上 下
36 / 71
第六章 家族で異世界転移した日本人との出会い

5、一触即発?! プリン堂の包囲網~危険なレシピ

しおりを挟む
 プリン堂は、行列の出来るスイーツ店だった……。二つ目の鐘が鳴ると、直ぐに人が増えて40人を超えていた。
 プリンとケーキを一日交代でに売り出す。限定200個一人5個迄であり、すでに買えない人が出ていそうだ。

 売り子さんは、若いモニカさんと30~40歳くらいのドリスさんバーサさんの女性三人に、花織さんと花音ちゃんが加わる。
 和弘さんは、見ているだけのようだ。ボク達も見物を決め込む。

 売り子の女性の一人モニカさんが、先に購入数を聞いてカウントして、買えない人にそのことを伝える。
 販売を始めると、1時間かからずに売り終わった。

「今日も売り切れるの早いですね」

 花織さんに、モニカさんが言うとドリスさんとバーサさんもニコニコして話し出す。

「ええ本当に、これで一日分の日当をもらえるなんてねぇ」
「店長もっと作ってくれれば、どんどん売りますよ」

「仕入れと、加工が追いつかなくてね……これ以上作るわけにも行かないんだ」
「加工に魔力を使いますものねぇ」

 空野家の夫婦が答える。

「お手伝いできる事があったら、何でも言ってくださいね」

「ええ、ありがとうモニカ」

 にこやかに会話が続くのだが……。

『カイト~』『なんか、こわい~』
『『『この人たち、変だよ~』』』

 ぽち、たま、うさ子のセンサーが笑顔の影に何かを感じていた。

 何事もなく、別に取り置きしてあるケーキで一服して、プリン堂のお仕事は終了になる。

『『『お疲れ様でした』』』

 無事に三人の売り子さんが帰っていった。



「……内門の中の貴族の使いで、買いに来ている者も多そうですね」

「プリンもケーキも美味しすぎます。貴族でも口にした事は無かった味でしょうね」

 ブランカさんが言うと、マリアさんも頷いて答える。
 先ほどのモニカさんへの答えがウソだと知っているボクは聞いてみた。

「すごく流行っているんですね。もっと沢山作らないんですか?」

「儲け過ぎてもね……薄利多売して労働時間を増やしたくもない。それにカイト君、僕は異世界で手品師になったのだよ?」

「……?」

「働きたくないでござる! 出来るだけ~働きたくないでござる! 甘いもの店は、手品師の仕事じゃないでござる」

 ダ、ダメな大人だ……この人。
 花織さんが呆れた顔をして、花音ちゃんがため息をついていた。



「売り子の女性3人は、レシピとか狙ってませんか?」

 ボクは、気になっていることを聞いてみた。

「何度も料理スキルが特殊で、普通では作れないって言ってあるんだけどね……」

「諦めてないっぽいですよ」

 空野家一同、頷いている。あの三人がレシピに興味があるのは承知してたみたいだ。

「三人とも商人ギルドの紹介で、身元は確かなんだけどね」
「モニカさんなんか、マリアクア商人ギルド支部長の娘さんなんですよ」

「……ギルド長の娘ですか?」
「普通、やりませんね。流行の店とはいえ、ギルド長の娘が売り子の仕事なんて」

 空野夫婦の言葉に、ブランカさんマリアさんが応じる。日本と違って、この世界のそこそこお金持ちの娘は、アルバイトなんてしないようだ。

「商業ギルドに冒険者ギルド……他にも町には適当にお金を落として、恨まれない様には考えていたんですがねぇ~」

 色々考えて地域に根を張っていたらしい。ダメな人かと思っていたが、ちゃんとした大人だった。

「そうそう私が、近所づきあいは大切だって言い聞かせてきましたから……」

 ……花織さんが。

「私の料理スキルが特殊で、それが必要と言うのも、予防線として話しておく事に決めてたんです」

「僕が料理のスキルを使って、スキルの特殊性を教えてあげたんだよ。催眠術じゃなく魔法だけど、辛いものが甘くなるとか……やってみたかったんだよね~」

「えっでも、その特殊な料理スキルを家族で使えるって、割りと楽に習得可能だって思われてませんか?」

 やはり余計な行動だったらしく、和弘さんをみる花織さん花音ちゃんの目が冷たい。

「モニカさんは、お兄ちゃん狙いだったかも?」

「結婚して身内に取り込む……まあ、平和的な手段ですね」

 花音ちゃんが、お父さんに助け舟を出してあげる。マリアさんの言葉に一同頷いている。あとの二人はどうなのだろうか……。


 翌日、ボク達はドリスさんの後をつけた。遠くから、家の中にいるドリスさんの会話を、うさ子の聴覚で拾っていく。

「はぁ~っ、出来ないねぇ。材料はこれで良いハズなんだけどねぇ」

「やっぱり、特殊な料理スキルとやらが必要なんじゃないか?」

「……悔しいねぇ、これが出来れば二人で大金持ちになれるのに」

「ドリスは、料理スキル持っているのにな。覚えられないのか?」

「う~ん、近くに居て何とか覚えてやろうって気を張り詰めてるんだけどねぇ」

「スキルは、簡単に覚えられるものじゃないからなぁ。でも、ドリスならきっと出来る、頑張れ」

 激しく抱き合って、服を脱ぐ音、昼間から……。

 ウェ~聞きたくない、うさ子ストップ! ドリスさんは、問題ないようだった。


 その次の日、キャリーバックにぽち、たま、うさ子を背負いボクは、バーサさんの後をつけた。
 そして平民だった筈のバーサさんは、貴族や兵士達の家がある内門の中に消えていった。

 そのまま内門の外の道を北に歩きながら、せめて会話を拾えないかと、うさ子に音を追わせていく。

『カイト誰か来る』『さんにん~』
『くる~』

 内門から20分ほど北に来たところで、三人の男が出てきた。……ん、若い?
 彼らの方を見て、訝しげに首をひねって無言で問いかける。

「おまえかっ! 最近、花音にくっついてるよそ者は!」
「花音はオレ達のパーティに入るんだからな!」
「ちょっかい出してんじゃね~ッ!」


 ボクは緊張が解けて、思わず呟いた……。

「はぁ~、別口かよ」

『花音もくる~』『あと5分くらい~』
『カイト、もてもて~?』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

『購入無双』 復讐を誓う底辺冒険者は、やがてこの世界の邪悪なる王になる

チョーカ-
ファンタジー
 底辺冒険者であるジェル・クロウは、ダンジョンの奥地で仲間たちに置き去りにされた。  暗闇の中、意識も薄れていく最中に声が聞こえた。 『力が欲しいか? 欲しいなら供物を捧げよ』  ジェルは最後の力を振り絞り、懐から財布を投げ込みと 『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』  それは、いにしえの魔道具『自動販売機』  推すめされる商品は、伝説の武器やチート能力だった。  力を得た少年は復讐……そして、さらなる闇へ堕ちていく ※本作は一部 Midjourneyにより制作したイラストを挿絵として使用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

処理中です...