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雰囲気は大切です
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犯人を割り出すことは諦めたミナだったが、犯人の動機を探ることを諦めたわけではない。
「いったいどうしてハルトムートさまの近衛騎士団が使っていた魔道ランプを、魔獣の大発生現場に持って行ったりしたのかしら?」
もちろん、それは見つけた破片が魔道ランプの欠片だという前提の上に成り立つ疑問だ。
そもそもそこが確定していないのに、考えるのはどうなのだとも思うのだが、それくらいしか手がかりがないので、仕方ない。
「どう思う?」
「…………お前なぁ」
首をコテンと傾げミナ的には最高に可愛らしく聞いたのに、目の前の人物は大げさにため息をついて頭を抱える。
「どうして俺に聞く?」
「だって、私よりハルトムートさまの方が、王宮事情に詳しそうなんですもの?」
「だからって、本人に聞くな!」
――――不合理である。
一番最適な方法があるのに、どうしてそれを避けなければいけないのだろう?
「ハルトムートさま、怒るだけムダです」
「ミナですから」
ルージュもルーノもヒドいと思う。
「……それで、どうなんですか?」
いつもの夜の訓練時、久々に全員揃った顔ぶれを前に、ミナはもう一度ハルトムートに聞いた。
別々の学科に進み、それぞれの都合ができ、こうしてみんな揃うのは本当に久しぶりなのだ。
「俺の近衛なんて言っても、実際に会うのは団長と副団長くらいだからな。あいつらが普段何をしているのかなんて知ったことじゃない」
ハルトムートと彼の近衛騎士団は、仲が悪いらしい。
なんでも、ハルトムートの属性がわかるまでは、おべっかの使いまくりでおだてていたくせに、闇属性だとわかった途端、団長を筆頭に退団者が続出。ハルトムートがエストマン伯爵家に行くと同時に解散されたが、既にそれ以前から崩壊していたも同然だったらしい。
今回、高位の妖精闘士を従えて王宮に帰ってきたことを機に、再び近衛騎士団が結成されたのだが、厚顔無恥にも戻ってこようとした騎士たちがいて、全員叩きだしたと言ってハルトムートは笑った。
「騎士団長と副団長は、それで少しは見所があるらしいが……はっきり言って、俺は、近衛騎士などいらない」
ガストンがいるのだ。武力的には問題ないだろう。
「でも、対外的には必要なのではないですか?」
「近衛のいない王族はいないものな?」
ルージュとルーノも、肯定的に聞こえるが、近衛騎士本来の仕事としてはいらないと言っているも同然だ。
「あら、いるに決まっているでしょう? 近衛騎士は一応上級騎士になるんだもの。実戦で使い物にならない身分だけは高い騎士の受け皿って、平和時にはなくてはならないものだと思うわ」
「…………お前の言い方が、一番身も蓋もないな」
ミナの言葉に、ハルトムートが顔をしかめた。
失礼千万である。
いろいろ言ってやりたいことはあるが、今話題にすべきなのは、近衛騎士の要不要論ではない。
「ハルトムートさまが、我が家にいた間、解散された近衛騎士の方たちはどうしていたんでしょう?」
既に崩壊していたも同然とは言え、形だけでもハルトムートの近衛騎士はあったはずだ。
その騎士たちはどうしていたのだろう?
(大量のリストラ出したんやから、なんとかしようとするんやないやろか? 上級騎士なんやし、首を切られてハイサヨナラってわけにはいかへんやろ?)
「たしか、他の近衛騎士団に配属されたはずだ。一番多かったのは兄のところだったと聞いている。第二王子から王太子の近衛騎士になれて、みんな大喜びだったらしいぞ」
それもどうかという話だ。
近衛には、自分の主君を守りたいとか、主君に忠誠を誓うとか、そういう志はないのだろうか?
むぅっと、顔をしかめれば、よほどおかしな顔だったのか、ハルトムートがポンポンと頭を撫でてくれた。
「気にするな。言っただろう? あいつらなんていらないと」
それはそうだが、気に入らないものは仕方ない。
(――――まあ、それはともかく。…………ハルトムートさまの近衛騎士団は、最初に魔道ランプの欠片を見つけた時には、解散されて存在しなかったんやな? なのに、どうして魔獣の大発生現場に、欠片があったんやろう? 以前支給されていたものをそのまま使ってたんか?)
そうだとしたら、あの場所に近衛騎士もしくは元近衛騎士がいたことになる。
近衛が守るべき主もいないのに、現場に出向くなんてあるのだろうか?
今回の討伐だって派遣されたのは、実戦部隊の騎士団だった。
彼らは、自分たちが黒い魔道ランプを使っていないと明言してくれたのだ。
うんうんと悩むミナの前にレヴィアが現れた。おでこをピンと指ではじかれる。
「痛っ! なにするんや!?」
「は?」
「――――あ! えっと、何をするの?」
咄嗟に出た関西弁を慌てて言い直すミナに、レヴィアは呆れた視線を向ける。
「わけのわからないことで、いつまでもうじうじと悩んでいるからだ。答えの出ない問いに頭を使うよりも、もっと有効的なことがたくさんあるだろう?」
悔しいがレヴィアの言う通りだった。
「……そうよね。答えがわからないのは悔しいけれど、どんな答えになったとしても、それをねじ伏せるほどの力をつければいいのよね」
「…………いや、それもどうかと思うぞ」
ハルトムートのツッコミは聞こえないことにする。
「結局そうなるのね」
「やっぱりミナだ」
ルージュとルーノも以下同文。
「よし! 頑張るわよ! 目指せ、打倒! 近衛騎士!!」
「どうしてそうなった?」
(そんなん、雰囲気に決まってるやろ!)
細かいことは気にせずに走り出すミナだった。
「いったいどうしてハルトムートさまの近衛騎士団が使っていた魔道ランプを、魔獣の大発生現場に持って行ったりしたのかしら?」
もちろん、それは見つけた破片が魔道ランプの欠片だという前提の上に成り立つ疑問だ。
そもそもそこが確定していないのに、考えるのはどうなのだとも思うのだが、それくらいしか手がかりがないので、仕方ない。
「どう思う?」
「…………お前なぁ」
首をコテンと傾げミナ的には最高に可愛らしく聞いたのに、目の前の人物は大げさにため息をついて頭を抱える。
「どうして俺に聞く?」
「だって、私よりハルトムートさまの方が、王宮事情に詳しそうなんですもの?」
「だからって、本人に聞くな!」
――――不合理である。
一番最適な方法があるのに、どうしてそれを避けなければいけないのだろう?
「ハルトムートさま、怒るだけムダです」
「ミナですから」
ルージュもルーノもヒドいと思う。
「……それで、どうなんですか?」
いつもの夜の訓練時、久々に全員揃った顔ぶれを前に、ミナはもう一度ハルトムートに聞いた。
別々の学科に進み、それぞれの都合ができ、こうしてみんな揃うのは本当に久しぶりなのだ。
「俺の近衛なんて言っても、実際に会うのは団長と副団長くらいだからな。あいつらが普段何をしているのかなんて知ったことじゃない」
ハルトムートと彼の近衛騎士団は、仲が悪いらしい。
なんでも、ハルトムートの属性がわかるまでは、おべっかの使いまくりでおだてていたくせに、闇属性だとわかった途端、団長を筆頭に退団者が続出。ハルトムートがエストマン伯爵家に行くと同時に解散されたが、既にそれ以前から崩壊していたも同然だったらしい。
今回、高位の妖精闘士を従えて王宮に帰ってきたことを機に、再び近衛騎士団が結成されたのだが、厚顔無恥にも戻ってこようとした騎士たちがいて、全員叩きだしたと言ってハルトムートは笑った。
「騎士団長と副団長は、それで少しは見所があるらしいが……はっきり言って、俺は、近衛騎士などいらない」
ガストンがいるのだ。武力的には問題ないだろう。
「でも、対外的には必要なのではないですか?」
「近衛のいない王族はいないものな?」
ルージュとルーノも、肯定的に聞こえるが、近衛騎士本来の仕事としてはいらないと言っているも同然だ。
「あら、いるに決まっているでしょう? 近衛騎士は一応上級騎士になるんだもの。実戦で使い物にならない身分だけは高い騎士の受け皿って、平和時にはなくてはならないものだと思うわ」
「…………お前の言い方が、一番身も蓋もないな」
ミナの言葉に、ハルトムートが顔をしかめた。
失礼千万である。
いろいろ言ってやりたいことはあるが、今話題にすべきなのは、近衛騎士の要不要論ではない。
「ハルトムートさまが、我が家にいた間、解散された近衛騎士の方たちはどうしていたんでしょう?」
既に崩壊していたも同然とは言え、形だけでもハルトムートの近衛騎士はあったはずだ。
その騎士たちはどうしていたのだろう?
(大量のリストラ出したんやから、なんとかしようとするんやないやろか? 上級騎士なんやし、首を切られてハイサヨナラってわけにはいかへんやろ?)
「たしか、他の近衛騎士団に配属されたはずだ。一番多かったのは兄のところだったと聞いている。第二王子から王太子の近衛騎士になれて、みんな大喜びだったらしいぞ」
それもどうかという話だ。
近衛には、自分の主君を守りたいとか、主君に忠誠を誓うとか、そういう志はないのだろうか?
むぅっと、顔をしかめれば、よほどおかしな顔だったのか、ハルトムートがポンポンと頭を撫でてくれた。
「気にするな。言っただろう? あいつらなんていらないと」
それはそうだが、気に入らないものは仕方ない。
(――――まあ、それはともかく。…………ハルトムートさまの近衛騎士団は、最初に魔道ランプの欠片を見つけた時には、解散されて存在しなかったんやな? なのに、どうして魔獣の大発生現場に、欠片があったんやろう? 以前支給されていたものをそのまま使ってたんか?)
そうだとしたら、あの場所に近衛騎士もしくは元近衛騎士がいたことになる。
近衛が守るべき主もいないのに、現場に出向くなんてあるのだろうか?
今回の討伐だって派遣されたのは、実戦部隊の騎士団だった。
彼らは、自分たちが黒い魔道ランプを使っていないと明言してくれたのだ。
うんうんと悩むミナの前にレヴィアが現れた。おでこをピンと指ではじかれる。
「痛っ! なにするんや!?」
「は?」
「――――あ! えっと、何をするの?」
咄嗟に出た関西弁を慌てて言い直すミナに、レヴィアは呆れた視線を向ける。
「わけのわからないことで、いつまでもうじうじと悩んでいるからだ。答えの出ない問いに頭を使うよりも、もっと有効的なことがたくさんあるだろう?」
悔しいがレヴィアの言う通りだった。
「……そうよね。答えがわからないのは悔しいけれど、どんな答えになったとしても、それをねじ伏せるほどの力をつければいいのよね」
「…………いや、それもどうかと思うぞ」
ハルトムートのツッコミは聞こえないことにする。
「結局そうなるのね」
「やっぱりミナだ」
ルージュとルーノも以下同文。
「よし! 頑張るわよ! 目指せ、打倒! 近衛騎士!!」
「どうしてそうなった?」
(そんなん、雰囲気に決まってるやろ!)
細かいことは気にせずに走り出すミナだった。
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