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異世界驚嘆中

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 神の怒りをかって一夜にして海底に沈んだ伝説の島。
 アトランティスも似たような伝説だったはずだ。


「我らの過ちを悔いるにはあまりに大きな犠牲じゃった。『神』の力の前に我らはひれ伏し、己が誤りを悟り、二度と同じ事を繰り返さぬよう自らとその子々孫々までを戒めて、今日に至る」


 うん。
 よっぽど怖かったんだろうな。
 島ひとつ沈めば無理もないか。

 多分その島が沈んだのは、地殻変動とか大地震とかの影響なんじゃないかとは思うけれど、それを機に戦争をすっぱり止められるとかって凄いと思う。
『神』という存在を無条件に信じ、怖れ敬うこの世界の住人ならではの事なんだろうけれど、俺はそっちの方こそよっぽどスゴイ奇跡だと感心した。


「我らが悔い改め、3種族全ての巫女で『神』への祈りを捧げた時に、『神』よりお告げがあった。我らの祈りに免じ、今後再び調和が乱れる兆しがあった時には、この世界に救世主を遣わそうと」


(それが、傍迷惑な救世主伝説かっ!?)


『いつの日にか、再びこの地の調和に危機が迫った時、金と銀の光を従えし者が降り立ち、全ての人々を救うだろう』


 それこそが正しい救世主伝説だった。



「では、やはり救世主は――――ユウは、奴隷となった我ら獣人を人間より解放し、この世界に調和をもたらしてくれる存在なのではないですか?」

 ティツァが勢い込む。

 止めてくれ……俺にそんな重責は無理だ。
 俺にとって幸いな事に、ヴィヴォは頭を横に振った。


「たしかに、人は獣人を奴隷としておる。また海の向こうでは、有鱗種がかつての我らのように人を奴隷としておるそうじゃ。我らの犯した過ちが再び繰り返されるのか、そしてそれが調和の乱れる兆しであるのかどうか、わしには判断がつかぬ。救世主が何をどうしてこの世界を救うのかという詳細は『神』の予言にはない。……ただ、『神』は我ら獣人だけの『神』ではあられぬ。光があまねく全てを照らし、闇が全てを包むように、『神』はこの世界に生きとし生ける全てのものの『神』じゃ。己が為のみの願に『神』が応えられることは、ない」


 う~ん。流石大バ○様、言う事がカッコいい。
 要は、――――そんなもんわかるかい! 自分の都合の良いように考えてんじゃねえぞっ――――って事なんだろうけど、そのまま言ったんじゃ身も蓋もないものな。
 ヴィヴォみたいに言われたら誰だって「ははぁ~っ」って畏まってしまいそうだ。

 ……相変わらず、俺って白けた人間だと思う。

 ティツァはそれでも自分の意見を引っ込めたくはないようだったが、それ以上ヴィヴォに逆らうことはなかった。
 結果、ティツァとフィフィは俺の守護者として俺を守る存在になったのだった。


 フィフィだけで十分なのに。
 まあ、口を開けば「殺す!」って言われなくなったのはありがたいけれど。


 ◇◇◇


 という訳で、今の俺のこのジェットコースター状態も、決してティツァに脅された上での無理強いではなかった。
 王都に戻って来た俺が、ティツァの言っていた不審人物に会いたいって言ったからだ。

 だって、気になる。
 救世主なんてもんじゃない俺に、大して何かができるとは思わないけれど、その不審人物の話をちょっと聞いて、もし他国のスパイだったりしたらそれとなくアディに忠告するくらいはできるんじゃないだろうか?

(それくらいは、しないとな)

 王太后さま公認とはいえ、まるっきり獣人側とツーカーになってしまった俺としては、アディにもの凄く後ろめたかったのだ。

 思い出し考えこんでいる間に、俺にとっては永遠に続く責苦のようなジェットコースターも、ようやく終点に着いたようだった。

「降りろ」

 ぶっきらぼうに言うと、ティツァはそれでも俺をそっと降ろしてくれた。
 ふらつく俺の腕を、「まったく」と呆れながらも掴まえて支えてくれる。

「あ、ありがとう」

「――――こっちだ」

 腕を引っ張られて俺はティツァの後を追う。
 目の前をパタパタ揺れる尻尾が可愛く見えるのは仕方ない事だろう。
 笑ったりしないさ。俺だって命は惜しい。


 狭い路地をくねくね曲がって、古ぼけた石造りのドアをくぐった途端。


『早く俺をこの国の王の元に連れて行け! 手遅れになるぞ。この街が火の海になってもいいのかっ!?』


 聞こえてきたのはとんでもない内容の怒鳴り声だった。


 …………聞かなかった事にしたら、ダメなんだろうな。
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