていただきありがとうございます」
「右、右みい右・・・・・・・ぐらさささあ」コココキキキキ。
「はい、お婆さん、ではわたしたちはこれで。失礼しますね」
・・・私よりうまくコミュニケーション取れてる。途中変な雑音が混じってるし、よくわからなかったけど。
宇羅、本当に理解してるの?
「あそこの角を曲がって40mほど進んだ後、左折。その後50m進んで今度は右折。30m先でまた右折したら着くそうです」
「あの会話でそこまでわかったの」
すごいな。傍目には一方的に宇羅が喋ってるようにしか見えなかったのに。
「この家か・・・」
でかい。
湖の畔に建てられた洋館。村の他の家と比べて何倍も大きい。やっぱり村の長の家だからか。
宮上さんの実家もデタラメな広さだったけど、こっちはなんて言うか、年月が積み重なった品格というか雰囲気がある感じ。
「宇羅、呼び鈴押して」
「それくらい自分でして下さいよ」
「さっきみたいに、初対面の人と接するのはあなたの方が向いてる」
「一応游理さんは先輩でしょ」
それを言われると、反論出来ない。
屋敷の中に通されて、そのまま執事みたいな人に連れられて奥の部屋へ。先日と同じ流れだなここ。
でもやっぱり内部はかなり違う。あの屋敷が特異だったってのもあるけど、こっちは正統派のお金持ちの家って感じ。
ただやっぱり湿った感じがしてる。村もそうだったから、この地域の気候なんだろうか。絵画もあるのに傷まない?
「対策はしておりますので」執事さんが即座に答えてくれた。
「それにこの作品群の美しさはこの地でこそ十全に顕れるものですので」
そういうものなんだ。私にはグロい絵にしか見えないけど。
「ああるじ。ええのしまはああらいssのおふたかたをお連れしました」
また変なノイズが入ってる、私の耳がおかしいのかな?
「入ってもらいなさい」ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。
一際大きな扉の向こうから凛とした女性の声が聞こえた。その後また変な音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
この『村』を探して下さい
案内人
ホラー
全ては、とあるネット掲示板の書き込みから始まりました。『この村を探して下さい』。『村』の真相を求めたどり着く先は……?
◇
貴方は今、欲しいものがありますか?
地位、財産、理想の容姿、人望から、愛まで。縁日では何でも手に入ります。
今回は『縁日』の素晴らしさを広めるため、お客様の体験談や、『村』に関連する資料を集めました。心ゆくまでお楽しみ下さい。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる