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4 Who are you?
第23話
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※
次の日。
僕たちは、街にいた。
「――ったく、まだまだ外は暑いな。せっかく課外が終わったってのに、この暑さのまま夏休みが終わるなんて考えられないっての。秋なんて存在しないんじゃないか、今年」
隣で怠そうに呟くのは辻谷恭介。背中を丸めて表情を歪め、まるで陸に打ち上げられた魚のように元気さをなくしている。今日一日歩けるのだろうかこいつは。
「えっと……よ、よかったら、飲み物いる? 水筒持ってきてるから、喉乾いたなら、いつでも言ってね」
その横で坂倉凛子が鞄から水筒を取り出しながら言う。流石は真面目な委員長、熱中症対策も欠かしはしないようだ。深めに被った大きな青色のキャップもよく似合っている。
「何でこんなに暑いのよ。もう、本当に嫌になるわね。夏休みの初めの方がまだ涼しかったわよ」
先導を行く村雨が、またもや暑さに文句を言っている。彼女の嫌いなものの中には『暑さ』があるようだ。いつか使えるかもしれないから、とりあえず覚えておくとしよう。
「……それで、今日は一体、何をする予定なの?」
一番後ろを歩く桐島園加が、最もこの場に相応しい質問を投げ掛けた。むしろこれを聞かない方が不思議だ。上から下まで黒色に染まった彼女の姿は、逆に暑さを吸収するための装備なのではないかと思えてしまうほど暑そうだが、本人は至って涼しい顔をしている。
なぜ僕たちがこんなところにいるのか。それは、昨日村雨が急遽召集をかけたからであった。
彼女が宣言した、桐島園加の生き方矯正。今日の僕らの目的は、正にそれであるらしい。ただし、坂倉と辻谷には、桐島園加の秘密について語られてはいない。あくまで、人数が多い方がいいという村雨の判断により集められた人員である。
「じゃあそろそろ、今日あなたたちに……というより、桐島さんと零にやってもらうことを発表するわ」
「え、僕も?」
急に名前を呼ばれたもんだから、間の抜けた返事をしてしまう。てっきり今回の企画は桐島園加のためのものだと思っていたから、予想外だった。
きょとんとする僕と桐島園加に、村雨は指を突き付けて言った。
「あんたたち、今からデートしなさい」
「……は?」
「……え、何?」
今度の間抜けな返事には桐島園加も含まれた。二人で顔を見合わせ、もう一度村雨に視線を戻す。彼女は睨むように目を細めて、自分で言っておきながら納得していないような口調で続けた。
「この前あんたたち、この街で遊んだんでしょ? まあ正確には、その時は桐島さんではないのかもしれないけど……それは今はどうでもいいの。とにかく、その時と同じことを、今度は桐島園加としてやってみるの。いい?」
「いや、そんなこと言われても……それに、どんな意味があるんだ?」
当然の疑問を口にする僕。桐島園加も同じく頷く。村雨の言っていることの意図が全く理解できない。
「だーかーら、零と二人で遊んだ時に明日葉明日香としてやった行動を、桐島園加としてやってみるのよ! そうすれば、その時感じた楽しさとか嬉しさを、桐島園加として感じることが出来るようになるかもしれないでしょう?」
威嚇するように村雨はそう言って、腕を組んで睨む。今日はいつにもまして攻撃的だ。特に、自分の言っていることに対して怒っているように感じるのは気のせいだろうか。桐島園加も珍しくぽかんと口を開けている。
坂倉と辻谷は、先ほどから不思議そうな顔で村雨を眺めていた。街に行くことだけを伝えられた彼らにとって、そもそもそれほど仲良くもないはずの桐島園加がいること自体謎であった上に、明日葉明日香だの、急にデートしろだのと目の前で言われ始めたのだから、全く理解不能だろう。後者に関しては事情を知っている僕だって意味不明だ。
だが、なぜか辻谷は不意に何かを悟ったように頷いて、村雨に向けて不敵な笑顔を見せた。
「……なるほどなるほどー。状況はよく分からないけど、とりあえず雫ちゃんは山城と二人で一緒に遊ぶことに楽しさとか嬉しさを感じてるってわけかー」
「は!? ちょ、ちょっと辻谷君、何言ってるの? 誰もそんなこと言ってないでしょう!」
慌てたように否定する村雨の言葉を聞いていないように片手を広げた辻谷は、次に僕に寄ってきて、意味深に肩に手を置いてきた。
「なあ山城よ……俺は、お前を応援している。それは同時に、雫ちゃんも応援してるってことだ。察するに、雫ちゃんが今からしようとしていることは、きっと桐島園加のためになることなんだろう。雫ちゃん、根は優しいからな。そして、それはお前にしか出来ないことだってことも流れから何となく分かる。だとすれば、お前はそんな雫ちゃんの思いを無駄にしちゃいけない。一度身を引いてまで他人を助けようとしている優しい彼女の気持ちを、決して無為にしてはいけないんだ。……分かるな?」
「お前は一体何なんだ……」
時々こいつのことがよく分からなくなる。結局何が言いたいんだ。しかも事情が分かっていない割にはかなりぐいぐい来るし、本当は分かってるんじゃないだろうな。
「あの、私は、何が何だか全然分からないんだけど……」
坂倉があたふたと僕らの顔を見ながら、困った顔で首を傾げる。そう、これが正しい反応だ。坂倉は期待を裏切らないな。僕は嬉しいよ。
「――と、とにかく! 今日やることは、この前の零と明日葉明日香のデートの再現! 私たちはその手伝い! 分かったわね?」
はてなマークが飛び交う場への有無を言わせない物言いに、全員が黙って頷く。その様子に満足したのか、村雨はふんと鼻を鳴らして、再び先へと歩きだした。
しかし、デートの再現だって?
そもそもデートなんかしていた覚えはないんだけどなあ、と内心でぼやく僕の視界に、桐島園加が入った。彼女は相変わらずの無表情で村雨の後姿を見ていたが、ふと僕に視線を移し、こんなことを言った。
「うーん、なんだか分からないけど、せっかくの村雨さんの厚意みたいだし、素直に受け取っておこうか? よろしくね、零君」
「う、うん、そうだね。納得はあまり出来ないけど、とりあえずよろしく」
僕が彼女の最期に放った言葉の違和感に気づくのは、それからしばらくしてのことだった。
次の日。
僕たちは、街にいた。
「――ったく、まだまだ外は暑いな。せっかく課外が終わったってのに、この暑さのまま夏休みが終わるなんて考えられないっての。秋なんて存在しないんじゃないか、今年」
隣で怠そうに呟くのは辻谷恭介。背中を丸めて表情を歪め、まるで陸に打ち上げられた魚のように元気さをなくしている。今日一日歩けるのだろうかこいつは。
「えっと……よ、よかったら、飲み物いる? 水筒持ってきてるから、喉乾いたなら、いつでも言ってね」
その横で坂倉凛子が鞄から水筒を取り出しながら言う。流石は真面目な委員長、熱中症対策も欠かしはしないようだ。深めに被った大きな青色のキャップもよく似合っている。
「何でこんなに暑いのよ。もう、本当に嫌になるわね。夏休みの初めの方がまだ涼しかったわよ」
先導を行く村雨が、またもや暑さに文句を言っている。彼女の嫌いなものの中には『暑さ』があるようだ。いつか使えるかもしれないから、とりあえず覚えておくとしよう。
「……それで、今日は一体、何をする予定なの?」
一番後ろを歩く桐島園加が、最もこの場に相応しい質問を投げ掛けた。むしろこれを聞かない方が不思議だ。上から下まで黒色に染まった彼女の姿は、逆に暑さを吸収するための装備なのではないかと思えてしまうほど暑そうだが、本人は至って涼しい顔をしている。
なぜ僕たちがこんなところにいるのか。それは、昨日村雨が急遽召集をかけたからであった。
彼女が宣言した、桐島園加の生き方矯正。今日の僕らの目的は、正にそれであるらしい。ただし、坂倉と辻谷には、桐島園加の秘密について語られてはいない。あくまで、人数が多い方がいいという村雨の判断により集められた人員である。
「じゃあそろそろ、今日あなたたちに……というより、桐島さんと零にやってもらうことを発表するわ」
「え、僕も?」
急に名前を呼ばれたもんだから、間の抜けた返事をしてしまう。てっきり今回の企画は桐島園加のためのものだと思っていたから、予想外だった。
きょとんとする僕と桐島園加に、村雨は指を突き付けて言った。
「あんたたち、今からデートしなさい」
「……は?」
「……え、何?」
今度の間抜けな返事には桐島園加も含まれた。二人で顔を見合わせ、もう一度村雨に視線を戻す。彼女は睨むように目を細めて、自分で言っておきながら納得していないような口調で続けた。
「この前あんたたち、この街で遊んだんでしょ? まあ正確には、その時は桐島さんではないのかもしれないけど……それは今はどうでもいいの。とにかく、その時と同じことを、今度は桐島園加としてやってみるの。いい?」
「いや、そんなこと言われても……それに、どんな意味があるんだ?」
当然の疑問を口にする僕。桐島園加も同じく頷く。村雨の言っていることの意図が全く理解できない。
「だーかーら、零と二人で遊んだ時に明日葉明日香としてやった行動を、桐島園加としてやってみるのよ! そうすれば、その時感じた楽しさとか嬉しさを、桐島園加として感じることが出来るようになるかもしれないでしょう?」
威嚇するように村雨はそう言って、腕を組んで睨む。今日はいつにもまして攻撃的だ。特に、自分の言っていることに対して怒っているように感じるのは気のせいだろうか。桐島園加も珍しくぽかんと口を開けている。
坂倉と辻谷は、先ほどから不思議そうな顔で村雨を眺めていた。街に行くことだけを伝えられた彼らにとって、そもそもそれほど仲良くもないはずの桐島園加がいること自体謎であった上に、明日葉明日香だの、急にデートしろだのと目の前で言われ始めたのだから、全く理解不能だろう。後者に関しては事情を知っている僕だって意味不明だ。
だが、なぜか辻谷は不意に何かを悟ったように頷いて、村雨に向けて不敵な笑顔を見せた。
「……なるほどなるほどー。状況はよく分からないけど、とりあえず雫ちゃんは山城と二人で一緒に遊ぶことに楽しさとか嬉しさを感じてるってわけかー」
「は!? ちょ、ちょっと辻谷君、何言ってるの? 誰もそんなこと言ってないでしょう!」
慌てたように否定する村雨の言葉を聞いていないように片手を広げた辻谷は、次に僕に寄ってきて、意味深に肩に手を置いてきた。
「なあ山城よ……俺は、お前を応援している。それは同時に、雫ちゃんも応援してるってことだ。察するに、雫ちゃんが今からしようとしていることは、きっと桐島園加のためになることなんだろう。雫ちゃん、根は優しいからな。そして、それはお前にしか出来ないことだってことも流れから何となく分かる。だとすれば、お前はそんな雫ちゃんの思いを無駄にしちゃいけない。一度身を引いてまで他人を助けようとしている優しい彼女の気持ちを、決して無為にしてはいけないんだ。……分かるな?」
「お前は一体何なんだ……」
時々こいつのことがよく分からなくなる。結局何が言いたいんだ。しかも事情が分かっていない割にはかなりぐいぐい来るし、本当は分かってるんじゃないだろうな。
「あの、私は、何が何だか全然分からないんだけど……」
坂倉があたふたと僕らの顔を見ながら、困った顔で首を傾げる。そう、これが正しい反応だ。坂倉は期待を裏切らないな。僕は嬉しいよ。
「――と、とにかく! 今日やることは、この前の零と明日葉明日香のデートの再現! 私たちはその手伝い! 分かったわね?」
はてなマークが飛び交う場への有無を言わせない物言いに、全員が黙って頷く。その様子に満足したのか、村雨はふんと鼻を鳴らして、再び先へと歩きだした。
しかし、デートの再現だって?
そもそもデートなんかしていた覚えはないんだけどなあ、と内心でぼやく僕の視界に、桐島園加が入った。彼女は相変わらずの無表情で村雨の後姿を見ていたが、ふと僕に視線を移し、こんなことを言った。
「うーん、なんだか分からないけど、せっかくの村雨さんの厚意みたいだし、素直に受け取っておこうか? よろしくね、零君」
「う、うん、そうだね。納得はあまり出来ないけど、とりあえずよろしく」
僕が彼女の最期に放った言葉の違和感に気づくのは、それからしばらくしてのことだった。
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