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ミナはミナでした

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ミナは飛び上がりたいほど嬉しい気持ちを押し込めてハルトムートの方を向いた。

「ハルトムートさま、私と一緒に来てくださいますか?」

真っ直ぐ手を差し伸べる。
ハルトムートは、どこか呆然として見返してきた。


「……俺と、一生? いや五年?」

「一生でも五年でも何年でもいいじゃないですか。好きなときに好きなだけ好きなところに行くんです! 私は私が自由気ままにできるのに、ハルトムートさまができないなんてイヤですからね。そりゃあ世の中わがままが通らないこともままありますけれど、それでも自分の意志で我慢するのと強制的に我慢させられるのでは大違いです!」

同じ止まり木に止まっている鳥でも、風切羽を切られた鳥とそうでない鳥では大違い。
ハルトムートには、ぜひこの機会に自由に飛べる権利を得てほしい!


「……俺のため?」

「私が好きでハルトムートさまといたいのですから、私のためです!」

「…………なんだそれ?」

ハルトムートは、脱力した。
そして「クック」と笑い出したのが、やがて「アハハ」になり、ついには大声で笑い出す。
あんまり笑いすぎたせいなのか、目尻に涙が滲んでいた。


「…………ありがとう。ミナ」

涙でキラキラ光る黒い目が、こちらを見る。

「一緒に来てくださいますか?」

「ああ。行こう。一生お前と一緒に。どこへでも飛んでいきたい」

大きく頷いてくれた。
それを見たミナは心の内でガッツポーズを決める。

(やったぁ~! これで、ハルトムートの自由ゲットやでぇ~!!)

とったどぉ~!と、叫び出したい気分だ。
その興奮をおさえきれぬまま国王に向き合う。


「ハルトムートさまの同意はとりました。陛下、私にハルトムートさまをください!」


一周回って最初の『お願い』に戻っている。
しかし、もはや国王にはそこにツッコむ気力がなかった。

「わかった」

王冠を戴く頭がゆっくりと呟く。
そして――――

「自由にせよ。大きな力と翼を持った子らよ。元々私にそなたらを縛り付けるような力はなかったのだ」

さすが国王、続いたのはなんとなく含蓄のある言葉だった。
もっとも――――

「うまいことまとめても、お父さまの特訓コースはなくなりませんよ」

即座にミナに言い返され、ガックリと項垂れてしまうあたりはなんともしまらない。


ともかく、これでミナはハルトムートと自由にあちこち旅ができることになった。
天に届くと噂される北の山脈も、目に鮮やかな南の島々も、どこに行くのも思いのまま。

「どこへ行こう?」

ポツリと呟けば、ハルトムートが満面の笑みを向けてきた。

「どこだっていいさ。そこにお前がいるのなら、きっとどこでも楽しい。……永遠にお前と共に歩いて行こう。……俺と、一生添い遂げてくれるか?」

ハルトムートは、そう言いながら自分の両手でミナの両手を取り、キュッと握りしめてきた。
顔をのぞき込まれれば、不覚にもドキッとしてしまう。

(だって、だって、だって! 一生添い遂げるなんて!! ……まるでプロポーズみたいなんやもん!)

よくよく考えてみれば、ミナは先ほど自分から「ハルトムートさまをください」と願っている。
ハルトムートからも「一生お前と一緒に」と返してもらっていた。
既に結婚の約束みたいなセリフを二人は交しているのだ。


(いや! あれは、その……そんなつもりやなくて! それは、私だって一生添い遂げたい! …………けどっ!?)


今さらながら、恥ずかしくなってきた。
顔に熱が集まり、ハルトムートを見ていられなくなって、下を向く。
それでも――――


(ええいっ! 女は度胸や!!)

「………………はい」

小さな声で返事した。
――――ちなみに『男は度胸、女は愛嬌』であるのは言うまでもないだろう。

ハルトムート取られている両手が、ギュッと痛いほど握られた。

「そんな顔、反則だろう」

唸るような声まで聞こえて「え?」と顔を上げる。
そこにあったのは、ゆでだこみたいに赤くなっているハルトムートの顔。


(えっと? これって、ハルトムートもあたしと同じように感じているって思ってええんか? つ、つまり…………)

ミナの頬が熱くなる。

(あたしとハルトムートは………………極度の、”恥ずかしがり屋”なんやな!!)






ミナは――――ミナだった。
どうしてここで、その結論になるのだろう?
もっと甘い想像に向かえないところがなんとも残念。

「ミナ、俺は――――」

それでもハルトムートは、一歩踏み出そうとした。
両手を離さずに距離を詰める。

しかし、そこにいつものような邪魔が入るのはお約束で。


「――もちろん“私”も一生添い遂げるぞ」

キツく握っていたはずの手を、こともなげに引き離すのは、言わずもがななレヴィアだった。

「ニャー」

ナハトも一声鳴いて姿を現す。
黒い魔獣は、果たして『自分も』と言ったのか、はたまた邪魔をしたレヴィアに呆れて鳴いたのか?

「一生、いいですな。当然私も一生お供します」

言葉と同時に現れたガストンは、ドンマイとでも言うように、ハルトムートの背中を叩く。

「やっぱりミナだよなぁ。……うん。なんかホッとした。あのままの雰囲気だと、一緒に旅なんて馬に蹴られそうで行けないと思ったけど……これなら行けるよ。よかった」

ホッとして胸をなで下ろすのはルーノ。

「ぜんぜんよくないでしょう! もう! あと一歩なのに! どうしてこうなっちゃうんですか? ……もう、決めました! 私の旅の目的は、お二人の満願成就を見届けることにします!」

ルージュは、グッと拳を握りしめた。
果たしてその成就は、ハルトムートはともかく、ミナの満願になるのだろうか?

わらわらと湧いてきたいつものメンバーに、ハルトムートは大きなため息をこぼした。




「まあいいか。これからいくらでも時間はあるからな。……逃がすつもりは絶対ないし」

不穏な言葉が聞こえたが、意味を聞き返す前にアウレリウスに話しかけられる。

「……そんなにすぐに旅立つわけではないのだろう?」

どこか寂しそうな兄は、既に学園を卒業してバリバリに働いている。
当然一緒に旅に出られるわけもなく、複雑な心境なのだと思われた。
同じく父のエストマン伯爵も、なんだか涙目になっている。

「お前たちが帰ってくるまでには、私が責任持って“こいつら”の再教育をしておくからね。安心して行っておいで」

父の言う“こいつら”が国王陛下と王妃さま、そして王太子なのは問題だと思うが……それでも「行くな」と言わないところが嬉しい。

「ミナ、私たちの可愛い娘。……陛下のお言葉通り、あなたは大きな力と翼を持つ自由な鳥。あなたが飛び立ってしまうだろうことは、私たちなんとなくわかっていたのよ。だから、その時が来たら笑って見送ろうって約束していたの」

笑ってと言いながら、母は泣き出しそうな顔で微笑む。

「……いってらっしゃい。私の娘。必ず元気で帰ってきてね」

母に駆け寄ったミナは、「必ず!」と言って抱きついた。

(ああ。あたしの家族はええ家族や。めっちゃ幸せや!)

「だから! 今すぐには行かないだろう!! っていうか、行っちゃダメだ、ミナ。ちゃんと準備して、それからでないと、私は認めないからな!」

アウレリウスの剣幕に、ミナは笑って頷く。

ミナとてこの場から直接旅立つつもりなどない。
なにせ、どこに行くのかもまだ決まっていないのだから。


それでも、近い将来ミナはハルトムートやレヴィアたちと旅立つことだろう。


母から離れたミナの手をハルトムートが握った。
見上げれば、力強く輝く黒い瞳が見つめてくる。

「そうだな。きちんと準備して、一緒に行こう」

「はい。一緒に行きましょう!」

ゲームでしか知らないこの世界の本当の姿を見るために。
待っているのは、艱難辛苦の旅ではなく、楽しい物見遊山の旅だ。

(そしてお笑いを普及させるんや!)




乙女ゲームではなく、壮大なファンタジーRPGの世界に転生したミナ。
彼女の新たな旅は、ここからはじまるのだった。







◇◇◇
これにて本編終了です!
しかし、これではジャンル(異世界恋愛)詐称に(涙p>Д<。q)・。
…………ということで、あと一話ほど続きます!
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